主要新興各国の腐敗防止法制
(比較的金額が低い贈賄行為にも適用される可能性のある規定のみを取り上げています)
国 |
法律 |
贈賄行為等 |
罰則 |
インドネシア(*1) |
1999年法律第31号第13条
|
公務員への贈答の供与、あるいはその約束をした者 |
3年以下の禁固または1億5千万ルピア以下の罰金(併科あり) |
タイ |
改正腐敗防止法 [Organic Act on Counter Corruption, No.3 B.E. 2558 (2015)] |
贈賄罪・外国公務員贈賄罪 |
5年以下の懲役・10万バーツ以下の罰金 法人には、適切な内部措置を講じていないことを要件として、賄賂額の2倍以下の罰金 |
インド |
腐敗防止法 [Prevention of Corruption Act, 1988] |
インドの公務員に対する、インド国内外の個人または法人による便益(gratification)の提供。 (「便益」の定義はない。金銭的便益や金銭的に評価できる便益に限られないとのみ規定。) |
6か月以上5年以下の懲役および/または罰金 (罰金について、明確な上限規定はなお。受領した金品の価値を考慮して定めるとのみ規定。) |
フィリピン |
刑法
汚職行為防止法(*2) (共和国法第3019号) |
公職・公務員に対する贈賄
刑法とは別途重複して罰せられることがある |
刑法では、賄賂の申し出又は提供を行った民間人には、賄賂を受け取った側に科される罰則と同じ罰則が科される。(*3) |
中国 |
刑法
不正競争防止法 |
贈賄罪(389条) (国の職員に対して財物を供与した者) 商業賄賂罪(164条) (民間も含む)
事業者は、次の各号に掲げる組織又は個人に賄賂を贈り、取引機会又は競争優位を得ようとしてはならない。 (1)取引相手方の従業員。 (2)取引相手方の委託を受けて関連の事務手続を行う組織又は個人。 (3)職権又は影響力を利用して取引に影響を及ぼす組織又は個人。 (7条)(*5) |
贈賄罪を犯した者は5 年以下の懲役又は拘役。(*4) 不正な利益を取得するため、会社、企業又はその他の単位の職員に財物を与え、その金額が比較的大きい者は、3 年以下の懲役又は拘役。
これらの行為が「犯罪を構成する場合は、法に従い刑事責任を追及する。犯罪を構成しない場合は監督検査部門が違法所得を没収し、10 万元以上 300 万元以下の過料を科すことができる。情状が重大である場合、営業許可証を取り消すことができる。」(同法19 条) |
ブラジル |
法律12,846号(汚職防止法)[Lei 12,846/2013 (2013)]
刑法(*6) |
ブラジルにおいて事業を行う会社に、国内及び外国の「公共機関(public administration)」に対する「有害行為(harmful acts)」を禁止。(*7) |
司法罰と行政罰がある。 (*8) |
(*1)インドネシアでは「判事への贈答」なんて罪も定められている。
また、2003年に警察や検察とは独立した汚職撲滅委員会(KPK:Komisi Pemberantasan Korupsi)なる汚職犯罪撲滅組織が設置され、精力的に汚職撲滅に取り組んでいる。
(*2)フィリピンの汚職行為防止法
法第3条に(a)~(k)まで11類型の「汚職行為」が列記されている。
役員/公務員に汚職を教唆・誘引した者は、本人と同罪(1年以上10年以内の懲役、公務員資格の永久剥奪、犯罪行為による収益の没収)に問われる。
(*3)フィリピンの刑法に定める収賄罪
「直接的収賄」(役人又は公務員が、自己の職務と関連する行為を実施した対価として、贈答品を受領すること)で有罪となった者には、6年以上10年以下の懲役及び最高で賄賂額の3倍程度の罰金。
「間接的収賄」(役人又は公務員が自己の職位を理由に提供された贈答品を受領すること)で有罪となった者は、2年4ヶ月以上6年以下の懲役に科される。
(*4)中国の刑法の贈賄罪には「金額に応じた刑罰基準」がある。
・刑事責任追及基準=贈賄金額1 万元以上→5 年以下の懲役又は拘役
・情状が重い場合=贈賄金額20 万元以上、100 万元未満→5 年以上10 年以下の懲役
・情状が特に重い場合=贈賄金額100 万元以上→10 年以下の懲役又は無期懲役。財産没収を併科
(*5)中国の不正競争防止法(2018年1月1日施行の改正法)第7条によると、
① 収賄者は取引の相手方の「従業員」に限られており、相手方である会社は対象から除外されている。(しかし、賄賂性の強い支払であれば帳簿に記帳されることはないので、後述の③により処罰される可能性が大である。)
② 贈賄側事業者の従業員が賄賂を贈った場合、事業者の行為とみなされる。ただし、事業者に当該従業員の行為が事業者の取引機会又は競争優位の獲得と無関係であることを証明する証拠がある場合を除く。
③ 事業者は、取引活動において、明示の方法により取引相手方に値引きを行い、又は仲介人にコミッションを支払うことができるが、それをした場合は事実通りに記帳しなければならない。また、割り引きまたはコミッションを受けた事業者も事実通りに記帳しなければならない。
(*6)ブラジル刑法第333 条
贈賄: 公務員に対し、その職務に係る行為を行い、若しくは行わず、又は遅延させるようにするために、不正な利益を提供又は供与した者は、贈賄罪を行ったものとされ、2 年以上 12 年以下の拘禁及び罰金が科される。
(*7)ブラジル汚職防止法に定める「有害行為(harmful acts)」
「有害行為」は、極めて広く定義されており、公務員に対する不当な利益の実際の支払いや提供のみならず、当該活動を申し出、約束し、スポンサーし、又はその他の支援をすることも含む。
(*8)ブラジル汚職防止法に定める「司法罰」と「行政罰」
司法罰
① 違反から得られた直接又は間接の便宜又は利益に関係する財産、権利または利益の没収
② 事業活動の全部または一部の停止
③ 法人の強制的な解散
④ 最短で1年、最長で5年間、政府により支配されている公の機関、団体及び金融機関からのインセンティブ、助成金、補助金、寄付金、または借入金の受領禁止
行政罰(制裁)
① 行政手続きの開始前の事業年度にかかる総売上高(税抜)の0.1%~20%に相当する金額の制裁金
② 不利益を課す決定の特別の公表(extraordinary publication)
上記①の総売上高の基準を利用できない場合には、制裁金は6,000レアルから60,000,000レアルの範囲で定められる。