「ビジネスに関わる行政法的事案」第35回:高アルコール度数のお酒が売れ行き好調
第35回:高アルコール度数のお酒が売れ行き好調 神山 智美(富山大学)
はじめに
「まずは人数分の生ビールで」と飲み物を注文しておいて、料理を注文するのは、若手(若輩)と言われる領域の役割です。とはいえ、懇親会でのこうした光景は、今の大学生世代に異質のもののようです。
「はじめはビールでいい?」と尋ねると、皆、否定します。「わたし、ビール飲めませーん」「ビール苦いもん」「甘いのがいい」、、、等と皆口々に別の飲み物を注文します。はじめに「生絞りレモンサワー」「生絞りオレンジサワー」等という飲み物ですと、乾杯までに準備がかかりますね。
他方、ちょい飲み系のところや自分では「ストロング系酎ハイ」というものを好む学生も増えています。「ストロング系」というのはアルコール度数高めということで、7%以上のことを指すようです。ビールが4.5~5%くらいの度数が平均で、発泡酒はそれより低め、サントリー酎ハイの「ほろよい」シリーズが3%ですので、やはり「ストロング」ということになりますね。
今回は、この「ストロング系酎ハイ」というものにまつわるお話です。
「酎ハイ」とは
そもそも「酎ハイ」というのはどういうものなのか、というのが私の疑問でした。調べてみると、なるほどと思えましたので以下に記します(図表1参照)。
「酎ハイ」と「サワー」の違いで示します。「酎ハイ(チューハイ)」は、もともとは「焼酎ハイボール*」の略称なので、焼酎をソーダやトニックウォーターなどの炭酸飲料や、フレッシュジュースなどアルコールの含まれていない飲料で割ったものを指しているようです。現在では、焼酎ベースではないものもあるようです。
「サワー」は、英語のサワー[sour:酸味のある、酸っぱい]です。スピリッツ(ウィスキー、ジン、ウォッカ、ラム酒など)をベースに、柑橘類などの酸味のある果汁と、砂糖など甘みのある成分を加えて作るカクテルの一種に、ソーダを加えた飲み物です。
最近では、居酒屋などでも、「チューハイ」と呼ぶお店と「サワー」と呼ぶお店があるように、「チューハイ」と「サワー」はほぼ同じ意味で使われています。ただ、柑橘類などの酸味のあるフルーツの香りが伴うもの(レモンピールを搾りかけたものなど)は、「レモンサワー」等というように「サワー」というお店が多いように感じます。
*ハイボールとは、ウィスキーをソーダで割った飲み方で、カクテルの一種です。
ニューストロング系への批判
「ストロング系」または「ニューストロング系」といわれる飲み物をご存じでしょうか?アルコール度数の高い飲み物のことで、チューハイやサワーでは「9%」という目立った表記がなされているのが特徴です。その他、「ストロングビール」といわれるものも発売されています(図表2)。
こうした「ストロング系チューハイ」に関しては、2019年末に、精神科医の松本俊彦医師(国立精神・神経医研究センター薬物依存研究部部長)による「『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか。」との警告もなされています。
松本医師は続けます。「私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません。大抵の違法薬物でさえも、使用者はここまで乱れません。結局あれは『お酒』というよりも、単に人工甘味料を加えたエチルアルコール=薬物なのです。そして、ジュースのような飲みやすさのせいで、ふだんお酒を飲まない人や、『自分は飲めない』と思い込んでいる人でもグイグイいけます。そうした人たちが、ビールの倍近い濃度のアルコールをビール並みかそれ以上の早いペースで摂取すればどうなるのか。ただでさえ人類最古にして最悪の薬物といわれているアルコールですが、その害を最大限に引き出す危険な摂取法です。(以下略)」
さらに、松本医師は、「お酒はお酒らしい味をしているべきであり、公衆衛生的アプローチを考えれば、本来、酒税は含有されるアルコール度数の上昇に伴って傾斜すべきです。」とご自身のお考えを語られ、現況に警鐘をならされています。
酒税
酒税への言及があったので、ここでは酒税法について検討してみたいと思います。
酒税法とは、酒税の賦課徴収、酒類の製造及び販売業免許等について定めた法律です。アルコール分1度以上の飲料が「酒類」として定義されています(酒税法2条1項)。ただし、度数90度以上で産業用に使用するアルコールについてはアルコール事業法で扱われます。アルコール事業法は、酒類と同一の特性を有している工業用アルコールの利用に関する法律です。
酒税は、製造上から移出した酒類につき納税義務が発生します(6条1項)。問題になるのは、その税率です。これらは、酒類の分類ごとに決定されています(同法23条)。ここで紹介しているストロング系チューハイとストロングビールは、酒税法23条2項3号の「その他の発泡性酒類(下線部)」に該当します。ストロングビールは、ビールとも発泡酒とも異なるカテゴリーであることがわかります。また、“アルコール分が20度を超える1度ごとに1万円を加えた”などの規定があるように、概して“アルコール分が高い=酒税も高額になる”、という相関関係があるのですが、ストロング系飲料はアルコール分が高くても酒税は「8万円」に抑えられていることもわかります(図表3参照)。この部分が松本医師のご指摘のように、安価で十分酔えるので、現実逃避に使われやすい、または依存性高いドラッグのようだとも評されるゆえんです。ちなみに、酒税が低額に抑えられれば、商品も低額で提供可能となります。
〔酒税法〕
第2条 この法律において「酒類」とは、アルコール分1度以上の飲料(略)をいう。
2 酒類は、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類及び混成酒類の4種類に分類する。
第6条 酒類の製造者は、その製造場から移出した酒類につき、酒税を納める義務がある。
2 酒類を保税地域から引き取る者(以下「酒類引取者」という。)は、その引き取る酒類につき、酒税を納める義務がある。
第23条 酒税の税率は、酒類の種類に応じ、1キロリットルにつき、次に定める金額とする。
一 発泡性酒類 22万円
二 醸造酒類 14万円
三 蒸留酒類 20万円(アルコール分が21度以上のものにあつては、20万円にアルコール分が20度を超える1度ごとに1万円を加えた金額)
四 混成酒類 22万円(アルコール分が21度以上のものにあつては、22万円にアルコール分が20度を超える1度ごとに1万千円を加えた金額)
2 発泡性酒類のうち次の各号に掲げるものに係る酒税の税率は、前項の規定にかかわらず、一キロリットルにつき、当該各号に定める金額とする。
一 発泡酒(原料中麦芽の重量が水以外の原料の重量の100分の50未満25以上のものでアルコール分が10度未満のものに限る。) 17万8,125五円
二 発泡酒(原料中麦芽の重量が水以外の原料の重量の100分の25未満のものでアルコール分が10度未満のものに限る。) 13万4,250円
三 その他の発泡性酒類(ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部とした酒類で次に掲げるもの以外のものを除く。) 8万円
イ 糖類、ホップ、水及び政令で定める物品を原料として発酵させたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)
ロ 発泡酒(政令で定めるものに限る。)にスピリッツ(政令で定めるものに限る。)を加えたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)
結び
アルコール分は「麻薬と同じ」「夢の成分」なので、お金がかかるのだとおっしゃる方もいらっしゃいます。夢には良い夢も悪夢もあります。どう付き合うかというお話になりますが、失敗は「酒のせい」ではなく「飲んだ自分のせい」なので、気を付けることが大事になります。ちなみに、先日、77度のアルコール飲料が複数販売されているのを知りました(図表4参照)。新コロナ禍にあって、消毒用にも用いることが可能なので、人気が高いようです。ただし、一つには消毒もできるが消毒・除菌を目的としたものではないという注意書きがあり、もう一つには飲料として利用する場合には急性アルコール中毒などに留意するようにとの注意書きがありました。安全に楽しんでください。
〔参考〕
・佐藤光展 「ストロング系チューハイ、止まらぬ『アルコール度数過激化』の危険性 警鐘を鳴らす精神科医に聞いた」2020年1月25日
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69981?page=5
・岩永直子 「ストロング系チューハイに薬物依存研究の第一人者がもの申す 『違法薬物でもこんなに乱れることはありません』」2020年1月21日
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/strong-1
・毎日新聞 「ストロング系の酒は『危険ドラッグ』なのか 飲みやすさの人気の影に依存症の懸念」2020年6月17日21時21分(最終更新6月17日21時58分)
https://mainichi.jp/articles/20200617/k00/00m/040/268000c
・Chie Hamana「ストロングビール徹底比較!安く早く旨く酔えるのはどのストロングビール?」2019-07-22, 2019-07-23(更新)
https://moov.ooo/article/5d316e98a1cf087d9b1ce4e0
以上