「ビジネスに関わる行政法的事案」第58回 マイナス(負)の値段というもの―モノの値段のおはなし(2)

第58回 マイナス(負)の値段というもの―モノの値段のおはなし(2)      神山 智美(富山大学)

 

はじめに

モノには値段がありそのモノを買うときにはお金を支払う、というのは一般的なことでしょう。しかし、すべてのモノに所有者がいて、その人が「値段」を決め、そのモノを購入する人が支払いをするという想定が成り立たないものも少なくありません。
私は、昨日、使用済のノートパソコンを大型電化量販店に持ち込みました。無料でひきとっていただけるとうかがったからです。査定の結果、幸い今回は「100円」というお値段で買い取っていただけましたが、無料でもおかしくはないと思っています。また、廃棄物として扱われる家電のいくつかは、有料での引き取りがなされています。つまり、「マイナス(負)の値段、つまりお金を払って引き取ってもらうもの:ネガティブプライス(Negative Pricing)」というものです。
本稿ではこうした、「マイナス(負)の値段」がつくもの、なかでも空家について考えます。

ネガティブプライスとは
一般的にネガティブプライスというと、電力市場における、いわゆる「出力制御(アウトプットコントロール)」が想起されます。(←私だけでしょうか?)

私は、再生可能エネルギーに興味があり勉強しています。そこでは、「ネガティブプライス」というものがあります。電力市場で電力の供給が需要を上回るときに発生する現象です。発電会社は、電力を売るのではなく、引き取ってもらうためにお金を払うことになります。いわゆる「出力制御(アウトプットコントロール)」というもので、需要の調整、供給の調整 および(他の地域で用いることができるように)送電系統の増強電力(送電線の容量と安定性の確保)等の施策がとられています。

お金を支払って引き取ってもらうものの事例に、いわゆる家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)における電化製品の引き取りがあります。エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫および洗濯機はこれらの対象です。
家電小売事業者は、これら4種類の家電の引き取りを求められます。それは、過去にその店が販売したもの(9条1号)と、そのお店で同種のものを購入したお客さんがこれまで使用していた品等の引き取りを求める場合(9条2号)です。家電小売事業者は、引き取り料金を排出者(消費者)に求めることが可能です(11条)。

〔家電リサイクル法〕
(引取義務)
第9条 小売業者は、次に掲げるときは、正当な理由がある場合を除き、特定家庭用機器廃棄物を排出する者(以下「排出者」という。)から、当該排出者が特定家庭用機器廃棄物を排出する場所において当該特定家庭用機器廃棄物を引き取らなければならない。
一 自らが過去に小売販売をした特定家庭用機器に係る特定家庭用機器廃棄物の引取りを求められたとき。
二 特定家庭用機器の小売販売に際し、同種の特定家庭用機器に係る特定家庭用機器廃棄物の引取りを求められたとき。

(料金の請求)
第11条 小売業者は、特定家庭用機器廃棄物の引取りを求められたときは、前条の主務省令で定める場合を除き、当該特定家庭用機器廃棄物の排出者に対し、第17条の規定により当該特定家庭用機器廃棄物を引き取るべき製造業者等又は第32条第1項に規定する指定法人に当該特定家庭用機器廃棄物を引き渡すために行う収集及び運搬に関し、料金を請求することができる。

空家のお値段
空家についても、お値段が付きづらいものが少なくありません。
空家が増えても、価格が低下すれば空家増加は解消されるはずです。しかし、供給量が多すぎて、需要も増えていなければ、図3の右図のようになります。つまり、需要線と供給線の交点がないので、取引が成立しません。この間の超過供給部分が「空家」になります。
過疎化と高齢化が深刻な地域では、空家が生じています。ここでは、価格を低下させても、需要が少ないため、取引されることがなく空家ができるという構造ですね。

空家は、住んでいる人がいないだけというものではありません。家というものは、人が住まないと老朽化が著しいのです(筆者は経験しております。なぜこうなるかがよくわかっていないので、ご存じの方は教えてください。)。
また、庭木や草木の手入れもできず、見知らぬ人が住みついたり、ごみの不法投棄を許したりと、防災や治安上の不安を周囲に与えます。管理が不十分な場合には、荒れ果ててしまい、所有者の許可を得ずに勝手に「幽霊屋敷」として肝試しに使われてしまう事例もあります。(←こうした行いをするYouTuberが摘発されていますね。)
持ち主にはいろいろな事情があるでしょうが、管理が行き届かない空家は存在しない方がのぞましいといえそうです。

補助金があれば需給バランスは変動するのか?
こうしたときには、「補助金」というお話が出てきますね。「補助金」は有効なのでしょうか?

経済学者さんに聞いてみました。
「結論は変わりませんが、補助金を買い手がもらうのか空き家の売り手がもらうかによって最初のショックが変わります。
簡単なモデルですと、例えば1件あたり100万円を買い手がもらう場合、需要曲線が100万円分上方に移動します。この結果、うまくいけばグラフの第1象限で需要曲線と供給曲線が交わり正の価格がつくかもしれません。」

なるほどです。買い手への補助金で需要曲線が上方修正され、売り手への補助金で供給曲線が上方修正されるようです。補助金投入すれば効果があるということが理解できやすくなりました。「正の価格」という表現も、ネガティブプライスの反対語と理解できます。

ゴミ屋敷も同じ

ごみ(廃棄物)を適切に廃棄しない場合にも同じことが言えます。

“マイナスの値段が付く”というケースは少ないように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、有料ごみ袋(市町村が集める一般廃棄物収集袋の有料化)も“マイナスの値段が付く”という事例の一つでしょう。“マイナスの価格が付く”、つまり引き取り料を支払わねば引き取ってもらえない廃棄物がある場合には、「それならごみとして出さない」という選択もあり得ます。

これは、自宅にごみを置いておく状態になります。少量で管理できる分量であれば問題ないでしょうが、ごみがあるということは、その分の「空間」を無駄にすることですので、ある意味ではもったいないとも言えますね。

また、そのごみが、腐敗をもたらしにおいのするものであったり、美観がよろしくないものであったりした場合には、ご近所に悪臭等の衛生上のご迷惑をおかけすることにもなります。近所を「周囲」「周辺環境」と言い換えることも可能であり、環境問題ともいえます。


高齢化と過疎化の進展のなかで
老後の資金がよく議論されます。2,000万円必要というお話もありました。
2,000万円を活用可能な金融資産で準備するということは、より難しいことと言えます。

高齢者の資産の主たるものは、現在の住宅を含む不動産であることが少なくありません。そうした場合に、高齢者が日々の生活の維持のために現金が必要になると、実物資産である住宅資産を取り崩す必要が出てきます。
具体的には、①住宅を担保に資金を借り入れ、死亡時に住宅を売却して返済する逆住宅ローンや②住宅資産を子に遺産として残し、その例として金銭的支援を子から受けとる方法がありますが、いずれも住宅資産の価値が基本になります。つまり、この住宅資産は、プラスの評価がされるものであるのかが改めて問われます。

長寿化は、住宅資産を取り崩さざる事態を招きますが、その住宅資産があてにならない状態となっている場合もあります。都心部でも、一部の地域での地価とマンション(中古マンション含む)の高騰がみられますが、一方、その周辺地域は値下がりが著しい状態です。こうした事態は、ますます長寿化した老後の生活を圧迫するといえますね。

 

結び
はじめに述べましたが、やはり、需要者が減ってきたことで、“すべてのモノに所有者がいて、その人が「値段」を決め、そのモノを購入する人が支払いをする”という想定が成り立たないものも少なくなくなりました。人口減少、高齢化および過疎化する地域の出現等により、需給バランスの崩れは各所であらわれています。電力の出力制御のようにこうした歪みを修正する試みや、家電リサイクルのように引き取り手と価格が明確にされ確保されていること等が求められています。

以上

 

(参考)岩田真一郎「空き家と高齢者の生活」、富山県公式ウェブサイト https://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2019feb/tokushu/index1.html