ビジネスに関わる行政法的事案」第66回 水素や炭素の色分けについて

第66回 水素や炭素の色分けについて      神山 智美(富山大学)

 

はじめに

いわゆる水素社会推進法(令和6年法律第37号、正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)が、2024(令和6)年10月23日に施行されています。
その目的は、国が前面に立って、低炭素水素等の供給・利用を早期に促進するため、基本方針の策定、需給両面の計画認定制度の創設、計画認定を受けた事業者に対する支援措置や規制の特例措置を講じるとともに、低炭素水素等の供給拡大に向けて、水素等を供給する事業者が取り組むべき判断基準の策定等の措置を講じることです。

〔水素社会推進法〕

(目的)
第1条 この法律は、世界的規模でエネルギーの脱炭素化に向けた取組等が進められる中で、我が国における低炭素水素等の供給及び利用を早期に促進するため、低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本方針の策定、低炭素水素等供給等事業に関する計画の認定等の措置を講ずることにより、エネルギーの安定的かつ低廉な供給を確保しつつ、脱炭素成長型経済構造(略)への円滑な移行を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

環境分野では、環境配慮化された事項には「グリーン」という色が用いられることが少なくありません。例として、「環境法のグリーン化」や「グリーンインフラ(グリーンインフラストラクチャー)」などです。また、環境配慮を装うことを「グリーンウオッシュ」といいます。
さらに、環境に配慮していない事項には「グレー」という色が用いられることが多くあります。例として、「グレーインフラ(グレーインフラストラクチャー)」です。

水素には、こうした色分けがあるようです。さらに、炭素についても類似のネーミングがあります。ここでは、こうした色分けと、法律上の定義などについてまとめておきたいと思います。

1.水素社会推進法
水素社会推進法は、低炭素水素等を国内で製造・輸入して供給する事業者(以下「低炭素水素等供給事業者」といいます。)や、低炭素水素等をエネルギー・ 原材料として利用する事業者(以下「低炭素水素等利用事業者」といいます。)を支援しています。
そのために、計画認定制度が創設・運用されています(以下、この計画を「低炭素水素等供給等事業計画」といいます。)。同法では、これらの事業者は、単独または共同で計画を作成し、主務大臣に提出して、その認定を受けることができると規定します(水素社会推進法7条1項)。
「価格差に着目した支援」「拠点整備支援」等も対象となっています(同法10条)。
同法は、先行的で自立が見込まれるサプライチェーンの創出・拡大に向けて、認定基準として、以下の基準を設定しています。

               〔図1:水素社会推進法の概要・・・引用[]参照

2.低炭素水素等

ちなみに、冒頭で書いた、水素社会推進法における「低炭素水素等」とは、

①水素及びその化合物であって経済産業省令で定めるもの、

②その製造に伴って排出される二酸化炭素の量が一定の値以下であること、

③二酸化炭素の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国における二酸化炭素の排出量の削減に寄与すると認められることその他の経済産業省令で定める要件に該当するもの、のことです。

〔水素社会推進法〕

(定義)

第2条 この法律において「低炭素水素等」とは、水素等(水素及びその化合物であって経済産業省令で定めるものをいう。以下同じ。)であって、その製造に伴って排出される二酸化炭素の量が一定の値以下であること、二酸化炭素の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国における二酸化炭素の排出量の削減に寄与すると認められることその他の経済産業省令で定める要件に該当するものをいう。

ここからわかるのは、「水素」の供給や利用を推進するための法律といっても、どんな水素でも良いというわけではないということです。

ここで出てくるのが、水素の色分けです。といっても、水素に色がついているわけではありません。

水素とは、という問いに対する環境省の説明(引用[2]参照)を以下に挙げます。

  • 水素とは、宇宙で最も豊富に存在する元素であり、原子番号1を持つ。水素分子(H2)は、2つの水素原子が結合して形成されます。水素は無色・無臭で、軽く、非常に高い「エネルギー密度」を持つため、燃料電池や「水素エネルギー」として利用されています。
  • 日本では、政府が「水素社会」の実現を目指しており、再生可能エネルギーから水素を製造する技術開発が進められています。例えば、風力や太陽光発電を利用して水を電気分解し、水素を生成する方法が研究されています。
  • これにより、二酸化炭素の排出を削減し、環境に優しいエネルギー供給が期待されています。さらに、水素は「燃料電池車」や家庭用燃料電池にも利用されており、将来的には輸送用エネルギーや発電所の燃料としても広く普及する見込みがあります。
  • 水素とは、「最も軽い元素」であり、周期表の「1番目」に位置します。化学記号は「H」で、原子番号は1です。水素は宇宙で最も豊富に存在し、地球上では「水」や「有機化合物」の形で見られます。無色無臭の気体で、燃焼すると水を生成し、エネルギーを放出します。
  • そのため、クリーンエネルギー源として注目されています。特に「水素燃料電池」は、二酸化炭素を排出しないため、環境に優しい技術として期待されています。水素は産業界でも重要な役割を果たしており、石油精製や化学工業で広く利用されています。

3.水素の色分け

水素の色分けは、水素の製造方法とその環境負荷によって判別されます。

まず、グリーン水素は、再生可能エネルギーで水を電気分解することにより生成されます。そのため、CO2は排出しません。ただし、コストが高いです。

他方、グレー水素は、化石燃料(主に天然ガス)から製造しているため、CO2を排出します。ただし、一般的な方法であり、コストは抑えられます。

ブルー水素は、化石燃料から製造していますが、CCS(「Carbon」「Capture」「Storage」のこと。二酸化炭素を回収し(海底などに)貯留すること。)により、排出したCO2を回収します。このCCS技術も次第に実用化されてきています。

クリーン水素とは、CO2を排出しない水素の総称ですので、グリーン水素ブルー水素が、クリーン水素ということになります。

最後に、タ-コイズ(緑がかった青)水素があります。ターコイズ水素は、メタン熱分解(熱による分解で、固体炭素を副生成物として得ることが可能となる。)方法です。CH4 →C+2H2 という化学式であらわされます。そのため排出するCO2は固体炭素ですので、環境負荷は少ないといえますが、この技術そのものが発展途上です。

4.炭素の色分け

続いて、炭素(カーボン)の色分けもまとめておきましょう。カーボンは、カーボンの生成のされ方と九州のされ方で、判別されています。

まず、グリーンカーボンは、森林や陸上の植物によって吸収される炭素のことです。

ブルーカーボンは、沿岸・海洋生体系によって吸収される炭素のことです。例として、マングローブや海藻・遠征湿地において吸収される炭素が注目されています。

次に、ブラックカーボンは、不完全燃焼で発生する粒子状炭素(煤)のことを指します。概して、気候変動や健康に悪影響をもたらします。

これと類似なのが、ブラウンカーボンという有機物の燃焼によって生じる黄褐色の粒子状のものです。ブラックカーボンと似ていますが、光吸収性が異なります。

また、ホワイトカーボンという表現があり、①炭素繊維など、産業用途の人工炭素材料のこと、または②コンクリートにより固定される二酸化炭素(吸収)のことに用いられています。さらに、森林火災や土壌の劣化などで失われる炭素に対して、レッドカーボンという表現を用いる場合があります。

5.結び

水素の炭素もですが、「グリーン」「ブルー」「クリーン」というのは、環境配慮型の「色分け」と捉えられますが、「ブラック」「グレー」「レッド」は、概して環境配慮型ではない要素を表現するものとして用いられるようです。

確かに、企業の環境報告書の表紙を見ますと、「グリーン」「ブルー」「クリーン」で構成された図柄が並びます。「環境=グリーン&ブルー(透明度)」というイメージが、私たちの中に出来上がっていますね。

 

 

(引用)

[1] 資源エネルギー庁「水素社会推進法について」総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 水素・アンモニア政策小委員会(第14回)/資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会(第15回)/産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 水素保安小委員会(第6回) 合同会議 資料1、スライド1、https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/014_01_00.pdf(2025年8月7日最終閲覧)。

[2] 環境省「水素とは?環境省が解説する『水素』の基本と応用」https://suiso-life.jp/suisotoha/ (2025年8月7日最終閲覧)。