「ビジネスに関わる行政法的事案」第8回:倉庫業について

第8回:倉庫業について        神山 智美(富山大学)

 

はじめに

先般、引っ越しをしました。引っ越し先は、以前よりも手狭なところです。困ったことの一つに、「冬タイヤの置き場所がない」ということがあります(何せ富山在住ですから!)。今は、小さめの倉庫付きの賃貸マンションも存在しているようですが、筆者の転居先にはそういうスペースはなかったからです。ガソリンスタンドや車のディーラーで、「季節のタイヤお預かりサービス」というのもあるそうなのですが、結局迷った挙句、冬タイヤは、ポリエチレンの袋に個包装して、ベランダにおいてあります。「空間」って貴重だと思います。

今回は、倉庫業について考えてみます。

 

倉庫業とは

倉庫業とは、国土交通省のウェブページには、「寄託を受けた物品を倉庫において保管する事業であり、原料から製品、冷凍・冷蔵品や危険物に至るまで、国民生活・経済活動に欠かせない多種多様な物品を大量かつ安全に保管する役割を担っています」と、説明されています。

寄託とは、当事者の一方(受寄者)が、相手方(寄託者)のために物を保管することを約し、それを受け取ることによって成立する契約のことです。民法657条以下に規定があります。商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合(商事寄託)については商法593条以下に規定が置かれています。

 

〔民法〕

第657条 寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

〔商法〕

第593条 商人カ其営業ノ範囲内ニ於テ寄託ヲ受ケタルトキハ報酬ヲ受ケサルトキト雖モ善良ナル管理者ノ注意ヲ為スコトヲ要ス

 

倉庫業に関する事件

倉庫業に関する事件では、倉庫業事業者が巻き込まれた事件(物を保管していると虚偽の証言をした人がいたが、実際は預かっていなかった事件等)も少なくありません。

実際に倉庫における保管の内容が問われた事件として以下のものがあります。

 

(1)札幌地判平成24年6月7日判タ1382号200頁損害賠償請求事件

原告は、平成11年4月24日付けで、被告の開設する倉庫のワインセラーに、収集しているワインの寄託契約を締結しました。本件寄託契約前に、原告は、インターネットや電話帳などで調べた結果、被告のパンフレットを見たりして、本件ワインセラーを見学したりした上で、被告を選定しています。それは、被告のパンフレットには、「ヴィンテージワインの保管条件と対策」として、温度(常に14度前後に保たれています)、湿度(常に75パーセント前後に保たれています)、光(必要最小限の光量にしています)、振動(札幌の立地条件に地下蔵になっています)、臭い(防塵素材と電子式空気清浄機による爽快な環境)と記載されていたからでした。

被告と実際にやりとりをしていたのは、原告の妻(花子:仮称)でした。花子は、平成18年6月に、本件ワインセラーを訪れ、本件ワインを保管している段ボール箱が水分を含み変形してつぶれているのを発見しました。また、本件ワインセラー内は、契約当時とは異なり、原告に断りなく、他者との寄託契約のために間仕切り壁や鍵のかかる扉が設けられておりました。

平成18年11月の被告から花子への説明内容は、①契約当時のワイン管理の担当者が子会社に移動したこと、②温度・湿度の制御機器に狂いがあった上、毎日の温度・湿度チェックを全くしていないため、低温度高湿度状態に気付かなった、というものでした。

これに関して、原告から被告への申し出は、ア)ワインセラー内の保管状態を改善すること、イ)保管料の一部を返還すること、ウ)カビの付着したワインなどの程度の悪いものについて代替のワインを提供することでした。

ア)は合意され、イ)も履行されましたが、ウ)は履行されませんでした。

そのため、原告は、被告の不十分な管理によりワインの品質を毀損されたとして、債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償を求め提訴しました。

 

※ワインの保管とは(「ENOTECA – エノテカ」ウェブサイトを参考に)

「ワインは生きている」と言われます。ワインは、適切な環境に置かれれば、ボトルの中で熟成して深みが増し、その風味は絶えることなく変化し続けます。それゆえ、ワインを変化させ続けるためにも適切な環境が大切になります。

①温度:

ワインは比較的涼しく(13~15度)、温度差の激しくない場所が適しています。30度を超えると煮え始めると言われているので、暑すぎると劣化してしまいます。また、逆に寒い場所では熟成せず、味のバランスが崩れて美味しさを損なってしまいます。

②湿度:

ワインの保管に理想的な湿度は65~80%です。乾燥した場所で保管していると、コルクが乾燥して縮み、そこから空気が入ってワイン酸化させてしまいます。

③光:

ワインを光に当て続けることは、還元臭の原因となります。特に紫外線は微量でも避けた方が良いでしょう。光の入る部屋の中に置きっぱなしにしたり、窓際に置いたりするのも避けてください。

 

 

ところで、「ブレンドワインは(既にブレンドして味を調整してあるので)品質が劣化しづらい」という人がいます。本当でしょうか?

ワインの原材料となるブドウの品種は、以下の6つです。

 ・カベルネ・ソーヴィニヨン

 ・ピノ・ノワール

 ・メルロー

 ・シャルドネ

 ・リースリング

 ・ソーヴィニヨン・ブラン

ただし、品種が「ブレンド」されたワインの大半は、ラベルに表記がありません。

概してですが、「旧世界(主にフランス、イタリア、スペイン、ドイツ)」のワインは一般的に「ブレンド」が主流で、「新世界」(主にアメリカ、チリ、オーストラリア、日本など)のワインは「単一」が主流となります。

このことからすれば、ブレンドワインのほうが、一概に品質が劣化しづらいというわけでもなさそうですね。(詳しいことをご存知のかたは、筆者までご教授ください。)

 

事件のはなしに戻りましょう。

そもそも被告の保管環境管理の瑕疵により、ワインは毀損していた(味が落ちていた)のでしょうか。

花子は、自らがテイスティングした結果、変わりがないものであったが、専門家とともに何か変だなと感じたものがあったとしています。しかし、具体的にどのような変化があったかは明らかではありません。

そこで、裁判所も、ワインの毀損については、「判然としない」と判断しています。つまり、様々な見解があり、キャップシールやラベルにカビが発生したことが直ちにワインの毀損になるとはいえないのです。それゆえ、被告に定温・定湿義務違反があったとしても、当該義務違反によって、本件ワインが毀損したと認められないと判断しています。そのため、裁判所は、慰謝料の発生は認めていません

ただし、温度・湿度に関しては、原告は、温度は14度前後1度、湿度は75%程度とする合意があったと主張しています。これに関しても、裁判所は、温度の幅を1度に限定することを認めるに足りる証拠はなく、湿度の範囲(幅)についての合意も確認できないと判断しています。そのため、定温・定湿義務違反はあったものの、この義務違反は不法行為を構成程度に至っているとはいえないと判断しています。

他方、原告がこうした同義務違反を知っていれば、本件寄託契約を解約するなどして、原告は保管料を支払う必要はなかったと認められますから、原告が被告に対して支払った保管料は損害となると裁判所は判断しています。以上のように、裁判所は、保管料相当額を損害と認容しました。

 

ワインの毀損が不法行為を構成し慰謝料を構成するのですが、ワインの毀損、すなわち味が落ちたということは、訴訟でどのように証明するのでしょうか。

メロンパンの移動型パン販売業を営む被告が、パン生地等の供給・品質保持義務の履行を怠っていたものと認められた事件(仙台地判平成21年2月26日・LEX/DB文献番号25440496)では、複数の顧客から「味が落ちた」との指摘があったことで、品質保持義務を怠ったことが証明されています。

ワインの毀損も、多くの人の味覚の感想で証明することが可能なのでしょうか?

 

(2)東京地判平成26年6月10日LEX/DB文献番号25520334損害賠償請求事件

原告が、被告に対し、冷凍まぐろを有償で寄託していたところ、被告が、被告管理に係るフォークリフトの油圧ホースを破損させ、油圧ホース内の鉱物油を冷凍まぐろボックスに付着させて一部の冷凍まぐろを汚損してしまいました。また、この事故に関して、原告は、被告が原告に対して汚損場所や汚損対象物について虚偽の報告を行ったと主張しました。

 

 

 

訴訟で、論点となった1点目は、汚損された冷凍マグロはどれか(汚損すなわち損害の範囲はどこまでか)ということでした。

4つの検体(「まぐろ正常品」、「まぐろ事故品」、「まぐろA」、「まぐろB」)について審理されました。「まぐろ事故品」が損害を構成することには争いがありませんでした(原告および被告の双方が事故品と認める物については、示談成立済)。しかし、まぐろ事故品とは異なる冷凍マグロボックスに入っていたとされ、事故品と原告は主張する「まぐろA」、「まぐろB」が問題となりました。

「まぐろA」、「まぐろB」からも鉱物油様の異臭が検出されるとしても、これが当該事故における被害なのかどうかについては、裁判所は、当該事故によりオイルが付着したものと推認することはできないと述べました。より具体的には、1~2メートル離れたところにある別の冷凍まぐろボックスまでオイルが飛散するとは認められなかったこと、オイルの飛散を物理的に阻む障害物も存在したことも考慮されました。また、まぐろA、まぐろBのロットナンバー等の客観的な証拠を確認した者がいないことや、まぐろA、まぐろBから検出された「α-テレピノレン」は、本件フォークリフトのオイルからは検出されなかったこと等も理由とされました。

 

2点目の論点は、被告の原告に対する説明義務違反の有無です。

被告の原告に対する説明義務は認められました。しかし、

①まぐろA、まぐろB等のその他の保管品へのオイルの付着については、その事実が認められないため、報告義務もなしとされました。

②被告が、事故発生場所は倉庫外の通路であるかのような説明の仕方をしたことについては、裁判所は、不正確な説明であるとしましたが、仮にこの説明が説明義務違反に該当するにしても、当該説明によって原告に何らかの具体的な損害が発生したと認めることはできないと判断しました。

 

以上をもって、裁判所は、原告が主張する原告および被告間の有償寄託契約の債務不履行または不法行為は確認できず、原告の請求を棄却しました。

 

倉庫業法改正

倉庫業は、土地や建物を持っている人がそれらを有効利用するために始めたビジネスでした。また、倉庫業は倉庫業法3条によって、登録制となっているなどの規制がなされているため、料金には市場原理が作用しづらい面もあります。しかし、必要な構造さえ備えていればよく代替性に富んでいるサービスともいえますので、場所によっては、競争にさらされやすいといえます。加えて、可能な限り、企業などが保有する自家用倉庫に代替がされてしまいますので、常に倉庫業は自家用倉庫との競合関係にあります。

 

倉庫法

第2条 この法律で「倉庫」とは、物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作物又は物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作を施した土地若しくは水面であつて、物品の保管の用に供するものをいう。

2 この法律で「倉庫業」とは、寄託を受けた物品の倉庫における保管(略)を行う営業をいう。

第3条 倉庫業を営もうとする者は、国土交通大臣の行う登録を受けなければならない。

 

国土交通省は、「平成30年6月29日より、倉庫の施設設備基準の適合性を予め確認する『基準適合確認制度』を創設・運用開始し、借庫を用いて事業を行う倉庫業者等による変更登録手続きを簡素化します。」と公表しました。これは、近年、荷主ニーズの多様化等を背景に、倉庫業者が自社所有以外の倉庫(借庫)を借りて事業を行う割合が増加していることから、借庫で行う倉庫事業がスピーディに開始できるように法改正(正確には、倉庫業法施行規則4条3項、4項および4条の3等を新設)を行ったということです。

 

倉庫業法施行規則(新設条文)

第4条 3 前項(略)の場合において、当該倉庫について、法第4条1項の登録若しくは法第7条第1項の変更登録が過去2年以内に行われている場合又は第4条の3第4項の規定により有効な確認書が交付されている場合であって、これらの申請の際に提出された書類(略)の内容に変更がないときは、その旨を示すことをもつて当該書類の提出に代えることができる。ただし、地方運輸局長は、特に必要があると認めるときは、当該書類を提出すべきことを命ずることができる。

第4条の3 倉庫の所有者は、当該倉庫の施設及び設備が第3条の3から第3条の12までに定める施設設備基準(略)に適合しているかどうかについて、当該倉庫の所在地を管轄する地方運輸局長に確認を求めることができる。

 

改正前の倉庫業法では、借庫を行う場合、倉庫業法上の営業登録(変更登録)を得る必要があるのですが、当該倉庫(借庫)が倉庫業法に基づく施設設備基準に適合しているかどうかの審査を都度行う必要がありました。ある倉庫が施設設備基準に適合しているかは初期のタイミングで一度きちんと審査をすれば、倉庫設備に変更がない限り都度審査をする必要がないはずですが、新たに倉庫を借り営業を営むためには都度その倉庫が施設設備基準に適合するかを確認するルールとなっていたのです。従来は、この審査に時間を要し、半年待たないとビジネスを開始できないという状況だったのです。

このため、倉庫業者が波動に応じて機動的に施設を運用することが困難な状況にありました。が、この改正により、倉庫の所有者が、当該倉庫が倉庫業法に基づく施設設備基準に適合しているか予め確認を受けることができる「基準適合確認制度」を創設するとともに、本制度に基づき基準適合確認を受けた倉庫を用いて倉庫業を営むにあたっては、確認を受けた時点から変更がないことを示すことで、当該倉庫が施設設備基準に適合しているものとみなし、変更登録において必要となる書類の一部を省略することを可能としました。これにより、変更登録に係る処理期間が短縮され、倉庫業者による機動的な施設運用が可能となります。

 

倉庫にも、「所有と経営の分離」が進んできたということですね。そして、そうした実態とニーズに即した法改正が行われてきたということです。

今後の動向を注視したいと思います。

 

以上