「ビジネスに関わる行政法的事案」第12回:ドローンの活用について
第12回:ドローンの活用について 神山 智美(富山大学)
はじめに
先日、SDGs関連の調査のため長崎県壱岐市を訪問しました。壱岐市は、壱岐島(いきのしま)のことです。島というと、ついつい風光明媚でのどかな漁師町等を想像してしまいますが、内閣府地方創生推進事務局という舌を噛みそうな機関による「SDGs未来都市」に認定された地域の一つで、その戦略は野心的です。民間の先進的な企業とタッグを組んで、現在はAIを導入したまちづくりが進められています。スマート農業の先進地でもあります。ドローンも有効活用されていて、田畑の管理をすることに加え、海を渡った福岡にまで島の特産物であるアスパラガスを出荷する試みを実験中とのことです。
ドローン(drone)とは、無人航空機のことです。つまり、無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できる航空機の総称とされています。英語の「drone」は、「(無線操縦の)無人機」あるいは「オス蜂」といった意味の語が充てられています。大きさ、形状は多様です。そのため、このドローンを何に用いるのかというところが問われます。
用途として注目を浴びているのは、以下のものでしょうか。①商用の運搬用です。ある程度の大型機である必要があります。②商用の監視用(モニタリング用)のものもあります。これは、小型または中型です。③商用、業務用のものもでてきています。例として農薬散布などにもちいるのです。④軍用のドローンは偵察や爆撃に用いられており、小型のスパイ用から大型のものまで多様です。⑤個人使用のいわゆるラジコン飛行機に類する小型玩具もあります。新婚旅行でドローンで撮影しながら世界を回り、『ドローン片手に世界一周 空飛ぶ絶景400日(絶景100シリーズ)』(朝日新聞出版、2016)を出版された山口夫婦は有名ですね。⑥映画の中では、ドローンの語源の「オス蜂」にならって昆虫サイズのドローンが生物兵器をまき散らす、または暗殺に用いるなんてシーンもあるようです。
2015年4月22日午前には、首相官邸の屋上にドローンが落下しているのが見つかり、そのドローンからは「微量」の放射線が検出されたことで兵器利用も注目を浴びました。
法律上のドローンとは
このようにおなじみになってきているドローンですが、法律上はどのように定義されているのでしょうか。ドローンは、無人航空機ですので、航空法という「航空機の航行の安全や航行による障害の防止を図り、航空機を利用する事業の適正かつ安全な運営の確保等を目的とした法律」により規定されます。
2015年に改正された航空法2条22項には、次のように定義されています。この条文は、12月10日より施行されています。航空法の第9章(132条から132条の3)には無人航空機という項目が追加され、省令である航空法施行規則もそれに合わせて改正されています。ここで規定されているのは、飛行の禁止区域(132条)、飛行の方法(132条の2)、および捜索、救助等のための特例(132条の2)です。監督官庁は国土交通省です。ドローンの利用者が、132条で定められた禁止区域または/および132条の2で規定された飛行の方法以外の方法をとるのであれば、国土交通大臣の承認(講学上の許可)が必要になります。
なお、航空法施行規則5条の2で規定されているように、航空法で規制するドローンは総重量が200グラム以上のものと定められています。とすると、昆虫サイズのドローンは、航空法の規制が及ばないものといえそうです。
〔航空法〕
第2条(定義)
22 この法律において「無人航空機」とは、航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であつて構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるもの(略)をいう。
〔航空法施行規則〕
第5条の2 法第2条第22項の国土交通省令で定める機器は、重量が200グラム未満のものとする。
入手しやすくなったドローン
とはいえ、「ドローンなんて使うところがないわ」と思う人は少なくないのではないでしょうか。筆者もその一人です。ですが、次のようなタイトルの記事や映像が目を惹きました。「Don’t take another boring phone selfie until you’ve seen this…これを見るまで携帯によるつまらない自撮りをとるな…(http://www.thenycmag.com/selfie-quadcopter-conquers-germany-the-idea-is-genius)(図表4参照)」「Selfie Drone (機種名のため省略)- Preview(https://www.youtube.com)」、「【トイドローン】(機種名のため省略)が支持される理由とその裏にある問題点(https://www.droneskyfish.com)」、「1万円前後のドローンおすすめ10選。初心者でも低価格で空撮を堪能(https://sakidori.co)」。
ドローンは、日本円の1万円程度でいくつかの機種の中から選択して購入できるようになっており、それは「自撮り」という新しい文化のなかで息づいてきていることが確認できます。スマホ(携帯電話)による自撮りに飽きた人たちは、このドローン空撮に興味を抱いているとも言えます。
ドローン利用の法律上の注意点―航空法違反にならないために
ドローンはかなり手軽に利用できるようになってきていることが確認できました。また、その規制も、禁止区域または/および規定された飛行の方法の範囲内であれば良いのだということもわかりました。
では具体的に、禁止区域というのはどこなのでしょうか。それを調べるにはどうすればよいのでしょうか。禁止された飛行方法も把握しておきたいですよね。以下ではそれを法条文に則してご説明します。
航空法上禁止されているのは、①空港周辺(航空法132条1号および航空法施行規則236条2号)、②150m以上の高さの空域(航空法132条1号および航空法施行規則236条3号)、③人口密集地域(DID地区)(航空法132条2号)、④夜間飛行(航空法132条の2第1号)、⑤目視外飛行(航空法132条の2第2号)、⑥第三者又は物件の30メートル未満(航空法132条の2第3号および航空法施行規則236条の4)、⑦祭礼、縁日、展示会等のイベント会場上空(航空法132条の2第4号)、⑧危険物の輸送(航空法132条の2第5号)、⑨無人航空機から物件を投下しないこと(航空法132条の2第6号)と規定されています。
航空法
第9章 無人航空機
(飛行の禁止空域)
第132条 何人も、次に掲げる空域においては、無人航空機を飛行させてはならない。ただし、国土交通大臣がその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないと認めて許可した場合においては、この限りでない。
一 無人航空機の飛行により航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがあるものとして国土交通省令で定める空域
二 前号に掲げる空域以外の空域であつて、国土交通省令で定める人又は家屋の密集している地域の上空
(飛行の方法)
第132条の2 無人航空機を飛行させる者は、次に掲げる方法によりこれを飛行させなければならない。ただし、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、次の各号に掲げる方法のいずれかによらずに飛行させることが航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全を損なうおそれがないことについて国土交通大臣の承認を受けたときは、その承認を受けたところに従い、これを飛行させることができる。
一 日出から日没までの間において飛行させること。
二 当該無人航空機及びその周囲の状況を目視により常時監視して飛行させること。
三 当該無人航空機と地上又は水上の人又は物件との間に国土交通省令で定める距離を保つて飛行させること。
四 祭礼、縁日、展示会その他の多数の者の集合する催しが行われている場所の上空以外の空域において飛行させること。
五 当該無人航空機により爆発性又は易燃性を有する物件その他人に危害を与え、又は他の物件を損傷するおそれがある物件で国土交通省令で定めるものを輸送しないこと。
六 地上又は水上の人又は物件に危害を与え、又は損傷を及ぼすおそれがないものとして国土交通省令で定める場合を除き、当該無人航空機から物件を投下しないこと。
規制区域かどうかの確認は、以下の国土地理院地図で確認できます。
地理院地図:人口集中地区・空港等の周辺空域(https://viva-drone.com/restriction-for-drone-use-in-japan/)
ちなみに、冒頭で壱岐市(島中すべて)がドローンの活用をはじめとしてスマート農業の実験場となっていることを提示しました。壱岐市は、空港周辺以外には禁止区域は設けておらず、スマート農業の推進のために、あえて島中を実験しやすい環境としているようです(図表5:壱岐島と図表6:関東圏を比較してみてください。)。
無人航空機から物件を投下しないこと(航空法132条の2第6号)について
「ドローンから物を投下しないこと」という条件が気になった方もいらっしゃるでしょう。というのも、農薬散布や、運搬というものは、どうしても物を投下する行為を伴うからです。そのような場合には、別途国土交通大臣の承認(許可)を得る必要があります。
農薬の場合には、農林水産省の「空中散布における無人航空機利用技術指導指針」(http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/boujyo/attach/pdf/120507_heri_mujin-106.pdf)に従う必要があります。許可(承認)の扱いは、「空中散布等を目的とした無人航空機の飛行に関する許可・承認の取扱いについて」(http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/boujyo/attach/pdf/120507_heri_mujin-10.pdf)に規定されています。
そして、注目を浴びている運搬の場合にも、必要に応じて事業許可等および国土交通大臣の許可が必要となります。朝お弁当を持って家を出なくとも、お昼ご飯の時間までにはドローンが届けてくれるような社会がくるのかもしれません。そんなのんびりした事例ではなく、人手不足の運送業界を助けるような、コストパフォーマンスが良くない中山間地や島嶼(とうしょ)地域への輸送手段が確保しやすくなる社会は目前かもしれません。
その他の法令による規制
以上では主に航空法について見てきましたが、次の行為も規制対象となっています。
まず、空港だけではなく、重要な建築物の近辺には近寄れないことになっています。これはいわゆる「小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(正式名称は、国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律)」による規制です。前述の首相官邸の屋上にドローンが落下した事件等をうけて、制定された法律です。
次に、私有地の上空は、権利者の承諾なしに航行することはできません。(詳細後述)
また、道路からの離着陸は、道路交通法77条1項1号における「道路において工事若しくは作業をしようとする者」に該当するため管轄警察署長の道路使用許可を得ることが必要とされていますので留意してください。
〔道路交通法〕
(道路の使用の許可)
第77条 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(略)を受けなければならない。
一 道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人
その他、河川法、自然公園法、条例等、ドローンを用いる場所と用途等に応じて適用される法律があると思いますので留意して活用してください。
なお、電波法が求める「特定無線設備の技術基準適合証明(通称:技適)」については、大手メーカーのドローンを購入された場合にはすでに技適通過済のものですので問題ありません。ただし、もしもご自分でドローンを作られた場合には、電波法の規定にも留意する必要はあります。
土地所有者との法律関係(私有地の上空)
他人の土地において、土地所有者の同意又は承諾なしにドローンを飛行させた場合、そのドローン飛行は土地所有権を侵害する違法なものとなるのが原則です。
この場合、ドローンを飛行させる者は、土地所有者から、所有権に基づく物権的請求権の行使として、(土地に入ってきた)ドローンを離脱させること(妨害排除請求)、および、(土地に入る前に)ドローンを入れないこと(妨害予防請求)を求められることがあります。
また、このような飛行によって何らかの「損害」が生じたものと認められた場合には、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を受ける恐れもあります。
土地所有権の及ぶ範囲について民法207条は、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」と定めています。そのため、土地の所有権は、土地の表面だけではなく、その上空にまで及ぶこととなります。
では、航空法に基づくドローンの飛行が、土地所有権に対する「法令の制限」といえるかというと、ドローンの飛行に関する国土交通大臣の許可・承認は、地上の人・物件などの安全を確保するため技術的な見地から行われるものであり、土地所有権との調整を図る趣旨のものではないと考えられます。そのため、航空法に基づくドローンの飛行は、土地所有権に対する「法令の制限」とは認められず、たとえ国土交通大臣の許可・承認に基づくドローンの飛行であっても、土地所有者の同意・承諾のないドローンの飛行は、土地所有権の侵害となる恐れがあります。
結びに代えて
多くの人がドローンに寄せる関心事は、やはりドローン配送の実用化ができるのかどうかではないでしょうか。
筆者は、今回を書きつつ、技術の発展に弾力的に対応していける法制度が求められていると痛感しております。
以上