「ビジネスに関わる行政法的事案」第21回:法務省出入国在留管理庁(入管)による審査と在留資格
第21回:法務省出入国在留管理庁(入管)による審査と在留資格 神山 智美(富山大学)
はじめに
いわゆる「入管法(または出入国管理法)」の正式名称は、「出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)」です。同法は、歴史的には、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令が基になっており、それを「法律」として扱うようになっている点が興味深いです。
この入管法は、出入国管理制度および難民の認定手続を規定した法律です。昨今、この出入国管理に関して、(1)入国管理局に(長期間)収容されるという問題、(2)改正入管法による在留資格「特定技能」の新設(2019年4月施行)が話題になっているので、今回とりあげさせていただきます。
ちなみに、「入国管理局」と表現しましたが、法務省設置法改正により、この機関は2019(平成31)年4月1日から、「出入国在留管理庁」とその名前を変えていますので、以下では、改称後の名称で記します。
出入国管理制度とは
出入国管理制度とは、日本国への入国・帰国、日本国からの出国、外国人の日本国在留に関する許可要件や手続、在留資格制度、出入国在留管理庁の役割、不法入国や不法在留に関する罰則等のことです。入管法に規定されています。
身近なところでは、海外旅行で出国する場合の審査、帰国して入国する場合の審査等があります。出国時には搭乗券とパスポートを、入国時にはパスポートを、それぞれの係員に見せる行為です。これらは入管法第7章に規定されています。
〔入管法〕
第7章 日本人の出国及び帰国
(日本人の出国)
第60条 本邦外の地域に赴く意図をもつて出国する日本人(略)は、有効な旅券を所持し、その者が出国する出入国港において、法務省令で定める手続により、入国審査官から出国の確認を受けなければならない。
2 前項の日本人は、出国の確認を受けなければ出国してはならない。
(日本人の帰国)
第61条 本邦外の地域から本邦に帰国する日本人(略)は、有効な旅券(略)を所持し、その者が上陸する出入国港において、法務省令で定める手続により、入国審査官から帰国の確認を受けなければならない。
永住許可とは(帰化との違い)
永住許可については、入管法23条に規定があります。法務省の「永住許可に関するガイドライン(令和元年5月31日改定)」によれば、永住許可を得るためには、法律上の要件として➀素行が善良であること(22条2項1号)、②独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(22条2項2号)、③その者の永住が日本国の利益に合すると認められること等があるようです。ただし、日本人、永住者または特別永住者の配偶者または子である場合には、①および②に適合することは求められません。また、難民認定されている方も②は求められません。
〔入管法〕
(永住許可)
第22条 在留資格を変更しようとする外国人で永住者の在留資格への変更を希望するものは、法務省令で定めるにより、法務大臣に対し永住許可を申請しなければならない。
2 前項の申請があつた場合には、法務大臣は、その者が次の各号に適合し、かつ、その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り、これを許可することができる。ただし、その者が日本人、永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合においては、次の各号に適合することを要しない。
一 素行が善良であること。
二 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること。
帰化とは、外国人が日本の国籍を取得することです。日本では国籍は一つしか認められていませんので、日本に帰化したら(日本国籍を取得したら)、今持っている他の国籍をすべて放棄することになります。永住許可と帰化では、帰化の方は法的要件が厳格なことは一目瞭然ですね。
〔国籍法〕
(帰化)
第4条 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。
2 帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。
第5条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。
一 引き続き5年以上日本に住所を有すること。
二 20歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
三 素行が善良であること。
四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。
(1) 出入国在留管理庁に(長期間)収容されるという問題
出入国在留管理庁には多くの外国人が収容されています。これらの外国人が、待遇の悪さを訴えた事件がいくつか報道されています。医師の診療を拒否された者、長期間の拘留に不満を訴える者等の事例です。収容された者らが、ハンスト(ハンガーストライキ:要求を通すための闘争手段として、絶食すること。)していることも、ハンスト後に仮放免され仮放免の延長を求めて提訴していること等もニュースになりました。
この出入国在留管理庁への収容は、どのような人が対象とされているのでしょうか。
退去強制事由に該当する疑いがあるとされた人たちです。多くは、在留期限を超えた在留などで、いわゆる「不法滞在者」、「不法在留者」、「在留資格のない在留者」等と呼ばれる存在ということになります。この退去強制事由は、入管法24条に規定されています。
この退去強制理由に該当する疑いがあれば、人身の自由を奪う「収容」が可能であるということが39条に規定されています。これが「全件収容主義」とされる考え方で、警察・検察等の捜査機関による捜査や、裁判所による審理も不要で、出入国在留管理庁の判断だけで実行できます。
〔入管法〕
(退去強制)
第24条 次の各号のいずれかに該当する外国人については、次章に規定する手続により、本邦からの退去を強制することができる。
一 第三条の規定に違反して本邦に入つた者
二 入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した者
二の二 第二十二条の四第一項(第一号又は第二号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者
二の三 第二十二条の四第一項(第五号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者(略) 以下略
(収容)
第39条 入国警備官は、容疑者が第24条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、収容令書により、その者を収容することができる。
2 前項の収容令書は、入国警備官の請求により、その所属官署の主任審査官が発付するものとする。
東京高判平成14年4月3日LEX/DB文献番号28081819・執行停止決定に対する抗告事件では、在留期間を過ぎて本邦に不法残留していたとして、退去強制令書発付処分を受けた韓国人X(男性)がした、同処分の取消しを求める訴えを本案とする同処分の執行停止の申立てにおいて、送還部分と収容部分の却下が争われた控訴審です。Xが、同処分の取消しを求めた理由は、当該韓国人が日本人女性Aと婚姻したことにより、「日本人の配偶者等」となったことです。
他方、本件においては、Xが本邦への入国直後から不法就労し、8年間以上も不法残留をしていて、外国人登録法上の新規登録の申請も本邦入国後約7年7か月後であったこと、およびAとの婚姻後も直ちには同居もしていなかったこと等を捉え、「XとAとの婚姻関係がいかなるものであったにせよ、申立人の素行は著しく不良であり、出入国管理上も極めて悪質であることから、法務大臣は、申立人について特別に在留を許可すべき事情があるとは認められないと判断し」、退去強制令書発付処分がなされています。そのため、処分庁は、日本人との婚姻等の事実の存在をもって直ちに法務大臣の裁決がその裁量権の範囲の逸脱又は濫用によるものであるとすることはできない旨を主張しました。
地裁判決(東京地判平成13年12月27日判時1771号76頁)は、送還部分と収容部分の双方の執行停止を認容しました。外国人への退去強制令書に基づく収容による身柄拘束を受けるという損害は、それ自体が個人の生命を奪うことに次ぐ人権に対する重大な侵害であり、精神的・肉体的に重大な損害をもたらすものであって、その侵害を金銭によって償うことは社会通念上容易でない、回復の困難な損害であると解するべきであり、この収容制度が司法審査を経ずに行政庁が行政処分として身柄拘束を行うことが許されている例外的な制度によるものである点等を重視したのです。
しかし、高裁判決は、送還部分のみ認容し、収容部分を却下しました。控訴審が、収容部分のみを却下した主たる理由は、以下のようなものです。収容部分の執行を停止するためには、行政事件訴訟法25条2項(平成16年法律第84号による改正前)にいう「回復の困難な損害」があるといえねばならず、収容部分の執行により当然に生ずる身体的拘束による自由の制限等の不利益を超え、収容に耐え難い身体的状況があるとか、収容によって被収容者と密接な関係にある者の生命身体に危険が生ずるなど、収容自体を不相当とするような特別の損害があることを要すると解されます。しかし、本件で処分を受けた者は、収容に耐え難いほどの身体的状況にあるとは認められず、また、同人の妻とその未成熟の連れ子の生活にある程度の影響があることは考えられますが、前記子については前夫に扶助を求めることや福祉による保護を得ることも考えられるから、これをもって回復の困難な損害が生ずるとまでいうことはできないと判断したのです。
なお、Xの指定代理人らによる抗告理由書のなかで、「全件収容主義」は、法律上、何らの根拠もない処分庁のポリシーであり、退去強制令書に基づく収容につき、本来人身の自由の侵害を正当化するだけの慎重な手続は全く踏まれていないといわざるを得ない、と批判されています。
(2) 改正入管法による在留資格「特定技能」の新設(2019年4月施行)
2018(平成30)年の入管法改正により、在留資格特定技能が創設されました。今回の改正は、深刻な人手不足の状況に対応するため、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を受け入れようとするものです。こうした外国人材を受け入れるためには、公的機関や生活インフラの多言語化など、急増する外国人を「生活者」として迎え入れる基盤の整備をも進めねばなりません。現在、国の主導でこの政策は強力に推進されています。
法改正では、(1) 特定技能1号、2号の創設、(2)受入れのプロセス等に関する規定の整備、(3)外国人に対する支援に関する規定の整備、(4)受入れ機関に関する規定の整備、(5) 登録支援機関に関する規定の整備、(6)届出、指導・助言、報告等に関する規定の整備、(7) 特定技能2号外国人の配偶者及び子に対し在留資格を付与することを可能とする規定の整備がなされました。
随所に、人材が不足する地域(多くは地方)で適正に雇用されるようにとの意図も明記されています。
〔入管法〕
(在留資格及び在留期間)
第2条の2 本邦に在留する外国人は、出入国管理及び難民認定法及び他の法律に特別の規定がある場合を除き、それぞれ、当該外国人に対する上陸許可若しくは当該外国人の取得に係る在留資格(高度専門職の在留資格にあつては別表第一の二の表の高度専門職の項の下欄に掲げる第一号イからハまで又は第二号の区分を含み、特定技能の在留資格にあつては同表の特定技能の項の下欄に掲げる第一号又は第二号の区分を含み、技能実習の在留資格にあつては同表の技能実習の項の下欄に掲げる第一号イ若しくはロ、第二号イ若しくはロ又は第三号イ若しくはロの区分を含む。以下同じ。)又はそれらの変更に係る在留資格をもつて在留するものとする。
附 則 (平成30年12月14日法律第102号) 抄
第2条 政府は、第1条の規定による改正後の出入国管理及び難民認定法(以下「新入管法」という。)別表第一の二の表の特定技能の在留資格に係る制度の運用に当たっては、人材が不足している地域の状況に配慮し、新入管法第19条の18第2項第一号の特定技能外国人が大都市圏その他の特定の地域に過度に集中して就労することとならないようにするために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
この特定機能は、それぞれ「特定技能1号:本邦の公私の機関との雇用に関する契約に基づいて行う特定産業分野であって相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動」「特定技能2号:本邦の公私の機関との雇用に関する契約に基づいて行う特定産業分野であって熟練した技能を要する業務に従事する活動。」と表現されています。こうした特定技能を有する人を地域の「生活者」(住民)として受け入れる努力が、都会のみならず地方(田舎)の人たちにも求められてきています。
以上