「ビジネスに関わる行政法的事案」第39回 個人情報保護管理について(コロナ禍における2020年年末に思うこと)
第39回 個人情報保護管理について(コロナ禍における2020年年末に思うこと)
神山 智美(富山大学)
はじめに
遠隔での授業や会議が増えました。懇親会もZoom等を用いて行われます(図表1参照)。
今回は、こうしたいわゆるコロナ禍における年末に気づくこと、特に「個人情報の保護管理」に関して、を以下に述べたいと思います。
名刺を使う機会が減った...ハンコも廃止になる動きがある
今年の変化としては、名刺を使う機会が減ったということがあります。対面でお会いしないので、名刺をお渡しする機会も受け取る機会も格段に少なくなりました。世の中では、「脱ハンコ」の動きもあります。電子書類や電子承認が進むと、こうした動きも出てくるかもしれません。
コロナ禍だからこそ年賀状を出したくても…
年の瀬になり、人に会う機会が減ったからこそ、「年賀状で人とのつながりを」「会えない今だからこそ年賀状で感謝の意を」というフレーズを見かけることも多くなりました。この年賀状なのですが、意外に、良く知っている人でも自宅の住所を把握している人って、少ないと思うのです。(私の場合などは、職場に年賀状をいただく(または送る)と、ご返事書いて(いただいて)、そこに書いてある自宅住所間で翌年からは年賀状をやりとりすることが多いのですが。)
名刺交換をする機会が減ると、ますます、連絡先が分からないなと思うことがしばしばあります。もちろん、スマホで(要するに携帯電話番号やメールアドレスだけで)年賀状をやり取りする仕組みもできてきているようですが。つまり、携帯電話番号やメールアドレスという、いつ変わるかわからないものだけでやり取りをしている相手が少なくないということなのですね。
あったらいいなと思う仕組み
そこで、以下のような仕組みがあると嬉しいと思っています(既にあり、わたしが知らないだけかもしれません。その場合は教えて下さい。)。
(1)あったらいいな:①オンラインサロンの出席者(または話した人)名簿の自動作成
オンラインサロンに出席している人の名簿リストが入手できるとありがたいな思います。対面しての名刺交換ができないと、どなたとお話ししたのかもわからないので。
(2)あったらいいな:②相手との親密度に応じて互いの情報交換ができるスマホのアプリ
①に関連してなのですが、お話しした人は「名前と所属」だけ、グータッチしたら「職場電話番号とメールアドレス」、ハグしたら「住所と年齢」等までというように、親密度に応じて互いの個人情報が交換(共有)できるようなスマホの仕組み。
(3)あったらいいな:③相手と同等の情報を共有する機能ってあってもよいなあと思います。
相手が自分に関して所有している情報と同じ情報を互いが共有する仕組み。例えば、グータッチした相手のスマホに私の氏名と職場のメールアドレスが記入されていた場合に、グータッチ後に私のスマホにも相手の氏名とメールアドレスが表示される仕組みです。
もちろんこれらの情報開示(共有)には、本人の意思で止めることも可能としておく必要もあるでしょう。「互いに情報開示(共有)」というのがポイントです。そのため、開示された情報が虚偽の内容である場合や、情報開示(共有)の一方的な差止措置がなされている場合には、警戒する必要があると思えます。
相手の個人情報を知らなくても付き合えてしまう現代社会
上記のようなことを考えたきっかけは、①普段のコミュニティの人たちの個人情報を知らないことが多い、②トラブルになったときに、相手と話し合う手段すらないことが少なくない、ということにおそれを抱いているからです。
私には娘がいますが、彼女の友人のことを私は全く知りません。例えば、ジャニーズ・ファンクラブサイトで出会って、幾度か一緒にライブに行く等のやり取りをしていても、知っているのはせいぜい相手のニックネーム(呼称)とメアド・携帯電話番号だけです。こうした場合には、いざ、トラブルになったとき(例として、チケットを頼まれて複数枚入手したのに、急に「いらなくなった」と言われた。弁償を申し出たが、相手からブロックされて、それ以降連絡が取れない等のトラブルもありました。)、相手と連絡をつける手段がないのです。
そのため、親密度や付き合いの程度に応じて、相手のことをちゃんと把握しておく必要もあるのではないかと思うようになりました。
後を絶たない新生児遺棄事件―責任を問われない父親の存在
新生児遺棄事件も後を絶ちません。ニュースの中心になるのは、母親と無残に殺された赤ちゃんの様子です。
「父親は?」という問いには、「金銭を得るためにインターネットで知り合った男性たちと性交渉を重ねていた。相手の心あたりは複数あるが、いずれも連絡がつかない。」という回答がなされることが少なくありません。
特殊な事例かもしれませんが、交際の親密度に応じた情報共有がなされていなくて困ることになる前に、対処しておいてほしい事例です。
今年は個人情報保護法制に大きな動きあり―個人情報保護管理のあり方は?
2020年は、日本のみならず、各国の個人情報保護法制に関して大きな動きがあった年でした。ビッグデータの活用は活発化しており、AIがビッグデータから情報を抽出して何らかの提案を行うのもSFの世界の話ではなくなってきているからでしょう。
日本では、個人情報の保護にとても重きが置かれているように感じています。日本での個人情報の公開は、一部の公職にある人や著名人・法人等に留まっていますね。情報漏洩によって犯罪に巻き込まれるケースや、企業責任が問われるケースが後を絶たないからという理由もあるでしょう。
他方、情報を皆が同等に公開することで、公衆に監視してもらう仕組みをとっている国もあります。例えば、米国の土地の住所・不動産研者・不動産価格・固定資産税の支払いは、公開されています。それゆえ、米国大統領の所有地の住所・不動産権者・不動産価格・固定資産税の金額とその支払いをしたかどうかまでを、ロシアのプーチン大統領がインターネット上で確認できるような仕組みになっています。
私たちからすると、とても驚く仕組みなのですが、このように公開することで、互いに監視できて犯罪抑止も行えると考えられているのですね。つまり、「問題がないからこそ公開できる」という安心感を与えており、それが市場における安全な契約、つまり信頼にもつながっているようです。
むすび
個人情報保護法の1条(目的)は、個人の権利利益の保護とともに「個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであること」を示しています。「適正かつ効果的な活用」については、引き続き検討していく必要があると考えます。
〔個人情報の保護に関する法律〕(抄)
第1条 この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする
(参考)
週刊女性PRIME:高橋ユキ「『赤ちゃんを捨てた』罪をひとりで背負う母親、傍聴人が問う “父親” の理不尽さ」2020年10月26日(月) 16:01配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/80c1c1c568f4ed90b8d299f54ea0fe41d47ac883?page=1
東京ウォーカー(全国版)「コロナ禍だからこそ人とのつながりを!進化したスマホ年賀状アプリ3選」2020年12月12日 18:00更新
https://www.walkerplus.com/article/1012697/
NHK解説委員室 名越章浩解説委員「コロナで再発見 年賀状のあれこれ」(くらし☆解説)2020年12月24日 (木)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/441476.html
以上