「ビジネスに関わる行政法的事案」第54回 クリスマスにはチキンよりもサケ?

第54回 クリスマスにはチキンよりもサケ?       神山 智美(富山大学)

 

はじめに

「クリスマスにはシャケを食え!」というフレーズをご存知でしょうか?

クリスマス近いスーパーマーケットの鮮魚売り場には、この文字のポップも観られます。

 

2018年から発祥

これは、2018年からインターネット上で広まっているバズワードの一つのようです。

そのきっかけは、2018年12月23日に放送されたスーパー戦隊シリーズ「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」(略称「ルパパト」)の第45話「クリスマスを楽しみに」だといわれています。いわゆる「日朝(にちあさ・日曜午前テレビ朝日系列放映のスーパー戦隊ものシリーズ)」の 登場人物である怪人・サモーン(サモーン・シャケキスタンチン)の一人が、「ノーチキン! 」「日本人ならシャケを食え! 」などと、人々に鮭を食べるよう強要したのが発祥のようです。

クリスマスに食べるものといえば、クリスマスケーキでしょう。その次は、フライドチキンかなどと思っていましたが、この怪人・サーモンは、クリスマスに用意された街中のチキンを鮭(シャケ)の切り身に変えて暴れまわったようです。

 

翌年(2019年)はイオングループと、2020年は農水省

ウィキペディアによれば、2019年には、大手スーパーのイオングループがクリスマスに「メリクリサーモン」というキャンペーンを行っています。また、2020年には農林水産省の水産庁がFacebookにおいてクリスマス向けのサーモン料理を紹介した記事を、農林水産省がTwitterにおいて「サーモンでクリス鱒」のハッシュタグを用いて引用して投稿しました。

その後も、この流れは続きます。ウィキペディアによれば、2021年12月24日には、農林水産省がTwitterにて「クリス鱒」に加えて「ちゃんちゃん焼き(鮭 などの魚と 野菜 を焼いて 味噌 などで 調味 した 北海道の漁師町の郷土料理)」を紹介し、その際「クリスマスにはシャケを食え」をハッシュタグとして用いています。

この投稿を受けて、SNS上では「“クリスマスにはシャケを食え”は農水省公認」「特撮は農林水産省まで動かした!」という声があがっています。

こうした流れが、クリスマスにはサーモンを食べることを奨励しているかのような機運を、次第に盛り上げてきたようです。

動物福祉に配慮してサーモンを?!

「動物福祉(アニマルウェルフェア)」という表現を聞かれたことはありますか?農林水産省によれば、国際獣疫事務局(OIE)の勧告において、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されているものです。「人間の権利(人権)」に対して「動物の権利」が唱えられることがありますが、その反動として出てきた概念です。

動物にもいろいろな種類のものがあります。日々の生活に密接な関係のあるものとして、ペット(伴侶動物)がいます。もはや家族同然で、「人権」と同様の権利があってもおかしくはないと思われる人もいらっしゃるのではないでしょうか。こうした生き物に「動物の権利」を認めることは、比較的たやすいでしょう。しかし、例として家畜(産業動物)、養殖魚、実験動物等に「動物の権利」を認めるのは、難しいともいえます。増えすぎて困るとされているシカやイノシシに対してはどうでしょうか?ゴミ袋を荒らされるおそれのあるカラスにはどのように考えられますか?

こうした多様な「動物」というものとのかかわりを考えるためにも生まれたのが「動物福祉」という発想であろうと思います。この考え方は、国際的には標準的なものとして位置づいてきていますので、日本も必要な配慮の法令化(ガイドライン等の策定)を進めています。

農林水産省のウェブサイトには、家畜のアニマルウェルフェアについて以下のように記されています。「アニマルウェルフェアについては、家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要であり、結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながることから、農林水産省としては、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼養管理の普及に努めています。」

上記の流れを受けて、2022年12月8日、ケンタッキーフライドチキン渋谷道玄坂店の店舗前でサンタクロースに扮した動物愛護団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会」(PETA)の関係者が「すべての存在のために地球に平和を。ヴィーガンでいこう」と書かれたプラカードを持って座り込みをしたり、「ヴィーガンになってクリスマスにチキンを食べるのをやめよう」と通行人に呼び掛けたりして、デモ活動を行いました。しかし、この動物愛護団体の人たちは、「代わりにサーモンを食べよう」と主張しているわけではありません。

ヴィーガン(Vegan ):「不可能でない限りで動物の搾取を避けるべきであるという主義」を表す「ヴィーガニズム(veganism)」から派生した言葉。しばしば「完全菜食主義者」と訳されるヴィーガンだが、その本来の意味は単なる食事制限だけではない。ヴィーガニズムの主義に沿った行動は、衣食住をはじめとした人間の生活全般に反映されるため、ヴィーガンとは「動物を搾取しない」というその思想自体にあるといえる。そのうえで、食に関するヴィーガンとは、食品全体、もしくは部分的に動物や動物由来の成分が使用されていないこと。ヴィーガンの人は肉や魚だけでなく、動物由来である卵や牛乳などの乳製品、はちみつなども口にしない。

 

私としても、動物福祉の観点から、チキンよりもサーモンを食べることが好ましいという結論になるのかどうかは、よくわかりません。「チキン(鶏)>サーモン(鱒)」ということになるのでしょうか?(痛覚の有無で判断するということもあるようです。一般的に哺乳類・鳥類以外には痛覚がないとされているようです。)

このあたりは引き続き考えていきたいと思います。

 

日本人におけるサケ・マスとは?

ここまで読んでくださった方で、「法律のはなしはどこにあるの?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。以下に日本人におけるサケ・マスについて少し記したいと思います。

サケとマスは、私たちが入手する魚種も増え、さらに品種改良もあり、複雑になってきています。今のところは(雑駁には)、サケは海に降りて成長する降海型で、マスは海に降りず川や湖で成長する陸封型と区分しておけばよさそうです。また、市場に多く流通しているのは、トラウトサーモン(ブランド名)という、海で養殖されたニジマスです。

このサケ・マスは、日本人のたんぱく源として重要な位置を占めてきました。

河川に遡上しているサケにつきましては、水産資源保護法28条により採捕が禁止されています。この水産資源保護法は、 水産資源の保護培養の持続可能な利用を図るための法律です。同法により、サケ・マス(「さけ又はます」)は特別な扱いをうけています。そのため、サケをねらった釣りなどは原則としてできません。

〔水産資源保護法〕(昭和26年法律第313号)

第1条 この法律は、水産資源の保護培養を図り、且つ、その効果を将来にわたつて維持することにより、漁業の発展に寄与することを目的とする。

第28条 内水面においては、溯河魚類のうちさけを採捕してはならない。ただし、漁業の免許を受けた者又は漁業法第119条第1項若しくは第2項及びこの法律の第4条第1項の規定に基づく農林水産省令若しくは規則の規定により農林水産大臣若しくは都道府県知事の許可を受けた者が、当該免許又は許可に基づいて採捕する場合は、この限りでない。

 

NHK「チコちゃんに叱られる」でもサケとサーモンの違いに言及

サケだけではなく、サーモンがいわゆる回転すしのネタでおなじみになっていることも話題になっています。なぜ回転すしでサーモンを食べられるようになったのか、それは、魚を生食する習慣のある日本人に、養殖もののサーモンが生食できるということが着目されたからということも説明されています。

NHK「チコちゃんに叱られる」(2021年2月12日放映)では、「サーモンと呼ばれている魚は養殖もので生で食べられるですけども、鮭と呼ばれている魚は天然もので生では食べられないんです。」と説明がなされました。

「日本では加熱して食べる天然もののことをサケ、生で食べる養殖もののことをサーモンと、このような呼び方の使い分けが出来てきたんですね。ただし法律で定められているわけではありません。あくまでスーパーなどで売られている際の一般的な呼び名です。」とのことです。

これには異論もあるようですが、NHKとしては、ほぼ毎回「諸説ある」と注を入れています。

 

クリスマスには何を食べますか?

結論として、クリスマスにはチキンもサケもサーモンもおいしいですよね?鶏肉同様に、サケ(シャケ)もサーモンも、私たちの食生活には重要なたんぱく源です。

 興味深いのは、特撮番組の怪人の1フレーズが、世間に「クリスマスにはシャケを食え!」「メリクリサーモン」などと浸透していくことです。ファッショナブルな有名女優やモデル等のファッション・リーダー的存在が発信したわけではないのですが、シャケ需要は、日本のクリスマスに合致したのかもしれませんね。

以上

 

(参考および引用)

・「『特撮は農林水産省まで動かした!』 『クリスマスシャケ』今年も公認にTwitter沸騰…一体何が?」2021年12月24日16時24分、J-CASTニュース https://www.j-cast.com/2021/12/24427879.html

・「クリスマスにはシャケを食え」Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%B1%E3%82%92%E9%A3%9F%E3%81%88#%E5%BD%B1%E9%9F%BF(2022年12月31日最終閲覧)。

・農林水産省「アニマルウェルフェアについて」

https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html(2022年12月31日最終閲覧)。