「ビジネスに関わる行政法的事案」第45回 入札の適正化のために(1)

第45回 入札の適正化のために(1)―セカンドプライス・オークション方式と、デジタル化とオープンソース化             神山 智美(富山大学)

 

はじめに 

「コンペ」「一般競争入札(以下「入札」という。)」という表現を聞かれたことがあるでしょう。入札(にゅうさつ、いれふだ)とは、物品の売買や工事の請負契約などにおいて、最も有利な条件を示す者と契約を締結するために、複数の契約希望者に内容や入札金額を書いた文書を提出してもらい、それらの内容や金額から契約者を決める方法です。

わたくしの職場でも、物品の購入には、この方式がとられています。例えば、私が「A社製のCO2測定器」を、研究費で購入しようと思います。すると、わたくしは、物品購入依頼を、学内のシステムに投入します。その内容は、「A社製のCO2測定器」を1台購入したいというものです。お値段は概算を入れます。次に、契約チームが、複数社に見積もりを取ってくださり、お安いところで妥当な納期で納品できる事業者に発注されるという仕組みになっています。ちなみに、「鉛筆一本」欲しいと要望した場合にも、この複数社見積もりがなされます。「そんな安い物にまで数社見積もりをする方が、コストがかかるのでは?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。驚かれるかと思いますが、こうした仕組みになっています(図表1)。

入札の法的仕組み

どの事業者さんから購入するとかサービスをお願いするということを予め決めてしまうと、自由競争がなされず、不当に価格が上がってしまうことにもなります。競争がないということは、サービス向上や価格を上げないための努力の機会のそうしつにもつながります。そうした事態を防ぐために、入札は行われています。官民双方で利用されますが、より多くの問題が生じるのは公共機関(官)においてです。官ということですので、そのお金の拠出元は「税金」ということになります。だから一層厳しい管理が求められるのですね。

 

法律においても、国および地方公共団体が行う契約は、入札によることが原則とされています。しかしながら、以下の下線部は、入札によらなくてもよいと規定しています。この、入札によらなくともよいには以下のものあります。

会計法29条の3第3項の「契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で第1項の競争に付する必要がない場合及び同項の競争に付することが不利と認められる場合」は指名競争入札に、同条第4項の「契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合」は、随意契約によるものとそれぞれ規定されています。

一般競争入札は、(一定の条件を満たす)希望者すべてを入札に参加させますが、指名競争入札とは、特定の条件により発注者側が指名した者を入札に参加させることになります。随意契約とは、入札などの競争の方法によらず、適当と思われる相手方と契約を締結する方法のことです。

 

〔会計法〕

第29条の3 契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「契約担当官等」という。)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第3項及び第4項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。

2 前項の競争に加わろうとする者に必要な資格及び同項の公告の方法その他同項の競争について必要な事項は、政令でこれを定める。

3 契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で第1項の競争に付する必要がない場合及び同項の競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、指名競争に付するものとする。

4 契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。

5 契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合においては、第1項及び第3項の規定にかかわらず、政令の定めるところにより、指名競争に付し又は随意契約によることができる。

 

〔地方自治法〕

第234条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。

2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる

 

さらに、「公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律」は、公共工事の入札について、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等により、その適正化が図られなければならないとしています(3条)。加えて、指名競争入札の参加者の資格についての公表や、参加者を指名する場合の基準を定めたときには、それらの基準の公表を義務付けています(4条から9条)。

 

〔公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律〕

第3条 公共工事の入札及び契約については、次に掲げるところにより、その適正化が図られなければならない。

1 入札及び契約の過程並びに契約の内容の透明性が確保されること。

2  入札に参加しようとし、又は契約の相手方になろうとする者の間の公正な競争が促進されること。

3  入札及び契約からの談合その他の不正行為の排除が徹底されること。

4 その請負代金の額によっては公共工事の適正な施工が通常見込まれない契約の締結が防止されること。

5 契約された公共工事の適正な施工が確保されること。

 

前記会計法29条の3第5項では、「契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合」のことを規定しています。「契約に係る予定価格が少額である場合」≠「政令で定める場合」となり、いずれの場合も、指名競争入札または随意契約によることができるわけです。ですから、前述したように、「鉛筆一本」の購入でもわざわざ複数社に見積もりを取る必要はないわけですが、そのあたりは各組織の規定等によるかと思います(図表2)。

官製談合とは

いわゆる「官製談合」とは、民間ではなく官(公共入札)において行われる、入札の参加者が落札者(官)と前もって価格等の情報を授受する不公正な話しあいのことを指します。公務員による情報漏洩と整理できます。

この官製談合への適用法条には以下のものがあります。

まず、公務員には、刑法197条1項「収賄罪」、賄賂の収受・要求等により情報漏洩などすると同法197条の3第1項の「加重収賄罪」の適用可能性があります。

次に、入札に際し情報漏示等した公務員は「公契約関係競売等妨害罪」(刑法第96条の6第1項)によって処罰される可能性があります。

さらに、公務員は、入札談合等関与行為防止法(正式名称:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律)8条の「職員による入札等の妨害の罪」は入札等の公正を害すれば足り、独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)違反があることは問われないため、適用可能性が大きいです。

 

〔刑法〕

第96条の6 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第197条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。

第197条の3 公務員が前2条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処する。

 

〔入札談合等関与行為防止法〕

第8条 職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

 

以上のように、公務員には厳しく規定されています。

 

入札参加者同士の談合

他方、談合は公共入札における入札参加者同士のみでも行われており、それらも罪に問われる可能性があります。

具体的には、公務員等に賄賂を供与し、またはその申込み若しくは約束をした者は、刑法198条の「贈賄罪」適用の可能性があります。刑法96条の6第2項の「談合罪」の適用可能性もあります。

また、入札参加事業者に徒党を組まれてしまうと、落札者は値段を吊り上げられる、または「誰も札を入れてくれない(誰も入札参加してくれない)」等の不利益を被ることにもなります。(入札参加者がいないということは、落札者が決まらず、そのため公共事業が事実上年度内には遂行できなくなるということになります。)ですので、やはり規制が必要とされており、独占禁止法3条、2条9項6号の適用可能性もでてきます。

 

〔刑法〕

第96条の6

2 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

 

第198条 第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

 

〔独占禁止法〕

第2条

9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

(6) 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの

イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。

ロ 不当な対価をもつて取引すること。

ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。

ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。

ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。

ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

第3条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

 

「民間企業の活動なのに、談合って罪に問われるのですか?」、「戦略もあるのではないですか?」という意見もあるのではないでしょうか?

では、こうした談合はどういう場合に違法性が問われるのでしょうか?

このように記述すると、違法性が問われない談合があるように思われてしまいますね。はい、実際には、違法性が問われなかった事例もあるので、以下に紹介しておきます(図表3)。それは、東京地立川支部判令和元年9月20日(LEX/DB文献番号25570601)です。(ただし、控訴審では、地裁判決は覆されています。)

本件公訴事実は、「被告人は、土木工事業等を目的とする株式会社Aの代表取締役であるが、東京都青梅市が平成29年4月21日に執行した「幹32号線改修工事(擁壁設置その2工事)」の指名競争入札に際し、Aに同工事を落札させようと考え、同社従業員a及び別表記載のB株式会社代表取締役bほか4名と共謀の上、公正な価格を害する目的で、同表記載のとおり、同月7日頃から同月20日頃までの間、東京都青梅市内又はその周辺において、bらとの間で、口頭又は電話で通話するなどの方法により、A以外の入札参加業者がAの入札金額を上回る金額で入札し、又は入札を辞退することによりAに同工事を落札させる旨順次合意し、もって談合した。」というものです。→(地裁判決は下記のとおり)

「本件指名競争入札の経緯、会社の財務状況、工事の採算性や利点等に照らし、被告人は積極的な受注意思を持っていたとはいえないのであり、もともと低い価格で入札することは考えておらず、他の業者が自由競争により低い価格で落札することを排除する意思もなかったのであるから、被告人には自由な競争により形成される公正な落札価格を引き上げているとの認識はなく、公正な価格を害する目的があったとは認められないのであって、談合罪の成立は認められない。」

官製談合の違法性

官製談合はなぜいけないのでしょうか?

前述したように、その税金の使い方に関するものですので、「機会均等」の理念に最も適合して「公正」であり、かつ、「価格の有利性を確保し得る」という観点から入札が原則とされているわけです。つまり、「機会均等」、「公正性」、「透明性」および「経済性(価格の有利性)」を確保しようと努めているにもかかわらず、その苦労を無にするからでしょう。

 

ここで、「価格の有利性」という言葉について少し説明しておきます。(一般的に品質や性能が他のものと比較して問題がなく、)時価を基準とした予定価格を勘案しても、高額とはならずむしろ「お安いと思える価格」ということになります。特定の者が契約の目的である物件を多量にかかえ売り込む意欲が強い場合等に勘案されることがあります。

ただ、時下を基準としてどの程度お安ければ「価格の有利性」が認められるのかには、明確な基準がありません。ですので、入札によるのが無難と考えられがちです。

 

続き

次回は、官製談合を防ぐための試みを紹介します。

 

(参考)

拙稿「一般競争入札の適正化に関する一考察 ―公務員等の情報漏洩による官製談合への対処―」富山大学紀要. 富大経済論集、67(2)、359-391 (2021-12)