「ビジネスに関わる行政法的事案」第48回 スケボー等の五輪新種目への注目が引き起こす問題

第48回 スケボー等の五輪新種目への注目が引き起こす問題                 神山 智美(富山大学)

 

はじめに

わたくしは、スポーツは詳しくないのですが、それでも、オリンピックの番組やニュースは見ています。東京五輪では、新種目として、新たに5競技、計34種目が追加されました。5競技というのは、順に、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィン、野球・ソフトボールです。

都市型、若者向けのスポーツということで都市型のものが増えたとされています。なかでもスケートボードの華麗さは目を引きました(図表1)。スノーボーダーの平野歩夢選手が、東京オリンピックではスケボーで出場したのは、記憶に新しいですね。こうした歓喜や興奮と同時に、これを真似する人が増えたら危ないなあ、という不安も感じました。実際に、私の周囲の人も、「スケボー始めようかな」と言い始め、「買いに行ったら(思うものが)売り切れだった」等と言っていました。同じような購買意欲をかき立てられた人が、少なくないのでしょうね。

 

「ストリート」と「パーク」

スケートボード競技には、「ストリート」と「パーク」の2種目があります。選手は1人ずつ競技し、技の難易度や独創性が採点されます。

「ストリート」は、手すり、階段、縁石、ベンチ、壁、坂などの障害物を利用し、制限時間内に技術やトリックを披露するものです。オリンピック選手がすると華麗ですが、街なかで練習されたら、ただただ危ないですね。

 

もうひとつの「パーク」は、複雑な曲線が組み合わさったくぼみのあるコースで行われる、スピードをつけて空中に浮き上がった際の技などを競うものです。競技中には音楽が流されます。

競技への注目と練習場整備

このように、若者向けの都市型スポーツということで、スケートボードの人気が出たわけです。このスケートボードは、オリンピック競技であるということから、競技のための練習場の整備が重要になってきます。

スポーツ庁は、東京オリンピックで注目が集まったスケートボード、スポーツクライミング、サーフィン、自転車BMXフリースタイル・パークの4競技・種目について、トップ選手の強化拠点となる「ナショナルトレーニングセンター(NTC)」を整備することを昨年(2021年)9月に発表しました。

トップ選手の強化拠点となるNTCの整備は、もちろん大切なのですが、そこに至るまでのスポーツを楽しむ人たちの練習場の確保も重要になります。私が、「街なかで練習されると危ないだろうな」と感じたように、それなりの練習場所というものが必要になるからです。

しかしながら、この件に関しては、各地で問題も出てきているようですので、以下で順にみていきます。

道路でスケートボードをしていいの?

スケートボードへの言及はないのですが、道路交通法76条4項は、禁止行為を列挙しています。その3号において、交通のひんぱんな道路において、球戯、ローラー・スケートに類する行為を禁じています。ここで問題になるのは、「交通のひんぱんな道路」というのがどの程度かということです。この点に関しては、通行上、迷惑をこうむる人が出てきたらその場合はやめるべき(控えるべき)行為ということになります。

また、明確に禁止標識がある場合には、禁じられているということになります(図表4)。

反対に、交通がひんぱんでなければ、スケートボードをしていいとも読めるので、この点については、もしもスケートボーダーが増えてくれば何らかの整理が必要になるかもしれません。

〔道路交通法〕

第76条 4 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。

一 道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと。

二 道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。

 交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。

四 石、ガラスびん、金属片その他道路上の人若しくは車両等を損傷するおそれのある物件を投げ、又は発射すること。(以下略)

 

お薦めされている練習場所

イトウタスクさんの記事には、以下の場所が、練習場所として推薦されていました。その記事を基に、順に簡単にそれぞれのメリット・デメリットをまとめておきます。

高架下 (長所)

日差しや雨を防いでくれる 。

騒がしい場所なので、スケートボードの騒音が気にならない。

人通りも少なく、人目を気にせずに済む。

通行人に怪我をさせるということを気にせずに済む。

(短所)

私有地であることもある。

スケートボード禁止区域とされていることもある。

堤 防 (長所)

コンクリートなので比較的快適に乗れる。

住宅エリアから離れているので、騒音で迷惑をかけない。

人通りも少なく、人目を気にせずに済む。

(短所)

転んだりしてデッキが川や海に落ちてしまう危険性がある。

スケートボードパーク (長所)

専用施設なので、 路面は非常にスムーズに乗れる。

セクションと呼ばれる障害物があるので、それを使用したトリックの練習をすることもできる。

専用施設なので、安心して練習できるし、仲間もできる。

初心者用スペースも完備されている場合がある。

(短所)

それなりに練習に人が集まってくるので、人目が気になるかもしれない。

各地にできつつあるスケボー施設と増えるトラブル

このスケートボード人気を受けて、スケートボードパークが、各地にできつつあるのですが、トラブルも増えているようです。その最たるものは、騒音です。アスファルトの上を走るけたたましい音は、やはり騒音でしかありません。

そこで夜間は使用禁止にするなどの措置がとられ始めてもいるようです。しかし、パークを時間で閉鎖しても、道路や駐車場というアスファルトの部分はたくさんあります。まして、夜間は人通りも少ないので、照明の下でスケートボードに興じる人たちが出てきます。彼らは、せっかく来たのだから、集まったのだから、となかなか帰ってくれません。夜中まで騒音が続くので、地域とのトラブルになっている事例もあります。

練習場所が確保されていないと、違反行為やマナー違反をしがちです。ですが、もしも練習場所が多少遠くにでも確保され始めてきたのであれば、ちゃんと練習場所を適切に使ってほしいと思います。この「適切に」使うということが重要です。そうでないと、新しい競技であるスケートボードが根付きません。また、せっかく造られた練習場所を使える時間(練習時間)が短くなってしまう、または練習場所が実質的に使えなくなってしまう(規制が厳しくなる)からです。

マナーの良い人たちが集う競技として、世の中に受け入れられていくことを願います。

以上

 

(参考)

ケイティ・フォーキンガム「【東京五輪】 新採用の5競技 どんなスポーツで誰に注目?」

BBC ニュース(JAPAN)https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysi (2022410日最終閲覧)。

「【独自】スケボーなど五輪新競技、スポーツ庁が強化拠点整備へ…来春にも運用開始」

読売新聞オンライン 2021/09/08 05:00 https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210907-OYT1T50247/ (2022年4月10日最終閲覧)。

イトウタスク  「初心者必見! スケボーはどこで乗ればいい?オススメ練習スポット3選」

2021/09/12 https://veltra.com/jp/yokka/article/skateboard_ride-spot/ (2022年4月10日最終閲覧)。

名倉正和「スケボー施設に賛否 五輪契機に拡充動き、トラブル相次ぎ閉鎖も」

2021.10.12  https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/971321.html(2022年4月10日最終閲覧)。

「スケボー施設、各地に続々 五輪で人気、自治体対応―安全確保と地域活性化両立」

jiji.com 2022年01月08日13時31分 https://www.jiji.com/jc/article?k=2022010800147&g=soc(2022年4月10日最終閲覧)。