「ビジネスに関わる行政法的事案」第1回:「特許」「許可」「認可」とは

「行政法」というものを身近に実感してもらう!を心掛けておられる神山智美 富山大学経済学部准教授に「ビジネスに関わる行政法的事案」について連載で執筆していただきます。

第1回は、「許可」「特許」「認可」などの用語についてのお話です。

 

第1回:「許可」「特許」「認可」とは                             神山 智美(富山大学)

 

行政法の教科書には、明確に言い切られていないことが少なくないように感じています。そのため、「行政法ドグマ」といわれる業界内の独特の「何か(“言わなくても皆さんはわかってますよね”、という教義のようなもの)」があるともいわれます。わたしもそうした行政法ドグマの解読に苦しんでいる一人です。ですので、私なりにできるだけわかりやすく、ビジネスに関わる行政法的事案をお伝えしたいと思います。(ただ、わかりやすくと心がけるあまり、簡略化しすぎて意図が歪曲されていくようなことのないようにも気を付けます。)

行政法の勉強を始めると、最初のころに、法律行為的行政行為として、「許可」「特許」「認可」等について学びます。

「許可」「特許」「認可」

「許可」とは、もともと私人が持っている自由を、公共の安全や秩序の維持などの公益上の理由から、法令により禁止しておいて、その禁止を適宜解除する行為です。よって、新たに権利を発生させるもの(形成的行為)ではありません。例として、運転免許が、車の運転の「許可」になります。一般的には車の運転を禁止しておいて、その禁止を解除するためには、運転免許という行政庁の許可が必要という仕組みになっているのです。

「特許」とは、本来私人がもっていない独占的な権利や地位を特定の私人に与える行為です。公有水面である海を見たりその浜辺を散策したりすることは自由ですが、勝手に埋め立てることはできません。その権利や地位を与えるのが公有水面埋立法上の「免許」であり(同法第2条で「埋立ヲ為サムトスル者ハ都道府県知事ノ免許ヲ受クヘシ」と書かれています。)、講学上(学問上)は「特許」に分類されます。他にも、電気事業の許可、帰化の許可などがあります。これらは、国民が本来持っている自由に干渉するものではありません。そのため、「特許」には行政庁の裁量が広く認められます。なお、特許法によって認められる特許は、行政行為の分類では「確認」に該当し、講学上の「特許」には該当しません。

「認可」とは、私人間で締結された契約などの法律行為(売買契約など)を、行政庁が「〜していいよ」と補充することによって、法律上の効力があるようにする行為です。例えば、電気やガスなどの公益性が高い事業を担う企業が料金を値上げする場合も、行政庁の「値上げしてもいいよ」という認可が必要となっています。

講学上の用語と法文上の用語が異なる?

ご理解いただけたでしょうか。ただ、面倒くさいのは、「特許」のところで、「公有水面埋立法上の免許であり、・・・講学上は「特許」と分類されます」と述べたように、講学上の用語と法文上の用語が異なることが少なくないのです。

よく挙げられる例として、農業委員会の許可(講学上は「認可」)があります。例えば、ある人が農地を買ってその上に住宅を建てるには、その売買は農地から宅地に変更するという転用目的なので、まず私人間で売買契約が結ばれますが、農地法3条では、農地の権利を移転するには、農業委員会の「許可」が必要と規定しています。この許可は、講学上は「認可」に当たります。そして、農地を宅地に転用するには、農地法第4条により、私人間の契約の他に都道府県知事(行政庁)の許可(これも講学上の「認可」)がなければならないことになります。

農地法(1954(昭和27)年法律第229号)(抄)

(農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限)

第3条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第5条第1項本文に規定する場合は、この限りでない。

一 第46条第1項又は第47条の規定によつて所有権が移転される場合

二 削除

三 第37条から第40条までの規定によつて農地中間管理権(農地中間管理事業の推進に関する法律第2条第5項に規定する農地中間管理権をいう。以下同じ。)が設定される場合

四 第43条の規定によつて同条第1項に規定する利用権が設定される場合

五 これらの権利を取得する者が国又は都道府県である場合(以下略)

 

第4条 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(略)の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 次条第一項の許可に係る農地をその許可に係る目的に供する場合

二 国又は都道府県等(略)が、道路、農業用用排水施設その他の地域振興上又は農業振興上の必要性が高いと認められる施設であつて農林水産省令で定めるものの用に供するため、農地を農地以外のものにする場合

三 農業経営基盤強化促進法第19条の規定による公告があつた農用地利用集積計画の定めるところによつて設定され、又は移転された同法第4条第4項第1号の権利に係る農地を当該農用地利用集積計画に定める利用目的に供する場合

四 …(以下略)

このように講学上の用語と法文上の用語が異なることがあるので、注意してください。

行政庁の判断

気になるのは、「許可」「特許」「認可」の申請に対しての、行政庁の判断です。

この判断は、各種行政行為の裁量にも幅があることを前提として、根拠法令の趣旨や目的を踏まえ、行政手続法による統制に従って形式や時期に加え、その内容も適正に判断すべきものとされています。こう書かれるとまずは根拠法令を読まねばならないということがお分かりになりますね。こうした根拠法令ごと(各領域)における行政行為とビジネスの関連を、この連載コラムで扱っていければと思っています。今回は初回ですので、以下に短めの具体例を挙げます。

同一の地域内で複数の事業者が「許可」の申請をする場合があります。競合している場合です。例として、公衆浴場法は、公衆浴場営業の許可について、「公衆浴場営業許可の申請が競願関係にある場合には、行政庁は、先願者の申請が『許可』の要件をみたすものであるかぎり、これに『許可』を与えなければならない」(最二小判昭和47年5月19日判時671号34頁)としています。これは、要件該当性の判断は行政庁が行いますが、行政庁としては先に出願されたものから順次審査し、申請が法律上の要件に合致していれば、「許可」しなければなりません。これが「先願主義」といわれるものです。

公衆浴場法(1948(昭和23)年法律第139号)(抄)

第2条 業として公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。

2 都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。但し、この場合においては、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を通知しなければならない。

3 前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区。以下同じ。)が条例で、これを定める。

4 都道府県知事は、第二項の規定の趣旨にかんがみて必要があると認めるときは、第一項の許可に必要な条件を附することができる。

同じように公益性を持つ事業で、電気事業があります。電気事業法における「許可」は、講学上の「特許」にあたります。ですから、「先願主義」の適用はなく、最も能力のある事業者に許可を与えることができるといわれてきました。しかし、電力自由化をうけて法改正もなされてきています。電力事業にも「先願主義」が適用されるようになったのかもしれませんし、競合した場合に事業者を公が選択するという仕組みではなく、むしろ競合はウエルカム(歓迎)で、市場の原理に任せますという手法が執られるようになるともいえます。

こうした行政行為の分類は、明治時代の国家と社会の二区分が比較的明確であったときにつくられたものです。ですので、現行憲法のもとで、また現代にあっては、明確にすることの意義は失われてきているともいえます。

電気事業法(1964(昭和39)年法律第170号)(抄)

(事業の許可)

第3条 一般送配電事業を営もうとする者は、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

(許可の基準)

第5条 経済産業大臣は、第三条の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同条の許可をしてはならない。

一 その一般送配電事業の開始がその供給区域における需要に適合すること。

二 その一般送配電事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力があること。

三 その一般送配電事業の計画が確実であること。

四 その一般送配電事業の用に供する電気工作物の能力がその供給区域における需要に応ずることができるものであること。

五 その一般送配電事業の開始によつてその供給区域の全部又は一部について一般送配電事業の用に供する電気工作物が著しく過剰とならないこと。

六 前各号に掲げるもののほか、その一般送配電事業の開始が電気事業の総合的かつ合理的な発達その他の公共の利益の増進のため必要かつ適切であること。

加計学園問題でいうと

では最後に、現在(2018年4月現在)世間を騒がしている加計学園問題を考えてみましょう。学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)は2018年4月3日、国家戦略特区の愛媛県今治市で岡山理科大獣医学部を開学しました。それまでの経過、特に文部科学相が2017年11月に獣医学部新設の認可をしており、そのあり方が問われています。ちなみに学校教育法4条では「認可」と記されていますが、これは講学上は何に該当するかというのが私が目下(もっか)考えていることです。ちなみに条文は、以下です。

学校教育法(1947(昭和22)年法律第26号)

第4条 次の各号に掲げる学校の設置廃止、設置者の変更その他政令で定める事項(次条において「設置廃止等」という。)は、それぞれ当該各号に定める者の認可を受けなければならない。これらの学校のうち、高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)の通常の課程(以下「全日制の課程」という。)、夜間その他特別の時間又は時期において授業を行う課程(以下「定時制の課程」という。)及び通信による教育を行う課程(以下「通信制の課程」という。)、大学の学部、大学院及び大学院の研究科並びに第108条第2項の大学の学科についても、同様とする。

一 公立又は私立の大学及び高等専門学校 文部科学大臣

二 市町村(市町村が単独で又は他の市町村と共同して設立する公立大学法人を含む。次条、第13条第2項、第14条、第130条第1項及び第131条において同じ。)の設置する高等学校、中等教育学校及び特別支援学校 都道府県の教育委員会

三 私立の幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校 都道府県知事

今回問題になったのは、獣医師を養成する獣医学部の設置でした。獣医師の養成や大学の設置は、本来国民が持ちうる権利または地位と言えるのかどうかという部分が気になりました。わたしは、大学経営や獣医師養成には多額の公費が導入される事業であるという性質であることからも、講学上の「特許」であると判断しています。しかし、その子女の教育権は本来保護者にあり、有名な私立大学などはもちろん私人が開設(当初は私塾として開設)してきたわけですから、学校を創る権利は国民にあると言えるかもしれません。そう捉えると、「許可」ともいえそうです。ともあれ、「許可」と「特許」の差は明確ではないという基本書の文言を見つけ、安堵しております。やはり明確ではないのでしょう。

他方、この学校教育法4条は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、大学の学部、大学院の設置には「認可」が必要であると定めています。幼稚園から大学院までが同じ条文で規定されている幅広い条文です。とすると、いわゆる無認可幼稚園(無認可なのに「幼稚園」として設置してよいかという疑問はありますが)が存在することから、幼稚園に関しては「認可」なのだろうかとも考えています。

皆さんはどう考えられますか。

以上