「ビジネスに関わる行政法的事案」第56回 有害図書指定が図書販売に与える影響―条例の域外適用

第56回 有害図書指定が図書販売に与える影響―条例の域外適用       神山 智美(富山大学)

 

はじめに

「白ポスト」ってご存じですか?成人が、子供がいる自宅に有害図書を持ち帰らないように設けられたポストのことです。かつては、「確かに駅にあったな」と思うのですが、現在ではかなり古くなったまま放置されていたり、その後撤去されたり、というとことも増えているようですね。

そもそも有害図書(多くは電車の中で読むために駅等で購入した雑誌でしょうか)を購入する人も少なくなったからかもしれません。

ご興味がある方は、最寄りの「白ポスト」がどこにあるか確認してみてください。

今回は、「有害図書」指定のお話です。

有害図書とは

では、有害図書とはというものを指すのでしょうか?白ポストに入れるのは、移動途中に読む成人向けの雑誌のようなものを想定しているでしょう。

各都道府県は、青少年健全育成条例を設けています。その目的は、「青少年の健全な育成」であり、そのための環境整備をすることにあります。

健全な育成のために、触れさせたくない書籍を選定して、目に触れないように(手が届かないように)しておくということですね。

具体的な有害図書の基準は、条例の中に示してあります。以下に、大阪府青少年保護条例13条の規定をわかりやすくまとめた大阪府のウェブサイトの記述を抜き出しますので見てください。指定の方法は以下の3種類があります。

まず1つ目の個別指定(条例13条1項)です。

知事が、図書類の内容の全部または一部が次のいずれかに該当すると認めるときは、大阪府

青少年健全育成審議会の答申を経て個別に指定をします。

・青少年の性的感情を著しく刺激し、青少年の健全な成長を阻害するもの

・青少年の粗暴性または残虐性を著しく助長し、青少年の健全な成長を阻害するもの

・青少年の犯罪を著しく誘発するおそれがあり、青少年の健全な成長を阻害するもの

なお、知事が「有害図書類」の指定を行ったときは、指定の都度、大阪府公報により告示されます。

【近年の個別指定の状況】                         (冊)

指定理由 \ 年度 H18 H19 H20 H21 H22 H23以降
青少年の性的感情を著しく刺激 65 122 118 38 11 0
青少年の粗暴性または残虐性を著しく助長 0 5 1 0 0 0
青少年の犯罪を著しく誘発するおそれ 0 0 0 0 0 0

個別指定された図書類名等の詳細は、こちらをご覧ください。(別途告示が表示されている。https://www.pref.osaka.lg.jp/koseishonen/jorei/tosho_ichiran.html

 

2つ目の包括指定(条例13条2項1号および2号)です。

質的、量的に、次の基準を満たす図書類については、審議会による個別の指定がなくても有害図書類となります。

書籍・雑誌等の場合
全裸又は半裸での卑わいな姿態、性交またはこれに類する性行為で下記の内容を掲載するページ(表紙を含む)の数が、 総ページの10分の1以上または10ページ以上を占めるもの

ビデオテープ、CD-ROMDVD
全裸または半裸での卑わいな姿態、性交またはこれに類する性行為で下記の内容を描写した場面が合わせて3分を超えるもの

 

条例第13条第2項で定めている基準
1 全裸または半裸での卑わいな姿態(陰部または陰毛を覆い、ぼかし、または塗りつぶしている場合を含む。)
(1) 陰部または陰毛を露出し、または強調した姿態
(2) でん部を露出し、または強調した姿態
(3) 自慰の姿態
(4) 女性の排せつの姿態
(5) 陰部、胸部またはでん部へのせっぷんまたはこれらへの愛ぶの姿態

2 性交またはこれに類する性行為(陰部または陰毛を覆い、ぼかし、または塗りつぶしている場合も含む。)
(1) 性交または性交を明らかに連想させる行為
(2) サディズムまたはマゾヒズムによる性行為
(3) 強姦もしくは強姦を明らかに連想させる行為または強制わいせつ行為

包括指定の例示を掲載しています。
 平成22年4月16日(包括例示)(*2023年3月18日現在、リンクがつながりませんでした。筆者)

 

 3つ目の団体指定(条例13条2項3号)です。

図書類の製作または販売を行う者の組織する団体で、知事が指定した団体が審査し、青少年の閲覧、視聴等を不適当と認めたものは、有害図書類となります。
下記のマークがついたビデオテープやDVD、家庭用ゲームソフト、パソコンソフト等は有害図書類となります。

 

有害図書の販売に関する条例の規定

有害図書類の販売等の禁止は、条例14条に規定されています。大阪府のウェブサイトには、以下のように説明されています。つまり条例14条1以降で、販売店には罰則付きの禁止が規定されています。

書店、ビデオ・CD・DVD等の販売・レンタル店、コンビニエンスストア、まんが喫茶など、図書類の販売、貸付けまたは閲覧し、もしくは視聴させることを業とする者は、「有害図書類」を青少年に販売し、貸し付け、頒布し、贈与し、もしくは青少年の物品と交換し、または閲覧させ、視聴させ、もしくは聴取させたりすることを禁止しています。
違反した場合、30万円以下の罰金が科せられます。【第1項】

また、すべての府民は、上記の禁止されている行為を行わないよう努めなければなりません。【第2項】

インターネット販売による有害図書に関する条例の規定

前述の大阪府条例は、対面販売を想定しての条例でした。しかし、街の本屋さんも減ってきていますね。新型コロナウィルス感染症の影響もありましたので、おそらくインターネット販売で購入される人が多いのでしょう。

そこで、鳥取県では、有害図書のインターネット販売に対する規制を条例化しました。これには、2020年6月に兵庫県宝塚市で家族4人らが死傷した事件で使われたボウガン(洋弓銃)がインターネット販売で購入されていたことも影響しています。

具体的には、以下の下線部を加える条例改正が行われました。つまり、図書類またはがん具刃物類の販売等を業とする者に、有害図書または有害がん具刃物類を、インターネットその他の方法により鳥取県内において販売等を行うことを禁じています。これに違反した者は、30万円以下の罰金に処するものとしています。

〔鳥取県青少年健全育成条例(抄)〕

(有害図書類又は有害玩具刃物類の販売等の禁止)

第16条 図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者は、有害図書類又は有害玩具刃物類を青少年に販売し、頒布し、貸し付け、又は交換により入手させてはならない。

2 前項の規定は、インターネットの利用その他の方法により鳥取県内において前項に規定する行為を行った全ての図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者に適用する。

 

第26条 (略)

2 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

(1) 常習として第16条第1項又は第17条第1項の規定に違反する行為をした者

5 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。

(1) 第16条第1項第17条第1項第21条の2第1項又は第21条の3の規定に違反した者

インターネット販売会社は対応可能か?

対面だけで販売するものではない場合には、その実質的効果を担保するにはすべての販売手段を規制する必要があるでしょう。もちろんインターネット販売も規制対象とする必要もありますし、自動販売機などもそうでしょう(図2)。

ただし、インターネット販売事業者は、県外に基盤を置く事業者であることが多く、そうした場合には鳥取県はどのように対処をするのでしょうか?

鳥取県は、鳥取県内の子供たちに有害図書を「販売」をしてほしくないわけですので、有害図書の指定について同県内の書店と大手インターネット販売会社(大手通販会社)に文書で通知しています。

では、連絡をされた大手インターネット販売会社はどのような対応をしているのでしょうか?例としてAmazon co.jpは、以下のような方針を公表しており、それに従っています。

具体的には、「各自治体の『青少年保護育成条例』によって指定された有害、不健全図書およびそのシリーズ。」を出品禁止にしています。

従前は、「『東京都青少年の健全な育成に関する条例』に定められた不健全図書は商品登録できません。同条例に定められた不健全図書とは、青少年の健全な育成を阻害するものとして東京都知事により指定された図書です。」と記されていました。このように、かつては東京都基準でしたが、現在では、コンプライアンス重視ということもあり、「各自治体の青少年保護育成条例」を勘案することを明記しています。

こうなると、一つの都道府県のうちの一つでも当該書籍を有害図書に指定してしまうと、大手インターネット販売会社で扱ってもらえない商品になってしまうわけですから、「出版社」にはダメージが大きくなります。

ここで把握していかねばならないのは、「購入者」-「販売者(インターネット販売会社含む)」-「出版社」の関係です。販売者は、条例の趣旨を踏まえて(リスクも考慮して)、商品を取扱いしないという方法を取りますが、困るのは「出版社」のみです。つまりすべての都道府県で青少年に対して販売禁止にされるような条例の指定があるわけでもないのに、当該書籍を商品として取り扱ってもらえないことで、全国的に、それもすべての年齢層に購入してもらう機会を失ってしまうからです。

「どういうものが有害図書になるのか、興味があるから是非購入してみたい」と思われるような人が増えると、出版社もうれしいのでしょうが。そういう書籍が、子供たちの目にふれやすくなるのも避けたいと思います。

条例の効力(条例の域外適用)

条例は、こうした全国的なインターネット販売への影響も勘案しながら策定せねばならないのでしょうか?それとも、全国的に販売しない(商品を取り扱なない)と決定したのは、あくまでインターネット販売会社なので、都道府県は勘案する必要はない事項なのでしょうか?

皆さんはどう思われますか?

(参考)

大阪府青少年保護育成条例関連ウェブサイト(所管:福祉部子ども家庭局子ども青少年課青少年育成グループ)

「有害図書類とは(有害図書類指定制度と指定一覧)」更新日:2013年5月13日

https://www.pref.osaka.lg.jp/koseishonen/jorei/yugai.html

ITMedia News 「『鳥取での販売がもはやリスク』──県の有害図書指定でAmazonから排除 三才ブックスが抗議のPDF公開」2022年8月27日

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E9%B3%A5%E5%8F%96%E3%81%A7%E3%81%AE%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E3%81%8C%E3%82%82%E3%81%AF%E3%82%84%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF-%E7%9C%8C%E3%81%AE%E6%9C%89%E5%AE%B3%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E6%8C%87%E5%AE%9A%E3%81%A7amazon%E3%81%8B%E3%82%89%E6%8E%92%E9%99%A4-%E4%B8%89%E6%89%8D%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%8C%E6%8A%97%E8%AD%B0%E3%81%AEpdf%E5%85%AC%E9%96%8B/ar-AA119dc4

山内浩平「『ネット販売禁止』、鳥取県の『有害図書』条例が波紋広げる…アマゾン県外も中止 出版社は反発」2022/12/20 06:00讀賣新聞オンライン

https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20221220-OYO1T50000/

吉田良隆「鳥取県青少年健全育成条例のインターネット販売に与える影響について」富山行政法研究会 2023年1月28日報告

 

以上