「ビジネスに関わる行政法的事案」第17回:インターネットによる医薬品販売と診療の提供(2)

第17回:インターネットによる医薬品販売と診療の提供(2)        神山 智美(富山大学)

 

はじめに

先日のGBL研究会の懇親会で話題に出たことに、「東京暮らしと地方暮らし」があります。「地方暮らしで困るのは大きな書店と図書館がないことかな。行ってすぐに頁数や内容が確認できるのは便利だから。」という発言がありました。わたしは、かなり出不精なので、「PCと電話があれば、どこでも生きていけます。」とは言っています。とはいえ、実際に地方暮らし(田舎暮らし)には、それなりの不便があるのを実感しています。

 

デュアラー、デュアルライフとはいうけれど

昨今「デュアラー(都心と田舎の2つの生活=デュアルライフ(2拠点生活)を楽しむ人たちのこと)」という言葉をよく聞くようになりました。単なる職場都合の単身赴任ではなく、意図的に2つの地点での生活を確保する生き方のようです。移住者に対して手厚い支援をしてくれ、のびのびとした子育てができ、煩わしいものもなく仕事にも集中できると、地方での生活も評価されてきたようです。

移住者に対しての手厚い支援には、日ごろの生活に密着した医療・介護、子育て、文化・教育、インターネット等の環境整備もあります。とりわけ地方にいても質の高い教育や医療を受けるためには、インターネットの利用が不可欠です。以下では、インターネット診療についてご説明します。

 

インターネット診療またはオンライン診療とは?

いわゆるインターネット診療またはオンライン診療とは、「遠隔診療サービス(ポートメディカル)」のことです。パソコンの前で診察が受けられるのであれば、病院嫌いの人も時間のない人も、もっと医療サービスを受けやすくなることが期待されます。

私は2-3箇月に1度お医者にお薬をもらいに行きます。わざわざ診療するでもなく「変わりなければいつものお薬を出しておきますね。」と言われてもらってくるだけですので、こういうタイプの患者には、インターネット診療(オンライン診療)と処方箋の受領(処方箋に基づくお薬のインターネット購入等)は適していると思います。

 

厚生労働省の見解の進展

「遠隔診療」の普及には医師法第20条の「対面診療の原則」の取扱いが問題となります。

〔医師法〕

第20条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

 

ちなみに、医療提供場所に関しては、医療法第1条の2の規定があります。

〔医療法〕

第1条の2 (略)

2 医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(略)、医療を受ける者の居宅等(略)において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。

 

そこで、医療領域を所管する厚生労働省は、1997(平成9)年12月24日付の同省健康政策局長通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(以下「平成9年遠隔診療通知」。平成15年と同23年に一部改正)を出し、「診療は、医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。」としつつ、「医師法第20条等における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。したがって、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」との基本的考え方を示しました。また、この通知では、「遠隔診療」の対象(適用範囲)が「別表」として記載されているにとどまっていました。

その後、2015(平成27)年8月10日付の同省医政局長通知では(以下「平成27年遠隔診療通知」という。)では、上記の平成9年遠隔診療通知で例示した「遠隔診療」の適用範囲などを、必要以上に狭く解釈しなくてよいことを強調しました。そして、「直接の対面診療を行った上で、遠隔診療を行わなければならないものではない」と明記しました。事実上、平成27年遠隔診療通知は、遠隔医療*におけるオンライン診療**の活用を広く認める方針を打ち出したといえます。

(定義)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」平成30年3月 厚生労働省より

*遠隔医療:情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為

**オンライン診療:遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。

2017(平成29)年7月14日付の同省医政局長通知(以下「平成29年遠隔診療通知」という。)では、平成9年遠隔診療通知の内容のより明確化を図っています。加えて、平成27年遠隔診療通知に加えて、「保険者が実施する禁煙外来については、(中略)医師の判断により、直接の対面診療の必要性については柔軟に取り扱っても直ちに医師法第20条等に抵触するものではないこと」、「患者側の理由により診療が中断し、結果として遠隔診療のみで診療が実施された場合には、直接の対面診療が行われなくとも直ちに医師法第20条等に抵触するものではないこと」を示しています。

 

遠隔診療の射程

それではどこまでこの遠隔診療は可能とされてきているのでしょうか。厚生労働省通知から見ていきましょう。

平成9年遠隔診療通知では、「直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」とした上で「遠隔診療」の適用範囲を例示しています。

具体的には、「ア 直接の対面診療を行うことが困難である場合(例えば、離島、へき地の患者の場合など)」と「イ 直近まで相当期間にわたって診療を継続してきた慢性期疾患の患者など病状が安定している患者に対する遠隔診療(例えば「別表」に掲げるもの)を実施する場合」になります。「別表」は以下の通りです。(⑧⑨は平成23年改正通知で追加されました。)

 

平成27年遠隔診療通知では、平成9年遠隔診療通知における「ア、離島、へき地の患者」、「イ 別表」は、あくまでも例示であることが示されました。つまり、「ア、離島、へき地の患者」、「イ 別表」以外でも遠隔診療が可能であることが明示されたのです。

平成29年遠隔診療通知では、「直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合」のほか「保険者が実施する禁煙外来」には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法違反とはならないことが示されました。

 

オンライン診療の適切な実施に関する指針―2018(平成30 )年3月

いよいよわからなくなってきましたね。「直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合」とは、具体的にはどの程度なのでしょうか?各医師が、「直接の対面診療に代替し得る程度」と判断すればよいのでしょうが、判断できるのでしょうか?

こうした疑問に対応するべく、2018(平成30)年3月に、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「指針」という。)が厚生労働省の「情報通信機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討会」によって策定されました。なお、この指針は、遠隔医療のうちのオンライン診療について規定されています。遠隔医療とは、医師―患者間のものに限らず広い医療行為を指します。そのため「遠隔医療オンライン診療」ですので、図表3を確認しておいてください。

この指針は、当面の間は毎年改訂される予定です。「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」を設置して、不適切事案への対策が図られることになっています。

 

 

『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&Aについて―2018(平成30 )年12月

厚生労働省は、2018(平成30)年12月26日に、通知「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&Aについて」を発出して、より具体的なルールを示しています。このQ&Aは、現在は9件しかありませんが、今後は次第に充実していくことでしょう。

不適切事案とは

厚生労働省が指摘する不適切事案には以下のようなものがあります。「初診時の適切な対面診療を行わずに、オンライン診療を行う事例」、「医師免許を持たずに、オンライン診療を行う事例」、「痩身薬と称して糖尿病治療薬等をオンライン診療で処方するケース」です。

「薬を配送する」サービスの営業を目的として、遠隔診療を広げるクリニックもあるようです。だからといって、近所のお医者には行きづらいAGA(男性型脱毛症)、ED(勃起不全)のためのバイアグラ、性感染症治療、心療内科や睡眠障害の治療のためのお薬をもらうために、遠隔地のクリニックやお医者をわざわざ受診するのもどうかと思います。利用者(受診者)も、対面診療と組み合わせて、信頼できる「かかりつけ医」をできるだけ身近に見つけられると良いですね。

 

以上