「ビジネスに関わる行政法的事案」第2回:計画の「認可」とは?―採石業

第2回:計画の「認可」とは? ー 採石業                神山 智美(富山大学)

 

第1回目は、「特許」「許可」「認可」とは、というタイトルで、行政行為について学びました。面倒くさいことに、法文上は「認可」と書かれているのに、行政法学上は別の類型、例として「許可」や「特許」に分類されるものも、また、その反対等もあるということでしたね。

今回は、法文上は「認可」と書かれていますが、行政法学上は「許可」に属するものに関するお話です。

 

採石業と採石法

鉱業法、採石法および砂利採取法という法律に明るい人はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。あまりなじみがないと思われるかもしれません。ただ、採石現場に足を踏み込んだことがない人でも、レジャーででかけた川べりや山のふもとあたりで、砂利採取している現場などを見かけたことはあるでしょう。また日本は、鉱廃水による被害が甚大であった歴史を持っています。といえば、例として、足尾銅山鉱毒事件やイタイイタイ病が思い浮かぶことでしょう。前者の加害企業は古河鉱業、後者のそれは三井金属鉱業という大企業でした。しかし、現在の採石業は、コンクリートなどの骨材を生産する砕骨材採取業、建築材や墓石等を生産する石材採取業、および工業用原料採取業の三つが種たる業態です。それらの事業は、零細な多くの事業者によって支えられているといわれています。これらの事業者の業務に準用されるのが、先に示した鉱業法、採石法および砂利採取法です。

 

採石するには…

事業者は、採石するためには、採石法33条の採取計画の認可を都道府県知事に申請する必要があります。認可の基準は、同法33条の4に規定されています。この認可に際して、同法33条の6によって、関係市町村長の意見を聴くことが必要とされています。また、処分行政庁は、同法33条の7により、必要に応じて条件を付すことも可能とされています。

 

採石法(昭和25年法律第291号)(抄)

第33条(採取計画の認可)

採石業者は、岩石の採取を行おうとするときは、当該岩石の採取を行う場所(以下「岩石採取場」という。)ごとに採取計画を定め、当該岩石採取場の所在地を管轄する都道府県知事(略)の認可を受けなければならない

第33条の4(認可の基準)

都道府県知事は、第33条の認可の申請があつた場合において、当該申請に係る採取計画に基づいて行なう岩石の採取が他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、又は農業、林業若しくはその他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反すると認めるときは、同条の認可をしてはならない。

第33条の6(市町村長の意見の聴取等)

都道府県知事は、第33条の認可又は前条第一項の規定による変更の認可に係る処分をする場合は、関係市町村長の意見をきくとともに、これらの処分をしたときは、その旨を当該関係市町村長に通報しなければならない。

第33条の7(認可の条件)

第33条の認可又は第33条の5第1項の規定による変更の認可には、条件を附することができる。

2 前項の条件は、認可に係る事項の確実な実施を図るため必要な最小限度のものに限り、かつ、認可を受ける者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。

第39条(裁定の申請)

第12条の決定(採石権の譲受に係るものを除く。)、第15条第1項(略)の決定、第28条の決定、第33条の認可若しくは第33条の5第1項の規定による変更の認可に係る処分、第33条の9の規定による変更命令、第36条第1項の許可若しくはその拒否又は第37条第1項の規定により適用される土地収用法の規定による土地の使用に関する裁決に不服がある者は、公害等調整委員会に対して裁定の申請をすることができる。

 

採石計画の「認可」は、行政法上の採石「許可」にあたる

さて、「認可」とは、「私人間で締結された契約などの法律行為(売買契約など)を、行政庁が『〜していいよ』と補充することによって、法律上の効力があるようにする行為」と前回学びましたね。

この採石計画の「認可」は、行政法上の「許可」に当たります。もともと私人が持っている自由を、公共の安全や秩序の維持などの公益上の理由から、法令により禁止しておいて、その禁止を適宜解除する行為だからです。ですので、この許可(法文上は採石計画の認可)がないと、採石業者は採石できないことになります。

 

岩石採取計画の認可義務付け等及び認可差止め請求控訴事件

名古屋高判平成27(2015)年7月10日判時2285号23頁―事件のあらまし

では具体的な事件を見てみましょう。この案件は、採石法39条により、現在は国の公害等調整委員会で係争中です。

三重県内の事業者が、県知事に採石許可(以下、「採石計画の認可」を「採石許可」といいます。)を求めて書類を提出しました。しかし、5回も補正指示、つまり修正を強いられてもなかなか許可が得られませんでした。そのため、事業者(A社)は、なかなか判断してくれない県知事に対して、甲事件(採取計画認可義務付け等)を提訴しました。県知事が判断をためらう理由は、採石法第33条の4の基準に合致しているのかを判断しかねているからでした。

他方、県漁業協同組合連合(県漁連)らが、県知事らに対して採石許可をしないようにという意見書や署名簿の提出を繰り返してもいました。県漁連らは、原告として乙事件(採石計画認可差止め請求)を提訴しました。

事業者を原告とする甲事件と、県漁連らを原告とする乙事件は、いずれも同一の採石許可についてのものでしたので同時に審理されることになりました(図表1参照)。

<係争の経過>

第一審判決

第一審(津地判平成26(2014)年4月17日判時2285号39頁)はA社の請求を全て認容しました。(1)採石許可の判断を保留していること、(2)許可を出さないこと、(1)(2)いずれも違法であると判断したのです。

 

第二審判決から最高裁へ

しかし、第二審(名古屋高判平成27(2015)年7月10日判時2285号23頁)は(1)認可申請に対し判断を保留し続けた県の対応を違法としたものの、(2)認可申請命令を認めませんでした。つまり、態度を明らかにしない(判断しない)のは良くないけれど、その内容からは、採石許可すべしとは言えないと判断したのです

この結果を受けて、A社は上告しましたが、最高裁に棄却されました。さらに、上告棄却1カ月ほど後に県知事により不認可処分がなされました。A社がそれを不服として同法39条により公害等調整委員会に対して裁定の申請をしたため、この事件は現在もまだステージを変えて係争中です(図表2参照)。ちなみに、県漁連らを原告とした乙事件は、いずれも棄却されています。

 

公害等調整委員会での争いですが、「現況はどうなっていますか」という筆者の問いに、三重県の担当者は、「上告棄却後に『不認可』としました。当然に事業者側は不服としていますから、公害等調整委員会で現在係争中です。」と回答してくださいました。平等性を期するため、A社の社長さんにもお話を伺いました。いずれのご主張も、全貌を把握できてはいない私には甲乙つけがたく感じております。係争中でもあり、回答の詳細をここで記すのは控えます。

第一審と第二審の判断の違い

(1)について:第一審も第二審も、採石許可申請の判断を保留するのは良くない(違法である)と判断しています。第二審では、データ採取や大学教授らの意見書をもって、「平成26年12月末日の時点では、降水量に関する最新のデータに基づいて新規の採石認可申請に関する判断を行うことが可能な状態になっていたと認められる」とまで言及しています。

(2)について:第一審は、基準を満たしていれば、特段の事情がない限り、認可の基準を満たしているものとすべしと判断しています。裁判官は、基準というものがあってそれをクリアーしていれば許可できるのであり、本件は基準を満たしていると判断できるので、許可すべきであるのに、と判断しました。つまり、第一審の裁判官は、採石法第33条の4の基準を、一義的に要件を満たしているかいないかを判断できるものであると考えたのでしょう。

しかし、第二審は、本件全証拠によっても、行政処分庁が認可すべきか否か、認可すべき場合に条件を附すべきか否か、あるいはどのような条件を附すべきか等について「一義的に明確になっているとは認めがたい」としました。その上で、「申請どおりの処分をしなければならないとまでいうことはでき」ないと判示しました。第二審の裁判官は、採石法第33条の4の基準を、一義的に要件を満たしているかいないかを判断できるものではなく、処分行政庁の裁量も広いと判断したのでしょう。

 

採石法第33条の4(認可の基準)

ここで33条の4をもう一度読んでみましょう。

「都道府県知事は、第33条の認可の申請があつた場合において、当該申請に係る採取計画に基づいて行なう岩石の採取が他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、又は農業、林業若しくはその他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反すると認めるときは、同条の認可をしてはならない。」

県漁連らからの反対があったことを勘案すると、問題となっているのは「農業、林業若しくはその他の産業の利益を損じ」の部分でしょう。水が濁ることによる環境劣化により他の産業へのダメージの有無の判断には、処分行政庁の広い判断があるように読み取れます。筆者としては、第二審の判決を支持したいと思います。

 

行政の判断の公平性・平等性、対応の誠実さ

とはいえ、気になる点もあります。

本件では、図表1にあるように、処分行政庁による度重なる時間稼ぎともとれる補正指示が5回もなされました。これでは、判断を保留されたことにつき、筆者なら損害賠償請求をしたくもなります(A社は請求していません。)。

また、訴外他事業者(A社以外の事業者)らは本件採取計画地の近辺での採取許可を更新等していますし、これらの訴外他事業者らの採取許可に関しては、同処分行政庁は水質悪化などの調査を行わずに判断していることなどから、「ダブルスタンダード」、つまり処分行政庁は恣意的な判断をしているのではないのかとも考えられる点です。ただし、これには県知事側には、一貫した基準であるという言い分があるようです。

公害等調整委員会の裁決を待つことにいたしましょう。

 

採石許可の今後

いずれにしても、採石法は産業(促進)法であり、従来は第一審判決のように、基準というものがあってそれをクリアーしていれば許可できるとしてきたものです。それが、法改正もなされないままに、審査が厳しくなることにA社は戸惑いを感じたことでしょう。

開発法および産業(促進)法という種類の法律は、昨今の環境保全(エコ)というものが重視されてきている時代の後押しもあり、環境配慮化してきているようです。ですので、企業にもこうした姿勢が求められているのでしょう。

他方、法令改正(整備)もないままに、明白性を欠く規準によって審査がなされているのが実態です。必然的に、行政庁の裁量に委ねる部分も大きくなります。

できるだけ、客観的に「一義的に明確になっている」状態を目指して、許可基準のより明白化が求められていると考えます。

 

以上

 

(参考)

神山智美(2018)「岩石採取計画の認可義務付け等及び認可差止め請求控訴事件」判例地方自治No.430 ,pp75-79, ぎょうせい出版.