「ビジネスに関わる行政法的事案」第32回:SOGI(ソジ)ハラって知ってますか?

第32回:SOGI(ソジ)ハラって知ってますか?     神山 智美(富山大学)

 

はじめに

SOGI(ソジ)ハラスメントってご存じですか?私も、つい最近、新聞やネットニュース等で知りました。新しい言葉のようで、Sexual Orientation(性的志向:どんな性を好きになるか)Gender Identity(性自認:自分の性を何と考えるか)の頭文字を採ったもののようです(図表1参照)。

 

ハラスメントとは、それを基にして嫌がらせをする行為の総称ですので、少数者である性的志向や性自認の人(セクシャルマイノリティ)に対する嫌がらせ行為のことを指します。

少数者である性的志向や性自認の人とは、一般的には「LGBT」、「LGBTQ+」または「LGBTX」等という表現が普及しています。LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)、クエスチョニング・クィア(Q)等です。

「クエスチョニング・クィア(Q)」って何?と思われる方も多いでしょう。セクシャルマイノリティというものには様々なかたちがあるようです。LGBTはそのなかの4つに過ぎないようです。「クエスチョニング・クィア(Q)」は、自身の性自認や性的志向が定まっていない、または意図的に(まだ)定めていないことのようです。「Xジェンダー」という表現も類似の表現のようです。

 

 

ですので、大事なことは、分類わけではなく、こうしたセクシャルマイノリティの方が存在していることを前提に、どういう社会であるべきかを考えていくことであろうと思います。今回は、SOGIハラについて考えます。

 

変容してきた社会

セクシャルマイノリティの方に関する多くの報道がなされてきています。ですので、それとわかっていたら、「差別をする」、「偏見をもって見る」ということはしないでしょう。社会も模索を続けていますね。

例えば、渋谷区には、「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」があります。その10条では、区がパートナーシップ証明を行うことが規定されています。この部分だけが注目され、「同性婚条例」「同性カップル条例」等ともいわれましたが、条例の目的は、あくまでも「男女平等と多様性を尊重する社会の推進」に係り「多様な個人を尊重し合う社会の実現を図ること」です。

同条例は、事業者にも、7条の責務が課せられており、採用、待遇、昇進、賃金等における就業条件の整備(7条2項)や職場環境の整備、長時間労働の解消等(同条4項)の“人間を尊重する労働環境の確保”への企業努力を求めています。

〔渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例〕

第7条 事業者は、男女平等と多様性を尊重する社会について理解を深めるとともに、区が実施する男女平等と多様性を尊重する社会を推進する施策に協力するよう努めるものとする。

2 事業者は、男女平等と多様性を尊重する社会を推進するため、採用、待遇、昇進、賃金等における就業条件の整備において、この条例の趣旨を遵守しなければならない。

3 事業者は、男女の別による、又は性的少数者であることによる一切の差別を行ってはならない。

4 事業者は、全ての人が家庭生活、職場及び地域における活動の調和のとれた生活が営まれるよう、職場環境の整備、長時間労働の解消等に努めるものとする。

 

第10条 区長は、第4条に規定する理念に基づき、公序良俗に反しない限りにおいて、パートナーシップに関する証明(以下「パートナーシップ証明」という。)をすることができる。

 

企業の社内制度や、家族へ優遇サービスの「家族」概念も少しずつ変容してきています。

社内規定の「配偶者」の定義も変わってきています。「ヤフー」は、2017年6月から、同性や内縁のパートナーにも「配偶者」と同等の福利厚生を適用するとしています。2017年7月には、キリングループは、LGBTに対する差別禁止をコンプライアンス規定に明記しました。そして、性的適合手術を受けるための休暇取得に、過去に失効した有給休暇の復活活用を可能としました。

NTTグループも先駆的な企業であり、それを商品にも生かしています。具体的には、2016年から同性カップルに対する結婚祝い金の支給や結婚休暇の付与をスタートしていたNTTグループは、2018年4月に制度を大幅に拡充しています。扶養手当や単身赴任手当の支給や、世帯向けの社宅への入居、同性カップルが養子を迎えた場合の育児休暇の付与などの制度も整備し、同性カップルを夫婦と変わらない扱いにしました。また、2015年11月  に、「NTTドコモ」「ソフトバンク」「KDDI」携帯電話会社は、その「ファミリー割引」の対象に、同性パートナーも加えています。

保険会社も、自社商品への適用において、「配偶者」概念を見直しています。これにより、同性パートナーを生命保険の受取人に指定することも可能となりました。

 

勝手なアウティングも禁じられる

アウティング」ってご存じですか?本人の了解を得ずに、公にしていないことを第三者に暴露することです。ここでは、性的指向や性自認等のセンシティブな情報(秘密)を暴露する行動のことを指します。それに対して、自身で納得しながら打ち明けることは「カミングアウト」と言います。これら2つの違いは、本人が了解しているかどうかということですので、自己情報管理権(自己情報開示権、プライバシー権)の問題になりますね。

この性的指向や性自認等のアウティングの規制に関しては、既に条例が策定されています。市町村のなかで最初に策定したのは、国立市です。「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」の8条2項では、アウティングを禁止しています。しかし、罰則はありません。

都道府県のなかで最初に策定を目指しているのは、三重県です。三重県では、アウティングのみならず、カミングアウトの強制も禁じる方針です。

国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例

第8条 何人も、ドメスティック・バイオレンス等、セクシュアル・ハラスメント、性的指向、性自認等を含む性別を起因とする差別その他性別に起因するいかなる人権侵害も行ってはならない。

2  何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない。

3  何人も、情報の発信及び流通に当たっては、性別に起因する人権侵害に当たる表現又は固定的な役割分担の意識を助長し、是認させる表現を用いないよう充分に配慮しなければならない。

 

これもアウティングになるの?

わたしは、この性的指向や性自認等のアウティングには、特有の問題がいくつかあると思っています。1つ目は、セクシャルマイノリティの問題に理解がありそうな人ほど、深刻には捉えていないのでアウティングしてしまうということもあります。自分が理解しているからこそ、「自分も理解しているし、身近にそういう人もいるし、だからこそ皆も同様に理解してくれるだろう。いや、皆で理解していくべきなんだ。」という発想で、本人の了解なくアウティングしてしまう事例です。悪気はないでしょうが、皆が自分と同じ対応をとるとは限りませんので、留意が必要です。

2つ目は、事例でお話ししましょう。A君、B君、そして仲間たちがいるとします。 A君はB君から告白されました。A君は、B君を友人としてしか見ていなかったので驚きましたが、誠実に断りました。その後、A君はそのことを誰にも話しませんでしたが、A君は、B君のしぐさ等が気になり、今ではB君が友人としていつも近くにいる状況が次第につらくなってきました。この心境を誰かに相談したくても、それはアウティングを伴ってしまいますので、なかなか口にすることもはばかられます。A君は悩んでいます。

ここで、もしもこの告白が異性間のものであったとしたら、事情が異なることは多いでしょう。Aが女性の場合、AさんはB君から告白されてお断りしたとして、その後しばらく気まずいので避けたいと思えば、友人たちにそれを相談してしばらくはかばってもらうこともできやすいのではないでしょうか。

A君、Aさんの2つの場合で何が異なるかというと、両方とも真摯な恋愛相談なのですが、その内容にアウティングに係るセンシティブなものがあるということです。そのため、相談された側も、A君の心境を慮るよりも内容の驚きの方が優ってしまうかもしれません。

こういう場合にはどうすれば良いかという“型にはまった正解肢”はありませんが、センシティブ情報を含む相談内容であるということを、A君も留意する必要があります。かといって、A君の悩みも深刻です。そこで筆者は、「アウティング=(イコール)悪」ということではなく、「むやみにアウティングする行為こそ咎(とが)められるべきであると考えています。ただし、この「むやみに」という表現は解釈が難しく、この表現をとることで趣旨がぼけてしまうことにもなりますので注意を要するとは思います。

 

 

LGBTとSOGIハラの違いは?

SOGIハラのお話をするとき、よくいわれるのが「その人がLGBTってわかっていたら、もちろん配慮するよね。」という言葉です。セクシャルマイノリティの人に対して、の配慮と捉えるとこうなります。つまり、どの人がLGBTなのかということを確定して、その人たちへのサポートをするという発想になりがちだからです。

しかし、これはLGBTの人への配慮という問題ではないということを、私も認識し始めました。誰もがそれぞれのセクシャリティを持っているということを前提に、社会の仕組みを作っていかねばならないのだということです。そういう視点から考えると、例えば、ちょっとしたアンケートや書類にも「性別〔男・女〕」と明記させる項目があると思いますが、これって必要なのかなと疑問に思います。最近では性別は回答の必須項目ではないとされている、または、「□男性、□女性、□回答しない」というように記述されているものもあるので、着実に社会が変化してきたと感じています。また、配偶者のことを、異性であることが前提のような表現ではなく、「パートナー」「相方(あいかた)」等と表現される方もありますよね。

 

結び

セクシャルハラスメントが問題になったときに、「男らしく」「女らしく」という表現も含めて、いろいろなことが見直されました。そして、今、SOGIハラという言葉の出現で、人間のより内面への配慮が問われるようになってきていると感じています。ある意味では、気を付けないといけないことが増えてきて面倒くさい、と思われる方もいらっしゃるでしょうが(私も、気を付けねばと思います)、こういう面倒くささは多様な人がいることを前提にしたときには当然のこととして受け入れていかねばと思っています。いずれ、それが自ずと(自然な)社会になると思います。

 

参考

「なくそう!SOGIハラ」実行委員会(編)『はじめよう!SOGI(ソジ)ハラのない学校・職場づくり』(大月書店、2019)。

Nippon.com「渋谷からじわり広がるLGBT理解:9 市区がパートナー証明発行」2018年9月11日
https://www.nippon.com/ja/features/h00288/

TOKYO RAINBOW PRIDE https://tokyorainbowpride.com/

LGBTQ+のQとは?【実はよく知らないクエスチョニング・クィア】https://jobrainbow.jp/magazine/queerandquestioning

 

以上