「ビジネスに関わる行政法的事案」第33回:転売屋からは買わない」というのは正しいのか?(2)

第33回:転売屋からは買わない」というのは正しいのか?(2)     神山 智美(富山大学)

 

はじめに

はじめに
第26回(こちら)では、2020年3月ころから生じたマスク、消毒液やトイレットペーパーの品切れ状態に直面して、消費者一人ひとりの行動は、侮れないものであると思ったことを記しました。今回は、その続編とさせていただきます。

転売をする人たちのことを「転売ヤー」と表現して、「転売ヤーからは買っちゃダメ」と合言葉のように言われています。しかし、こうした転売ヤーは後を絶ちません。「品薄状態の陰に転売ヤーあり」、「需要あるところに転売ヤーあり」なのでしょう。今回も、転売について考えてみます。

転売は違法なの?
転売は、違法になる場合とそうでない場合があります。
原則として、転売をするには、古物営業法に基づく古物商許可(免許)が必要になります。「えっつ、新品の転売なのになんで古物?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。
同法における「古物」とは、「一度使用された物品(略)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたもの」を指します(古物営業法2条1項)。つまり、一度でも使用のためとして消費者の手に渡ったものは未使用であっても「古物」となります。

 

この古物営業を商いとして営むため(有償で仕入れて、営利目的で反復継続して行うばあい)には、同法3条1項の許可を受ける必要があります。いわゆる「古物商(営業)免許」と言われるものです。ただし、「古物(商品)」によっては、古物営業法ではなく別の法律によって転売方法が規制されているものもあります。一例として、ライブチケット等は、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称チケット不正転売禁止法)による規制の対象となっています。

また、この古物営業法によれば、古物に該当する物でも、自分で使用していたものを販売したり、無償または引取り料をもらって古物を引き取って販売したりするときは、古物営業に該当しません(古物営業法2条1項1号)。ですから、皆さんが、自分で着たことがある洋服や使わなくなった物を、ネットオークション等で販売する行為には、「古物商(営業)免許」は不要になります。

 

〔古物営業法〕

第3条 前条第2項第1号に掲げる営業を営もうとする者は、営業所(略)が所在する都道府県ごとに都道府県公安委員会(略)の許可を受けなければならない。

 

転売ヤーって儲かるの?

ところで、この転売ヤーって儲かるのでしょうか? 「そりゃあ、規制するんだから儲かるってことでしょう」、「そりゃあ、やり方次第ですよ」なんて声が聞こえてきそうです。そこで、「儲かる」とする事例を見てみましょう。

 

 

任天堂株式会社のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(いわゆる「あつ森」のことです。)は、発売から6週時点では、累計1,341万本の販売本数を誇る、メガヒット商品です。このゲームを行うには、任天堂のSwitchというゲーム機が必要なため、このゲーム機が品薄になり、今(2020年8月6日執筆時点)でも、ほぼ抽選でしか入手できない状態です。転売価格は、定価の1.4倍程度からでしょうか。幾分品薄状態も緩和してきたとはいえ、まだまだ高額転売がなされていますね。ニュースでは、「あつ森」で月40万円稼いだという記事もあります。やはり、転売ヤーは儲かっているのでしょうね。

では、どういう手口で転売ヤーさんは、品物を入手するのでしょうか? 小型店やゲーム専用ショップでは定期的な入荷があるようです。また、中古品も出回っているので、「足で稼ぐ」ようです。要するに、自分の足で探して回るということですね。「なんだ、転売ヤーも結構努力してるんだな。」なんて思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。

ただし、定期的な入荷があるにも拘わらず、商品がお店に並ばないのも、こうした転売ヤーがいるせいでもあります。というのも、お店側は、本当に商品を欲しい人に買ってほしいのですが、店頭に並べると、転売ヤーがすべて(人を雇ってでも)買い占めてしまうことが少なくないからです。「ありったけを買おうとするのが転売ヤー」と言われます。ですから、「抽選」というめんどくさい方法をとらねばならないのですが、それでも、(人を雇ってでも)抽選に参加する転売ヤーには、常に一定割合の商品が流れることにはなってしまいます。

 

転売ヤーから購入したら詐欺師の優良顧客リストに登録された?!

次に、転売ヤーから購入したら、詐欺師の優良顧客リストに登録されたようで、その後いろいろな詐欺に巻き込まれるようになったという記事(「転売ヤーからゲーム機購入後、カニカニ詐欺に巻き込まれた話」(NEWSポストセブン)を紹介します。

この記事では、転売ヤーと「詐欺師」や「半グレ」と言われる人たちとの関係が記されています。被害者は、多少高くとも子どもとの約束を守るためにはやむを得ないと思い、転売ヤーから購入したのですが、その後、思わぬトラブルに次々に巻き込まれました。まず、「(注文していないのに)代引きでカニが届く」、「証券会社からFX取引を始めないかと勧誘される」、「不動産屋から投資用マンションの購入を勧誘される」、「(注文していないのに)代引きでマスクと消毒薬が届く」等が続いたようです。おそらく、詐欺師の「優良顧客リスト」に記名されているのでしょう。

 

 

また、転売ヤーから購入する人は、「物欲に負けて買ってしまう人」、「わきが甘い人」というように受け取られるので、詐欺師の標的にされやすいとも書かれていました。よくよく考えて、やむなく転売ヤーから(多少高くとも仕方がないと覚悟して)購入したのに、これでは散々ですね。このように、転売ヤーから購入するときは、自身の氏名や住所等などの情報が漏れることもあるかもしれないというリスクも、よくよく考えねばならないようです。

 

マスク、消毒薬の転売事情(2020年8月6日時点)

転売事情は、世のなかの需要に応じて刻々と変化しています。そもそも需要があるかどうかというところが転売の出発点だからでしょう。

第26回で、マスクが転売規制されていることを記しました。政府は2020年3月に国民生活安定緊急措置法の政令を改正して、マスクの転売を罰則付きで禁止していました。さらに、5月には消毒用アルコール製品なども同法における生活関連物資等の対象に加えています。つまり、これらの商品を購入価格よりも高額で転売することは禁じられており、それが発覚すると処罰対象となるわけです。

しかし、ちまたでは、そろそろマスクも消毒用アルコール製品も、店頭に並ぶようにはなってきました。そうなれば、わざわざ転売ヤーから高額のものを購入する必要はなくなっています。同法は、26条2項で「同項に規定する事態を克服するため必要な限度を超えるものであつてはならない」としており、「物価の高騰その他の我が国経済の異常な事態(同法1項)」「物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合(同法26条1項)」の事態はそろそろ脱したのではないかと思われます。

そこで、政府は、2020年7月31日に、この転売規制を近く解除すると表明しました。「また買い占められたら困る(からこのままにしておいてほしい)」という国民からの要望や不安も寄せられましたが、そうなればまた政令を制定すると政府は回答しています。

 

国民生活安定緊急措置法

第26条 物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合において、生活関連物資等の供給が著しく不足し、かつ、その需給の均衡を回復することが相当の期間極めて困難であることにより、国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営に重大な支障が生じ又は生ずるおそれがあると認められるときは、別に法律の定めがある場合を除き、当該生活関連物資等政令で指定し、政令で、当該生活関連物資等の割当て若しくは配給又は当該生活関連物資等の使用若しくは譲渡若しくは譲受の制限若しくは禁止に関し必要な事項を定めることができる。

2 前項の政令で定める事項は、同項に規定する事態を克服するため必要な限度を超えるものであつてはならない。

 

うがい薬の転売事情(2020年8月6日時点)

大阪府知事の吉村洋文氏が、2020年8月4日の会見で、「ポピドンヨード」を含むうがい薬によるうがいによって、唾液中のウイルスの陽性頻度が低下したとする研究成果を発表されました。これをもってCOVID-19(新型コロナウイルス)への特効薬といえるかについては、真偽のほどはまだよくわかりませんが、世間では「うがい薬」にいきなり注目が集まりました。

 

「ポピドンヨード」が含まれている商品もそうでない商品も、転売サイトで高額転売される事態になりました。また、“唾液中のウイルスの陽性頻度が低下した”ということは、例えば日本に来た人に空港でPCR検査をするにあたり、唾液からの検出を抑制する方法を漏らしたともいえ、一部では批判の声も上がっています。

では、国民生活安定緊急措置法をうがい薬にも適用すればよいのではないかと思われた方はいらっしゃいませんか? しかし、その必要はないのです。というのも、うがい薬は「第3類医薬品」に該当しますので、これらの医薬品を販売するには医薬品販売業の許可が必要になります(いわゆる薬事法24条1項前段)。そうした許可を有しない人が販売すれば、3年以下の懲役もしくは3百万円以下の罰金に処されます(薬事法84条9号)。既に法律で規制されているということですね。

PCR検査:ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略で、ウイルスの遺伝子を増幅させて検出する方法です。鼻や咽頭をぬぐって細胞を採取して検査を行います。発症から9日以内であれば唾液からの検査も可能です。

〔医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律〕(いわゆる医薬品医療機器等法、または薬事法)
第24条 薬局開設者又は医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ、業として、医薬品を販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列(略)してはならない。ただし、医薬品の製造販売業者がその製造等をし、又は輸入した医薬品を薬局開設者又は医薬品の製造販売業者、製造業者若しくは販売業者に、医薬品の製造業者がその製造した医薬品を医薬品の製造販売業者又は製造業者に、それぞれ販売し、授与し、又はその販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列するときは、この限りでない。

第84条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは3百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
九 第24条第1項の規定に違反した者

結び
私も、いわゆる「あつ森」セットを入手したいと思っていますが、なかなか抽選で当たらないので、ついつい転売ヤーから少し割高でもいいので買ってしまおうかなと思うことがあります。しかし、こういう詐欺の標的にされるかもしれないというおそれがあることを知って、今ではそのようには考えなくなりました。
また、「○○がいいらしい」、「△△が売り切れそう」という情報や、もう少し身近なところでは「数量限定」「早い者勝ち!」「売り切れご免!」なんて商品にはついつい目が行きます。そういう時に落ち着いて考えることができるように、やはり、消費者一人ひとりの行動が大事なのでしょう。

 

(参考)
任天堂「あつ森」で月40万円稼いだ28歳転売ヤー。驚きの手口とは(biz SPA! フレッシュ)

https://news.yahoo.co.jp/articles/38c687eb1f2f65a1183e3297140e5b08830dced5

転売ヤーからゲーム機購入後、カニカニ詐欺に巻き込まれた話(NEWSポストセブン)

https://news.yahoo.co.jp/articles/757ba91f9464cdcb900895d9c90a81092e7abed9

「どうかお願いします」。転売ヤーからSwitchを買わないで。家電量販店で働く店員が語ったこと。(Buss Feed JAPAN)

https://www.buzzfeed.com/jp/reonahisamatsu/switch-tenbai

マスク転売解禁、不安の声も 「また買い占められたら」(朝日新聞DIGITAL)

https://news.yahoo.co.jp/articles/c3fcccb62cc4b239d078f0d1c453846f55175207

『イソジン』などポビドンヨード含有うがい薬、フリマアプリでの転売に注意。医薬品のため違法

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinoharashuji/20200804-00191700/

「イソジン」などの“うがい薬“は転売しないで。メルカリで出品が相次ぐ。吉村知事「勝手に販売すると犯罪。控えて」と訴える(HUFFPOST)

https://news.yahoo.co.jp/articles/7ef9ca5566ada7319abc8c200325140fcb8be880

以上