「ビジネスに関わる行政法的事案」第46回 入札の適正化のために(2)―セカンドプライス・オークション方式と、デジタル化とオープンソース化

第46回 入札の適正化のために(2)―セカンドプライス・オークション方式と、デジタル化とオープンソース化             神山 智美(富山大学)

 

はじめに (前回からの続き)

「次回は、官製談合を防ぐための試みを紹介します。」として、 前回を締めくくりましたですので、今回は、これらを順にご紹介したいと思います。

ところで、入札にはつきものの「地元事業者優遇」ですが、これは「ずるい」と思われますか?それとも地方自治体のお金だからできるだけ地元企業に発注して税収入につなげていくべきだと思われますか?

概して、地方公共団体では、事業規模別に指定競争入札への参加基準を定めている場合が多いです。さらにそこに、地元事業者優遇という原則がはたらきます。これは、①工事現場等への距離が近く、現場に関する知識等を有していることから、契約の確実な履行が期待できること、また、②地元の経済の活性化にも寄与することには一定の合理性が働くからと説明されています。

また、入札の仕組みを少しご紹介しますと、官製談合で問題となってきたのは価格(予定価格・最低制限価格)の漏洩です。「予定価格」は、官公庁の入札における基準額となるもので入札価格の上限値とされるものです。予算の上限以上は出金できませんので、この数字は重要になります。他方、「最低制限価格」は、入札価格の下限値です。最低制限価格を下回ると、不当に外注価格を値切るいわゆる「下請けいじめ」が生じたり、品質を担保できるかどうかが懸念されることもあるため、問題なく履行できるか調査が入ったり失格となったりします。個々の入札にもよりますが、概して、最低限制限価格は、予定価格に規定の割合(%)を乗じる計算式によって算出されています。

 

現場でなされている対策

現行での官製談合対策としては、あくまで例にはなりますが、以下のような対策がとられています。ただし、不正や犯罪というものは、制御しようとしても制御仕切れるものではないですし、こうした「公共事業における発注先の選定」というものには、ある一つの方法(ここでは入札)が万能であるというものでもないと思います。そのため、事案によって適切な方法を選択していく必要があるとも筆者は考えています。

次に、官製談合で公務員らにより情報漏洩されるものの多くは、「予定価格」または「最低制限価格」でした。そのため、こうした数字が事前に漏れないような対策がなされています。例えば、「入札予定者と対応する職員」と「数字を扱う職員」を分ける(最小限度にする)という方法がとられているところもあるようです。「数字を扱う職員」だけが(セキュリティキーを用いて)入れる部屋またはファイル情報等を用意するということのようです。ただし、LINEで価格漏えいをした事例もあるように、「数字を扱う職員」と入札予定者とが関わろうとすればできなくはないのが実態です。

続いてこうした数字を予め決めておかないという方法もあります。その一つが、最低制限価格の計算式への「ランダム係数」の利用です。ランダム係数とは、システムで無作為に設定されるものであるため、開札時まで入札の実施者も確認することができない仕組みになっています。たしかに、知らない数字またはまだ存在しない数字は漏洩できないため、漏洩防止には有効でしょう。しかしながら、この対策に関していえば、それを下回ると失格になるというのが最低制限価格なのですが、その設定にはランダム係数を用いるほどの「幅」があるということになります。つまり、筆者には、「最低制限価格」というものは、厳密に守らねばならない数字というわけでもないのではないか(それより下の数字を入札した事業者を失格とするのはもったいないのではないか)という疑念が生じます。

また、入札直前に入札予定者を選抜する「抽選方式」もあります。これは、入札当日に抽選により入札できる事業者を減ずる方法です。事業者にとっては、入札前にこうした数値を入手するためにはある程度のリスクを冒す必要があるのですが、こうしたリスクを冒しても実際に入札できない可能性があるかもしれないという二段階設定にしておくのです(違反してまで数字を入手しても、抽選に落ちたら入札にすら参加できないことになります)。しかし、この方法によれば、抽選で外れた事業者が気の毒であり、また抽選で外れた事業者のなかに、本来入札に参加していたら落札できたはずの優良事業者がいた場合には、入札実施者にとっても当該地方公共団体にとっても損になってしまいます。

このように、「ランダム係数」の利用や「抽選方式」のように、ランダム係数や抽選という不確定要素を介在させることにより、事前の情報漏洩という行為が奏功する確率を下げ、違反行為へのインセンティブを減じる方法の採用には、一理あります。ただし、これらは確かに情報漏洩防止には効果がありますが、最善であるとも言い難いように思えます。

 

総合評価方式の採用

そこで、「総合評価方式」をとり、予定価格最低制限価格を予め公表する等して、価格のみにはできるだけに拘泥しない評価方法が推奨されています。これは、いわゆる「技術点を高くする」という方法で、この手法であれば、入札予定者は「予定価格最低制限価格の間のできるだけ低い金額に収められるように」努力するのではなく、「予定価格と最低制限価格の間でできるだけ良いものや良いものサービスが提供できるように」努力するはずだからと想定されています。

しかし、「総合評価方式」をとると、安定的な技術力がある事業者が生き残ることになるため、現場にとっては「いつも同じような事業者ばかりになる」ことが指摘されています。

また、総合評価方式によっても、情報漏洩事件は存在しています(事例として富山市で2022年1月に富山市建設部長が逮捕された案件)。具体的には、入札参加業者の技術評価点や、入札において重視する視点等、およびその入札を実施することを予定している他事業者等の名称等の情報が漏洩されるリスクが存在するからです。

 

不正を防ぐためのデジタル化とオープンソース化

ここで、上記2022年1月に富山市建設部長が逮捕された案件について少しふれておきます。これは、官製談合を防ぐためにもプロポーザル方式(*)をとったにもかかわらず、官製談合が生じた事件です。この事件では、入札において重視するポイントや、その入札に参加する他事業者等の情報等が漏洩されていました。また、遡って数年間を見てみると、当該事業者への落札率が異様に高いこともわかってきました。

(*)プロポーザル方式

入札は「価格」で選ぶのに対し、プロポーザルは「提案」で選びます。提案内容とともに、方針、実施体制、実績なども含め、総合的に優れているかを基準に発注先を選ぶのが「プロポーザル」です。

そこで、入札および落札情報の結果の公表を求めていくことが重要だと思っています。もちろんこれは既に市のウェブサイト等でもされているのですが、「○○の件の入札結果」というようにその案件ごとで公表されます。すると、見る側は、1案件ずつ見ますので、前後の時系列的な関連性や、横の部局などとの関連性等は分かりづらいのです。

できれば、前後数年間の落札事業者と当該部局や市との関わりが、もっと立体的にわかるように情報開示されるとよいのではないかと思います。それが、この節のタイトルで述べている「デジタル化とオープンソース化」です。つまり、Excelのようなソフトで情報が提示されていれば、多くの人が特定の事業者の落札率の高さや随意契約率の高さなどが判別しやすいのではないでしょうか。問われているのは、より分かりやすい情報公開ということになります。

 

セカンドプライス・オークション方式

最後に、筆者から、市場原理を用いた官製談合の防ぎ方として、セカンドプライス・オークション方式を提案させてください。

筆者の提案は、ゲーム理論としても説明されている「セカンドプライス・オークション」(考案者William Spencer Vickreyの名前をとってヴィックリー・オークションともいわれます。)を、入札にも用いていく方式です。つまり、予算の関係上あらかじめ「予定価格」は公表しておきますが、最低制限価格というものは設定せず市場原理に任せるのです。

 

まず、セカンドプライス・オークションの利点とは、次のようなものです。セカンドプライスオークションは、「第2価格入札」ともいわれます。いわゆる競りやオークションでは、ファーストプライス・オークション(第1価格入札)が想定されがちですが、セカンドプライス・オークションでは、「一番高い入札をした人に、2番目に高い入札額で落札する」という手法が採られています。

「競り」などのように値段をその場で競り上げていく方式ではなく、「封印入札型」と言われる、他人の入札額がわからない場合には、この方式は、「正直者は絶対に損をしない」つまり、適正な価格であると評価する額を入札する者が損をしない仕組みであると説明されています。その理屈は以下の図表5に示すようになります。

 

例として、絵画のオークションの場合を想定してみます。

Aは絵画を3万円の価値だと思っています。そうしたときに、Aが1万円でBが2万円で入札した場合には、Bが1万円で落札するため、Aは落札できず、表には―と記入しています。AとBが同額の場合は、その同額が落札価格となりますが、落札できる確率は「くじ」により2分の1になるため記入される利益額も半額になっています。Aが4万円でBが2万円で入札した場合には、Aが2万円で落札できるため1万円の利益が出るというように記入されています。右側の評価合計が、Aがその値段で入札したとき、相手の入札価格がわからず相手の入札金額も均等であると仮定した場合に、Aが得られると想定される利益の合計額を示しています。これによれば、3万円というAの評価額を正直に入札した場合が、最も高い利益を得られることになります。

筆者は、これを同じく「封印入札型」で、「1番安い入札をした人に、2番目に安い入札額で落札する」という仕組みで運用してどうかと考えています。つまり、競り上げるのではなく競り下げるのが入札ですので、入札額は二番目に安い金額になるわけです。

Aは、本件工事は20万円が妥当だと思っているとします。そうしたときに他の入札参加者Bの入札価格とのかかわりで利益額を示したのが図表6になります。

Aが30万円でBが20万円で入札した場合には、Bが30万円で落札するため、Aは落札できず、表には―と記入しています。入札額は低額ほどよく、セカンドプライスという落札者自身の入札価格よりも高額で請け負えるのが特徴です。AとBが同額の場合は、その同額が落札価格となるが、落札できる確率は「くじ」により2分の1になるため記入される利益額も半額になっています。Aが20万円でBが40万円で入札した場合には、Aが40万円で落札できるため20万円の利益が出るというように記入されています。右側の評価合計が、Aがその値段で入札したとき、相手の入札価格がわからず相手の入札金額も均等であると仮定した場合に、Aが得られると想定される利益の合計額を示しています。これによれば、20万円というAの評価額を正直に入札した場合が、最も高い利益を得られることになります。

 

以上のように「正直な評価額で入札するのが最も損しない」という理屈があることが、筆者が「封印入札型」におけるセカンドプライス・オークション方式を推奨する理由です。ちなみに、なぜセカンドプライスなのかという理由としては、競り上げることで不当に高額になること(ここでは不当に低額になること)を防ぐ目的があります。最低制限価格を設定しないことで不当に低額での落札になるおそれがありますが、セカンドプライス・オークション方式を採用することにより最低金額を取り除くことで不当な低額での落札を防ぐことも可能となります。これにより、外注価格を値切るいわゆる「下請けいじめ」を防止することにもいくばくかは奏功しそうです。

 

以上

 

(参考)

拙稿「一般競争入札の適正化に関する一考察 ―公務員等の情報漏洩による官製談合への対処―」富山大学紀要. 富大経済論集、67(2)、359-391 (2021-12)

富山新聞 「公募型プロポーザル受注『見える化』必要 富山市官製談合きょう1週間 専門家『行政の裁量大きい』」2022年1月31日社会面にて神山コメント

 

セカンドプライス・オークションに関しては、以下のものがわかりやすいです。

升田猛「セカンドプライスオークション 正直者は絶対に損をしない」東洋大学Web体験授業

https://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/video-lecture/20160517_01.html (2021911日最終閲覧)