「ビジネスに関わる行政法的事案」第52回 パロディや二次的創作はどこまで許されるのか?

第52回 パロディや二次的創作はどこまで許されるのか?       神山 智美(富山大学)

 

はじめに

わたしは、漫画、ゲームおよびアニメーション等が好きです。そして、これらのエンターテイメントに関するパロディや二次的創作は、本作品への「愛と敬意」に満ちているものが多いと感じています。その「愛と敬意」で本作品を盛り上げ、人気を向上させているのです。だからこそというわけではありませんが、こうしたパロディや二次的創作も、法律的に認められるべきであるとも考えています。そして、それは、原作者、出版社および制作者らにとって、決してマイナスばかりではなく、プラスの要素も多いと思っています。

しかしながら、パロディや二次的創作に「愛と敬意」があるから適法である、「愛と敬意」がないから違法である、という価値判断は客観的には大変難しいです。まして、それを要件として立法するなどできません。では、どのような解決方法が可能でしょうか?

オタク、推(お)し、ガチ勢(ぜい)って?

熱狂的なファンや支持者層は、いわゆる「オタク(otaku)」「ガチ勢(一定のレベルを超えて本気でやり込んでいる人(たち))」)というもので、彼らには、「推(お)し」と呼ばれるアイドルまたはカリスマ的な存在がいることが多いです。

これに対して、そこまでではない人たちは、いわゆる「エンジョイ勢」(一般の顧客のこと、特定の「推し」がいないまたは二次的創作等を楽しむわけではない人たち)等といわれています(図表1)。

 

海賊版による被害は深刻

ウェブ上に横行する漫画やアニメのいわゆる「海賊版」は、著作権侵害の代表例です。無料でマンガの数々を楽しめるという謳い文句で、短期間の間に多くの視聴者を集めたいわゆる漫画村事件は、著作権法改正の一つのきっかけとなっています。

 

著作権法改正

従前から、海賊版対策として、「ダウンロード違法化」の対象は、映像と音楽だけであった。ですが、今般の著作権法改正(2020年6月改正、2021年1月施行)により、これが「全ての著作物」に拡張されました。漫画だけでなく、小説や論文といったテキスト、イラストやコンピュータプログラムも対象となっています(改正法30条1項3号、同4号、)。

ただし、ダウンロードする側の違法性に関しては、あくまでも海賊版コンテンツであることを知りながらダウンロードしたことが要件となっています。ですから、海賊版コンテンツであることを知らずにダウンロードした場合は違法とはなりません。しかしながら、「知らなかった」ですべて済まされるとは思わないようにしてください。改正法30条2項)。

〔著作権法(抄)〕

第30条 著作権の目的となつている著作物(「著作物」)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(「私的使用」)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(略)を用いて複製する場合

二 技術的保護手段の回避(略)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

三 著作権を侵害する自動公衆送信(略)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(略)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合

四 著作権(28条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。略)を侵害する自動公衆送信(略)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。略)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。

2 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。(下線は筆者による。以下の①から③に該当部分。)

また、改正議論当初は、パロディ等の二次的創作物にも規制を及ぼすべきとの厳しめの意見もあり、議論になりました。

しかし軽微なもの、著作権者の利益を不当に侵害しないと認められる特別な事情がある場合のダウンロードについては違法化の対象外とされているほか、パロディを含む二次的著作物のダウンロードについては、当該二次的著作物の基となった著作物(原著作物)との関係では著作権侵害にあたらないとされています(改正法30条1項4号かっこ書)。

このように、法律では「『愛と敬意』があれば著作権侵害を特別に許します。」とは言えないので、上記①から③のような例外を設けることに落ち着いています。

二次的創作物の商標権:「ゆっくり茶番劇商標登録問題」

二次的創作物に関係ない第三者によってコンテンツから派生したキーワードの一つが商標登録された問題の代表例として、「ゆっくり茶番劇商標登録問題」があります。

「ゆっくり茶番劇」は、同人ゲーム(シューティングゲーム)「東方Project」に登場するキャラクターの二次的創作物で、日本のネット文化として長い間多くの人に愛され育まれてきたものです。聞いたことがある人もおおいのではないでしょうか?制作者も、多くの人に利用してもらおうと「フリー素材」にしています。

しかし、2022515日、某ユーチューバー(ゲームやイラストの原作者とは無関係の第三者)が、「ゆっくり茶番劇の商標権を取得した」「使用料として年間10万円を設定した」と発表しました。これに対して、各方面から、皆が守り育ててきた文化を、制作者とは無関係の者が独占することに、主にインターネット上で批判が相次ぎました。

 

この事態を憂慮した動画配信サイトのニコニコ動画を運営する「㈱ドワンゴ」の栗田専務取締役COOは、5月23日、記者会見を開き「すべての方々が安心して創作活動を楽しめる環境を守っていきたい」と表明しました。その記者会見は、インターネットで同時中継され、12万人の人々が視聴したようです。加えて、栗田氏は、会社としての対応として、商標登録に対する権利放棄の交渉および無効審判の請求等を提起することを述べました。その後、渦中の某ユーチューバーは、「5月23日付けで商標権を抹消するための申請を行った」とツイッターで公表しました。

これに対して、翌24日、松野博一内閣官房長官は記者会見で、本件について「個別の事案についてはコメントを差し控えるが、一般論として、二次的創作については、ネット上で独自の文化が発展していると認識、適切かつ正当に創作物が保護されることが重要」との見方を示しました。

 

 

私が気になるのは、松野官房長官も示した「独自の文化」の法的位置づけです。おそらく、この事件に興味関心をいだいた多くの人が、そう感じていることでしょう。

一方で、この事件に関心を持たない人には、どうでしょうか?「商標登録していけないの?」「商標登録以前から使用しているのだから、利用できなくなるわけではないし(先使用による商標の使用をする権利)」と思う人もいるかもしれませんね。

確かに、本件商標登録については、道徳的には疑問をいだきます。その一方で、違法でありその撤回なり取消なりという方法をとるために訴訟等で争うものであるべきところ、本件では「ゆっくり茶番劇」等のファンの力(数の力)によって押し切っているといえる部分も見受けられますね。こうした方法が「正義と衡平」に適うとは思えないことから、第三者との無用な軋轢をうまないためにも、「独自の文化」の法的位置づけについては、もう少し法律のなかで明瞭にするべきであると考えています。

〔商標法 (抄)〕

(先使用による商標の使用をする権利)

第32条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(略)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

2 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

著作権侵害が問われた事例

パロディや二次的創作には、著作権侵害には寛容であるという話をしてきましたが、訴訟に発展した事例もあります。それを一つ見ておきましょう。

ドラえもん最終回同人問題」は、うますぎた(出来が良すぎた)というのが訴訟に発展した理由です。朝日新聞(2007年6月9日)によれば、当該「最終話」は約1万3千部も販売した(売れた)ため、多くの人が最終話と信じたことがうかがえます。そのため著作権者が見過ごせない「一線」を越えたとされています。

パロディや二次的創作の位置付け

パロディや二次的創作物は、原作者にとって「両刃の剣」といえます。なぜなら、その作品を愛してくれるファンたちの二次的創作等によって盛り上がることは、作者や出版社、制作者にとっても大変ありがたいことです。「感想を言い合いたい」と思っているファンたちが、主にインターネット上で話し合いを盛り上げてくれることで、お互いに新たな発見があり、映画も複数回見ることになるし、制作会社の興行利益も伸びます。興味深いこととして、二次的創作物に対して原作者がそのウェブサイトを訪れて、「原作者閲覧済み」「原作者承認済」等という足跡を残していくこともあります。

他方で、著しい著作権侵害は、営業的な利益を損なうことにもつながるので見過ごせません。新作ストーリーのネタバレなどにも同様の注意が必要です。

実態として、二次的創作物の扱いは、各社がガイドラインを作成して公表しています。つまりこのガイドラインの範囲内であれば、当該原作者は二次的創作物に関しての違法性を問わないということの表明でもあります。例として、上述した「東方Project」は、「同人で慣例的な手段(ホームページでの公開、即売会への参加)、その内容(漫画や小説、コスプレも含む)であれば、許諾や提出・報告の義務なく自由な使用を「構わない」としています。

他方、メディアミックスコンテンツとして人気の「ウマ娘プリティーダービー」の二次的創作については、2021年11月10日に制作側から、新たにガイドラインを制定したという公表がなされました。そこでは「モチーフとなる競走馬のイメージを損なわないよう、二次的創作物制作の際は下記お知らせからガイドラインをご参照いただくようお願いいたします。」、疾走馬が女性(少女)たちであることから「暴力的・グロテスクなもの、または性的描写を含むもの」は避けるようにとの文言が並んでいます。要するに、「かわいく描いてね」ということでしょうか。

漫画、アニメ等は、日本のCool Japanを支える中心的な存在です。皆で楽しむだけでなく、「愛と敬意」を表しつつ守り盛り立てていくための、知的財産権の運用を目指したいですね。

以上