「ビジネスに関わる行政法的事案」第53回 AIIイラストの著作権はだれのもの?
第53回 AIIイラストの著作権はだれのもの? 神山 智美(富山大学)
はじめに
前回、わたしは、漫画、ゲームおよびアニメーション等が好きだと書きました。そして、そして、これらのエンターテイメントに関するパロディや二次的創作は、本作品への「愛と敬意」に満ちているものが多いと感じていること、さらに、この「愛と敬意」による境界をどのように法律に取り入れていくべきかが悩ましいとも書きました。法律は、境界を明瞭にするべきものなのですが、弾力的な運用ができる方が良い結果をもたらす領域もあるのでしょう。
今回は、権利者を明確に確定していくことが求められている現実の問題について記します。というのも、昨年(2022年11月5日)、私は、日本知財学会で報告をさせていただいたのですが、その内容についてもっと勉強せねばと思ったからでもあります。
AIイラストの急速な発展
近時(2022年8月29日)ニュースになったものとして、mimicによる、イラストレーターの絵の特徴を学んでイラストを生成するAIサービスmimic(ミミック・あなたの個性を学んだイラストメーカーを作るサービス)のリリースがあります。
これは、2回まで「イラストメーカー」(イラスト生成AI)の利用を無料としており、30枚以上の自身作のイラストがあればそれを学習させることが可能となるというサービスです。
ただし、あわせて「著作権」の所在を検討するならば、どのような使われ方をするのかには、もっと慎重さが必要かもしれません。「自身作」のイラストだけが素材とされるかどうかには疑問がありますの(自分の作品だけではなく他者の作品も混ぜる場合や、他者の作品ばかりを用いる場合など)。
mimicは不正対策を終えて再公開
mimicは、このAIソフト公開後、不正利用対策が不十分との指摘を受け、サービスを一時停止していました。その後、イラスト
AIによるイラスト作成ソフト(アプリ)(以下一般名として「イラストメーカー」といいます。)「mimic」について提供元のラディウス・ファイブ(東京都新宿区)は2022年11月4日、mimicβ版2.0を公開したと発表しました。不十分と言われた不正利用対策を施したのです。具体的には、描き手の個性を反映したイラストメーカーを自動作成できるサービス内容はそのままに、不正利用対策として利用できるユーザーに制限をかけていますので、以下にそれらの内容(3点)を紹介します。
不正対策1:Twitterアカウントの事前審査
1点目はTwitterアカウントの事前審査です。この審査は以下の「mimicアカウント審査ガイドライン」に基づいて実施されています。
【mimicアカウント審査ガイドライン】
- (不正利用防止のため詳細は公開できないようですが、大枠として以下の基準であると示されています。)
Twitter上での投稿・活動が確認できること。 - witter上、またはTwitterアカウントと相互リンクとなっているイラスト投稿サイト等のページ上にてご自身でイラストを描いていることが確認できること。
- 暴力的・反社会的な表現、自殺、自傷行為の助長等の行為を行っていないこと。
審査の結果、「自分でイラストを描いている」と同社が判断したアカウントにのみ機能を提供することになっています。審査は申請順に行われており、11月4日時点で申請者全体の1割強まで完了済みという。審査はアカウント数によって要する時間が変わるため、同社はTwitterで随時情報発信してくれるようです。ちなみに、10月以降に申請していた場合、数週間から最大2カ月程度の時間がかかる可能性があります。11月4日時点では、再審査は受け付けていないようです。
不正対策2: 学習に利用されたイラスト、mimicが作成したイラストを公開必須とする①
透明性確保のために、イラスト作成後に、学習に使用されたイラストおよび「mimic」が作成したイラストは、大きく透かしが入った状態で公開(イラストの利用範囲は、『mimic』上での閲覧のみ可能となる「利用NG」に設定される)されます。これは非公開に変更することはできず、作成完了の48時間は削除できません。また、48時間経過後に削除しても、情報開示請求のためにイラストデータは保持され続けるようです。
イラスト公開ページには、作成者のTwitterアカウントへのリンクが設置されます。また、利用規約違反が疑われる場合の報告用フォームが設置されます。
これに関してのウェブ上での反応は、利用制限であると考え反対する声(「結局つまらないものに落ち着いたな」とのつぶやき。)と、応援し喜ぶ声に分かれています。こうした透明性確保のための公開は、不正な利用方法をしなければ、さして問題となる事項ではないでしょうが、そうではないことを想定していた人にとっては足かせとなる文言であると思われます。
不正対策3:mimicが作成したイラストの悪用防止対策
3点目は、mimicが作成したイラストの悪用防止のために、必ず透かしが入ることです。この透かしはなくすことができず、追跡するための情報が付与されます。(この詳細についても悪用防止のために詳細は開示されていません。)
米国での問題
こうしたAIイラストメーカーはグローバルに普及しているわけですから、著作権に関する問題は各国で見られます。
ここでは米国で論点となっている点を挙げます。
1点目は、AIの描くイラスト等についてはその出来栄えのすばらしさについてです。画像生成AI「Midjourney」により生成された絵が、ある品評会で1位を獲得したことが話題となっています。具体的には、2022年8月26日から開催されている第150回コロラド州品評会(Colorado State Fair’s fine art competition )のデジタルアート部門において、ジェイソン・アレン( Jason Allen)氏という人物が提出した絵が1位を獲得したことです。アレン氏は、AIに言葉で指示を入力しましたが、彼自身がデジタルブラシ(digital brush)を用いて描いたわけではなかったことから、論争が湧きあがりました。
2点目は、著作権の所在です。まず、2022年2月に、米国著作権局(United States Copyright Office)は、AIが制作したデジタルアートを、著作物として登録することはできない、との判定を下しています。その理由は、著作権の対象は人間が生成したコンテンツであり、AIは人間ではないので、著作権法で保護されないと解釈したからです。
しかし、2022年9月15日に、ニューヨークで活動するアーティストのクリス・カシュタノバ (Kris Kashtanova)氏がAI画像生成サービスのMidjourneyを使用して作成したマンガについて、アメリカの著作権登録が認められた旨を自身のインスタグラムで公開しました。カシュタノバ氏は、著作権者となる先例を作りたかったと述べていますが、今後の議論に注目したいところです。
結び―はじめが肝心ではあるが
mimicの利用のように、自分のイラストを入力してAIを使って次のイラストを描いた場合は、「二次創作」には該当しません。二次創作では、同一性保持権、翻案権、公衆送信権が問題になりますが、どれも元の著作物の著作権者が自分であれば、AIを使ったとしても、二次創作とはいえないのです。しかしながら、それに他人のイラストが混じっているとすれば、二次創作になり、やはり問題となりえます。
mimicについては、はじめが肝心なところ、きちんとした対策がなされていることに敬服します。しかしながら、こうした対策を潜り抜ける技術や工夫が新たに出てくることも予測されます。「いたちごっこ」になる可能性もありますが、諸外国の動きも捉えながら、「歩きながら考える」ことが、こうした日進月歩の領域には求められていると思います。
以上
(参考および引用)
mimic公式ツイッターhttps://twitter.com/illustmimic/status/1569986787547975682(2022年11月5日最終閲覧)。
VOIX biz「株式会社ラディウス・ファイブがAIイラストメーカー『mimic(ミミック)』β版をリリース」https://voix.jp/biz/news/65561/(2022年11月5日最終閲覧)。
松浦立樹「AIイラスト生成『mimic』復活 β版2.0公開 利用にはTwitterアカウントの事前審査あり」2022年11月04日 13時40分 ITmedia NEWS https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/04/news101.html(2022年11月5日最終閲覧)。
GPUコラム「シリコンバレー New Tech Report:AIが制作したデジタルアートの著作権は誰に帰属する?AIを著作権者として登録できる?2022円4月22日」https://gdep-sol.co.jp/newtech-report/no53 (2022年11月5日最終閲覧)。
Matthew Gault(2022)“An AI-Generated Artwork Won First Place at a State Fair Fine Arts Competition, and Artists Are Pissed”1 September 2022. https://www.vice.com/en/article/bvmvqm/an-ai-generated-artwork-won-first-place-at-a-state-fair-fine-arts-competition-and-artists-are-pissed(Last visited 5 November 2022).
Benj Edwards (2022) “Artist receives first known US copyright registration for latent diffusion AI art | Ars Technica” 23 September 2022. https://arstechnica.com/information-technology/2022/09/artist-receives-first-known-us-copyright-registration-for-generative-ai-art/ (Last visited 5 November 2022).