「ビジネスに関わる行政法的事案」第59回 リプライゾンビ、インプレゾンビに注意しましょう!
第59回 リプライゾンビ、インプレゾンビに注意しましょう! 神山 智美(富山大学)
はじめに
2024年1月1日の夕方に、石川県能登地方で震度7の揺れを観測した地震は、気象庁により「令和6年能登半島地震」と名付けられました。
わたしは岐阜市内の自宅に帰省中の出来事でした。幾人かの方から、「大丈夫ですか?」というメール連絡などをいただきました。ありがとうございました。「帰省中で無事です。研究室が6階にあるので、本やモニターが心配です。」とはお応えしています。
わたくしは、1月3日に職場へ戻りました。できれば早く駆け付けたかったのですが、公共交通機関の復旧に時間がかかりました。(今のところ)本が倒れただけで終わりました。割れ物はなしです。
こういうときには、X(旧ツイッター)で「誤情報」が飛び交います。今回もそうでした。
さらに、表題にあるような「リプライゾンビ」、「インプレゾンビ」というものも出現しました。
今回は、このような情報に注目したいと思います。
飛び交う誤情報―時間の経過とともに正しい情報に訂正していくことが必要
心配されたことの一つに北陸地方の原子力発電所の稼働状況があります。
今回も、某参議院議員のかたや元首相らのお名前で、「志賀原発で変圧器の火災が発生した」という表現を含むツイートがなされました。これは、政府の1日の発表を受けてのものでした。
しかし、「油漏れと変圧器の一部破損によるものを作業員が火災の発生と誤認し、国や関係自治体などに報告したことによるものだった」とその後明らかにされました。作業員らが再度、現場を詳しく確認したところ、火災の発生は確認されなかったということです。
ですので、そのツイート内容は後に「誤情報」となっていること、正しくは公式報道やNHK報道を確認して訂正してほしいことなどが書き込まれました(2024年1月2日筆者確認済)。
こうした速やかな訂正がなされるのが、多くの人がツイートするXの良いところともいえそうですが、改めて、投稿のすべてを正しいとは思ってはいけないことが確認できます。
また、地震で家が倒壊して閉じ込められたとのデマツイートがされる事例もあります。実際には存在しない「石川県川永市」というまちからのSOSツイッターもあります。信憑性を高めるために、ドアが壊れた画像やけがをしている人の画像等をウエブ上から探して用い、写真付きフェイクニュースを流す事例もあります。
こうしたツイートを見た人は、ついつい「知らせなきゃ、助けなきゃ」と思い、リツイートして拡散してしまいます。
多くの閉じ込められた被害者は、「110番・119番に連絡して、Xにもツイートする」という行動をしていますので、デマツイートやフェイクニュースがあることで、真の被害者を見つけにくくなるといえます。また、情報が混とんとしているときに、善意で拡散やリツイートしてくれるひとを利用しようとする卑劣な行為といえます。
リプライゾンビ、インプレゾンビとは
リプライゾンビとインプレゾンビとは、誤情報やフェイクニュースではなく、正しい情報を利用して主に金銭を得ようとするものです。
フォロワー数の多い著名人のツイートや、信頼できるツイッターアカウント(例として、気象庁、内閣府防災、総務省消防庁、内閣府政府広報オンライン、首相官邸、NHKニュース、NHK生活・防災、特務機関NERV、市長・知事・自治体のアカウント等)に意味のないリプライをくりかえすものです(同じ文章のコピペの事例も、絵文字や単語だけの場合もあります。一人で複数の意味のないリプライを、連続して行っているのが特徴です。2024年1月2日筆者確認済)。
beingAIにインプレゾンビについて尋ねてみると、「Xから広告収益を得ることを目的としたbotアカウント群」と出ます。さらに、「botアカウント群」について尋ねると、「人間がツイートしているのではなく、 機械的にツイートされているアカウントのこと」と答えてくれます。狙いは、多くのフォロワー数があるかまたは多くの人が見てくれるサイトに投稿することで、自身のツイートに注目してもらうことのようです。しかし、その「内容」への注目ではなく、ツイートしたことへの注目のようです。
Xから広告収入を得るためとは
この背景にあるのは、2023年8月にイーロン・マスク氏がスタートさせたXから広告利益を得られるしくみです。条件①~③を満たしたユーザーが、自身の投稿の返信欄に表示される広告収入の一部を得られる仕組みです。
条件は、
① 有料サービス「Xプレミアム」を利用中または認証済み組織に参加していること、
② フォロワーが500人以上、
③ 過去三カ月の投稿に対するインプレッションが500万件以上、
です。
インプレゾンビをすることで、③の条件は達成されやすくなりますね。
リプライゾンビ、インプレゾンビは何がいけないのか?罪に問われないのか?
リプライゾンビもインプレゾンビも、それぞれバズりそうな投稿ツイートを探して、そこにいち早くアクセスしてリプライやリツイートをしているのですから、努力しているともいえます。言論の自由、表現の自由があるので、そうした努力の仕方も許されるともいえそうです。
しかしながら、実際上、かなり迷惑な存在です。
なぜならば、これらのバズりそうな投稿ツイートには、多くの人は「正確な情報」を求めてきます。それなのに、肝心の重要な情報を見にくくしているからです。何よりも、無意味な内容の複数投稿で、サーバーを圧迫しているので悪質です。
罪に問えないのか?一掃できないのか?
このように考えられる方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、誤情報やあからさまなデマ情報よりも、その内容の悪質性は低いといえます。また、価値のない「投稿」・価値のある「投稿」は 判断しづらいものですし、価値のある「投稿」のみが求められているとは断じがたいのがXというものであろうと思います。
結び
デマツイートやフェイクニュースについては、どこ(誰)がいつ発信した情報なのかを、改めて確認する必要があります。不安で自分が情報を欲しているときほど、慎重に、ということあ求められますね。
リプライゾンビとインプレゾンビは、本来は通報するべきなのでしょうが、さしあたりは「ブロック」して自衛していきましょう。そもそもがXの仕組みによる産物なので、Xの仕組み(広告収入を得るための条件)を見直してもらいたいものです。
末筆ながら、令和6年能登半島地震で被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。
以上
(参考)
「Xに現れる“ゾンビ”の正体 『リプライゾンビ』『インプレゾンビ』」はなぜ、意味のないリプライを繰り返すのか」IT Media News 2023年12月1日 12:55 https://news.goo.ne.jp/article/itmedia_news/trend/itmedia_news-20231201_095.html
「“災害デマ”はなぜ拡散するのか 「善意」が被害を拡大させる」NHK 2019年12月19日
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20191219_01.html
中村 翔樹「無関係の津波動画に、架空の住所から支援金要求 能登半島地震でSNSに偽情報拡散」産経新聞2024年1月2 日15:57
https://www.sankei.com/article/20240102-UI2KJB5UUNAGHCFS3OIPYAV47E/
産経新聞「志賀原発、変圧器の火災は誤認 冷却プールなど機能維持、北陸電発表」1月1日志賀原発、変圧器の火災は誤認 冷却プールなど機能維持、北陸電発表
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%BF%97%E8%B3%80%E5%8E%9F%E7%99%BA-%E5%A4%89%E5%9C%A7%E5%99%A8%E3%81%AE%E7%81%AB%E7%81%BD%E3%81%AF%E8%AA%A4%E8%AA%8D-%E5%86%B7%E5%8D%B4%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AA%E3%81%A9%E6%A9%9F%E8%83%BD%E7%B6%AD%E6%8C%81-%E5%8C%97%E9%99%B8%E9%9B%BB%E7%99%BA%E8%A1%A8/ar-AA1mkLVN
総務省特集ページ「ネットの時代におけるデマやフェイクニュース等の不確かな情報 ネット上には、人を混乱させるためにわざと流されたデマ情報も。身近な医療・健康情報、うわさ話やゴシップネタなどにも、間違った情報があります!」
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/special/fakenews/
Mandy, “Information: Understanding Twitter’s Ads Revenue Sharing: A Comprehensive Guide for Creators” Mandy News. Posted on August 8, 2023
https://mandynews.com/understanding-twitters-ads-revenue-sharing/#:~:text=What%20is%20Ads%20Revenue%20Sharing%3F%20Ads%20Revenue%20Sharing,empower%20individuals%20to%20earn%20directly%20on%20the%20platform.(Last visited Jan.02, 2024).