「ビジネスに関わる行政法的事案」第6回:競業者訴訟について
第6回:競業者訴訟について 神山 智美(富山大学)
はじめに
許認可をめぐる事業者と行政との関わりは、両当事者による二面関係(二者関係)です。事業者Aが事業の許可申請をし、処分行政庁がそれを許可する、事業者Aのライバル社である事業者Bも同処分行政庁に許可申請をして同じく許可を得る、または許可が得られないというようになります。
タイトルにある「競業者訴訟」とは、現代型訴訟のうちの一つで、明確な領域としての定義があると言えません。が、ここでは、「営業上競争関係にあり、両者に極めて密接な利益・不利益関係がある場合の訴訟での争いのこと」とします。
例としては、事業者Aが事業許可を得て事業をしているところに、事業者Bも新たに事業許可を得て、事業に参入してきたため、事業者Bの許可処分に関して、事業者Aが許可取消しの訴えを起こすという場合です。これは、二面関係に対して第三者が訴える三面関係(三者関係)になっています。
事業者Bは、「私は私のビジネスをしたいだけなの。Aさん、あなたには関係ないでしょ。」と、事業者Aに対して言いたいような事案ですが、こうした競業者訴訟は、現代型訴訟のうちの一つとされています。
いくつかの具体的な競業者訴訟を見てみましょう。
(1)一般廃棄物処理業(原告適格)事件(小浜市)
既存の一般廃棄物収集運搬業者であるX(上告人)が、Y市長により廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法、または廃棄物処理法と略される。)に基づいて会社A等に対する一般廃棄物収集運搬業の許可更新処分等がされたことにつき、Y市長を相手に、会社A等に対する各許可更新処分は違法であると主張して、それらの取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた訴訟です。
一般廃棄物とは
廃掃法によれば、一般廃棄物とは、廃棄物の中の産業廃棄物を除くものということになります(廃掃法2条1項、2項、および4項)。
多くは家庭から出るごみのことです。ただし、事業系一般廃棄物といわれる事業者が排出する産業廃棄物以外のごみもこれに含まれ、かなり広い範囲のものを示すことがわかります。
(廃掃法)
第2条 この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。
2 この法律において「一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。
4 この法律において「産業廃棄物」とは、次に掲げる廃棄物をいう。
一 事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物
二 輸入された廃棄物(略)並びに本邦に入国する者が携帯する廃棄物(略)
この一般廃棄物については、家庭からのゴミであっても、小さなものであっても、ひとたび「ゴミ」とするのであれば、「みだりに」捨てたり(16条)、自宅敷地内で焼却したり(16条の2)ということは許されません。なかなか厳しく管理されていますね。
(廃掃法)
第16条 何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
第16条の2 何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
一 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却
二 他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
三 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの
一般廃棄物の収集運搬
その一般廃棄物の収集運搬は、原則として市町村の事務(廃掃法4条1項)となっており、市町村が一般廃棄物処理計画を定めて、それに則って収集、運搬および処分をしなければならないことが規定されています(同法6条の2第1項)。
(廃掃法)
第4条 市町村は、その区域内における一般廃棄物の減量に関し住民の自主的な活動の促進を図り、及び一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めるとともに、一般廃棄物の処理に関する事業の実施に当たつては、職員の資質の向上、施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならない。
第6条の2 市町村は、一般廃棄物処理計画に従つて、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分(略)しなければならない。
市町村が行う一般廃棄物処理行政は、以下の①から③のいずれかの手法をとることになっています。
①直営:市町村が自らゴミ処理を行う。収集・運搬等も市町村の清掃局等が行います。市のごみ収集車を運転してゴミ収集しているのが市の職員であるというパターンです。
②委託:市町村は、委託基準に適合した事業者に一般廃棄物処理(収集・運搬等)を委託することもできます。一般廃棄物処理は、市町村の固有事務(行政作用)ですので、委託事業者は市町村の代わりに市町村の事務を代行していることになるため、委託事業者の行為は市町村の行為とみなされます(廃掃法6条の2第2項)。
(廃掃法)
第6条の2 2 市町村が行うべき一般廃棄物(略)の収集、運搬及び処分に関する基準(略。以下「一般廃棄物処理基準」という。)並びに市町村が一般廃棄物の収集、運搬又は処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は、政令で定める。
③許可:市町村は、一般廃棄物処理業の「許可」を受けた事業者に一般廃棄物処理を行わせることもできます。条文上は「許可」ですが、講学上の「特許」の意味も持つことに注意を要します。つまり、産業廃棄物処理とは異なり、一般廃棄物処理は、市町村の固有事務ですので、国民にとっては憲法上の職業選択の自由および営業の自由等によって保障された権利とはいえないからです。よって、どの事業者に「許可」を与えるかには市町村は広範な裁量を持つといえます(廃掃法6条の2第6項)。
(廃掃法)
第6条の2 6 事業者は、一般廃棄物処理計画に従つてその一般廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合その他その一般廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第7条第12項に規定する一般廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する一般廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
一般廃棄物処理業事件の原告Xは原告適格を有するか
この事案は<最三小判平成26年1月28日・判時2215号67頁>を素材としており、新規参入業者A社(訴外・ライバル社)に一般廃棄物処分業の許可をしたことを不服とした既存業者Xが、当該許可処分の取消しを訴えた事案です。
本件ではXが行政事件訴訟法9条の原告適格の規定にいう「法律上の利益を有する者」の適格性を有するかどうかが問われました。
最高裁は、廃掃法の定める受給状況の調整に係る規制の仕組みおよび当該許可の性質等を総合考慮し、同法は、全体として、既存業者の個別的利益を保護する趣旨を含むものであると解しました。つまり、市町村長は、一般廃棄物処理業の許可処分または許可更新処分を行うに当たり、既に許可またはその更新を受けている者の営業上の利益に配慮し、これを保護すべき義務を負うと判断したのです。よって、既に許可またはその更新を受けているXは、新規ライバル社A等への許可処分の取消しを求める原告適格を有すると判断されました。
(2)廃棄物収集運搬業の許可取消請求事件及び許可処分執行停止申立事件(鹿児島県伊仙町)
この事案<鹿児島地判平成29年2月28日・判自433号39頁>も(1)と似ています。
鹿児島県伊仙町長Yから一般廃棄物(し尿・浄化槽汚泥)の収集運搬の許可を受けている原告・申立人Xが、同町長が他の会社Aにし尿・浄化槽汚泥の収集運搬の許可処分をしたことについて、①同処分の取消しを求めた訴訟(第1事件)と、②同処分の執行停止を求めた申立て(第2事件)を起こしました。
①は、取消しが認められ、②は、第1事件の判決が確定するまで同処分の執行停止(*)が認められました。
(*)執行停止とは、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部または一部を、一時的に停止させることです。執行不停止が原則となっているところ、私人の権利利益を終局判決が出る前に保全するための例外的な制度が執行停止です。
裁判所の判断
裁判所は、(1)の判例に基づき、「市町村長から一定の区域につき既に廃棄物処理法7条に基づく一般廃棄物収集運搬業及び一般廃棄物処分業(略)の許可又はその更新を受けている者は、当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分について、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである」と判断しました。その具体的な理由は、「本件処分により、原告とA社が同一の区域で競合することになるのであるから、本件処分は伊仙町における上記収集運搬業の需給状況を変動させ、原告の事業に影響を及ぼすものといえる」からとしています。
本件処分については、廃掃法を「市町村長から一定の区域につき既に一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者がある場合に、当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可又はその更新が、当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響についての適切な考慮を欠くものであるならば、許可業者の濫立により需給の均衡が損なわれ、その経営が悪化して事業の適正な運営が害され、これにより当該区域の衛生や環境が悪化する事態が生じるから、当該事態を避けるため、一般廃棄物処理業の需給状況の調整に係る規制の仕組みを設けている」と解釈し、「市町村長が一般廃棄物処理計画との適合性等に係る許可要件に関する判断をするに当たっては、その申請に係る区域における一般廃棄物処理業の適正な運営が継続的かつ安定的に確保されるように、当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響を適切に考慮することが求められる」としています。
そこで、実際の一般廃棄物処理計画の策定時期やその精度を審理すると、本件では、一般廃棄物処理計画策定の最終段階である決済および公表はされていなかったことから、裁判所は、「本件処分時において平成27年度一般廃棄物処理計画が策定されていたことについては疑義があるといえる。」と判断しています。
そのうえで、本件処分については、「仮に本件処分時に一般廃棄物処理計画が定められていたとしても、処分行政庁においては、本件処分をするに当たり、本件処分が同計画に適合しているか否か、A社が廃棄物処理法所定の要件を満たしているか否かなどの検討事項について十分に審査、判断し得えたものと認めることはできないし、原告に与える影響等について適切な考慮がされたとも認められない。」と判断しています。「したがって、本件処分は違法であるというべきである。」として、①②は上記の結論にて結審しました。
(3)病院開設許可処分取消請求事件
この病院開設許可処分取消請求事件(最二小判平成19年10月19日・判時1993号3頁)は、開設予定病院の所在地付近で医療施設を開設している法人および医師ならびに地元医師会らが、当該許可は医療法の病院開設許可要件を満たさず違法であるとして、許可の取消しを求めた事案です。
最高裁は、これらの者は開設許可の取消しを求める原告適格を有しないと判断しました。
「士・師業」の大規模組織化
弁護士、公認会計士、医師という自営できる職業の人たちの大規模組織化が進んでいます。数百人の弁護士を抱える弁護士事務所、著名な企業を顧客とする大手の監査法人、そして、全国に年中無休・24 時間オープンの医療を届けられるネットワークを持つ大病院などがあります。こうした事業者は、その利用者からは心強い存在ですが、他方、同業者からは「脅威」以外のなにものでもありません。弁護士さんたちは、「○○事務所を相手に訴訟はできない」とおっしゃいますし、地域に大病院ができると、お客(患者)を取られるのではないかと開業医たちはおそれます。これが、適切な自由競争(サービス競争)につながればよいのですが、規模の違いから、到底勝ち目がないとなるのであれば、中小規模の事業者を保護する政策もある程度は必要となるでしょう。それが問われた事件でした。
裁判所の判断
最高裁は、医療法は「病院の開設許可については、その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が21条及び23条の規定に基づく厚生労働省令の定める要件に適合するときは許可を与えなければならないこと(7条4項)、営利を目的として病院を開設しようとする者に対しては許可を与えないことができること(同条5項)を定めており、許可の要件を定めるこれらの規定は、病院開設の許否の判断に当たり、当該病院の開設地の付近で医療施設を開設している者等(以下「他施設開設者」という。)の利益を考慮することを予定していないことが明らかである。」と解釈しました。
さらに、「(医療)法30条の3は、都道府県は医療を提供する体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとし(同条1項)、そこに定める事項として「基準病床数に関する事項」を掲げており(同条2項3号)・・・病院開設の許可の申請が医療計画に定められた「基準病床数に関する事項」に適合しない場合又は更に当該申請をした者が上記の勧告に従わない場合にも、そのことを理由に当該申請に対し不許可処分をすることはできないと解される(略)。」としました。
また、「(医療)法30条の3が都道府県において医療計画を定めることとした目的は、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保することにあると解されるから(略)、同条が他施設開設者の利益を保護する趣旨を含むと解することもできない。(改行)(同)法の目的を定める法1条及び医師等の責務を定める法1条の4の規定からも、病院開設の許可に関する法の規定が他施設開設者の利益を保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることはできず、そのほか,上告人らが本件開設許可の取消しを求める法律上の利益を有すると解すべき根拠は見いだせない。」としました。
以上を理由として、最高裁は、Xらは「本件開設許可の取消しを求める原告適格を有しないというべきである」と判示しました。
((当時の)医療法)
第1条 この法律は、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するために必要な事項、医療の安全を確保するために必要な事項、病院、診療所及び助産所の開設及び管理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備並びに医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携を推進するために必要な事項を定めること等により、医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与することを目的とする。
第1条の4 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第1条の2に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。
2 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
3 医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連係に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
4 医療提供施設の開設者及び管理者は、医療技術の普及及び医療の効率的な提供に資するため、当該医療提供施設の建物又は設備を、当該医療提供施設に勤務しない医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手の診療、研究又は研修のために利用させるよう配慮しなければならない。
第7条 病院を開設しようとするとき、医師法(略)第16条の4第1項の規定による登録を受けた者(略)及び歯科医師法(略)第16条の4第1項の規定による登録を受けた者(略)でない者が診療所を開設しようとするとき、又は助産師(略)でない者が助産所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事(略)の許可を受けなければならない。
4 都道府県知事又は保健所を設置する市の市長若しくは特別区の区長は、前三項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が第21条及び第23条の規定に基づく厚生労働省令並びに第21条の規定に基づく都道府県の条例の定める要件に適合するときは、前三項の許可を与えなければならない。
5 営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第4項の規定にかかわらず、第1項の許可を与えないことができる。
第30条の3 都道府県は、基本方針に即して、かつ、地域の実情に応じて、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るための計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとする。
2 医療計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
三 療養病床及び一般病床に係る基準病床数、精神病床に係る基準病床数、感染症病床に係る基準病床数並びに結核病床に係る基準病床数に関する事項
以上を理由として、最高裁は、Xらは「本件開設許可の取消しを求める原告適格を有しないというべきである」と判示しました。
結びに代えて
同じ競業者訴訟でも、(1)(2)には原告適格が認められ、(3)は認められていません。それは、根拠法令の違いによります。新規参入を妨害できるほどに行政がその事業(一般廃棄物処理や地域医療)に権能(責任)を有しているかそうでないかによると考えられます。つまり、一般廃棄物処理は市町村の事務であるが、地域医療は都道府県の固有事務とはいえないため、後者には自由競争の原理が前者よりも強く働くのです。
以上