「ビジネスに関わる行政法的事案」第62回 電線に木の枝がかかる場合にはどう対処すべきか?

第62回 電線に木の枝がかかる場合にはどう対処すべきか?      神山 智美(富山大学)

 

はじめに

電柱電線は生活空間になじんだものです。今日は、車の中から街並みを見てみました。すると、電柱や電信柱(電話線など通信に使用するための電線を架線するためのもの)、信号機、街頭等が並び立っています。

無電柱化の動きもありますが、なじみのある風景は電柱電線とともにあったという人も少なくないでしょう。

私の実家にも電柱が立っており、敷地内を電線が通っています。この電線に庭木がかかった場合の対応を考えてみたいと思います。

2.無電柱化の動きもある

(1)無電柱化の推進に関する法律(平成28年法律第112号)

無電柱化の推進に関する法律(無電柱化法)はご存じですか?議員立法により、平成 28 年 12 月に制定された法律です。

〔無電柱化法〕

第1条(目的)

この法律は、災害の防止、安全かつ円滑な交通の確保、良好な景観の形成等を図るため、無電柱化(電線を地下に埋設することその他の方法により、電柱(鉄道及び軌道の電柱を除く。以下同じ。)又は電線(電柱によって支持されるものに限る。第十三条を除き、以下同じ。)の道路上における設置を抑制し、及び道路上の電柱又は電線を撤去することをいう。以下同じ。)の推進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、並びに無電柱化の推進に関する計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、無電柱化の推進に関する施策を総合的、計画的かつ迅速に推進し、もって公共の福祉の確保並びに国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

その第7条に規定する「無電柱化推進計画[i]」には、同計画の趣旨が以下のようにまとめられています。

①これまで無電柱化は、防災性の向上、安全性・快適性の確保、良好な景観形成の観点から実施されてきた。

②近年、災害の激甚化・頻発化、あるいは高齢者の増加等により、その必要性が高まっている。

③特に、近年の台風や豪雨等の災害では、倒木や飛来物起因の電柱倒壊による停電ならびに通信障害が長期間に及ぶケースも報告されており、電力や通信のレジリエンス強化も求められている。

④また、新型コロナウイルスの感染拡大による観光への影響は大きいが、訪日外国人をはじめとした観光需要が再び増加することを見据え、観光地等において良好な景観を形成していく必要がある。

(2)電柱なくそう写真コンテストで電柱の美しさを改めて実感

さらに、「(一社)無電柱化民間プロジェクト実行委員会」による写真コンテストというものも実施されているようです。公式サイトによれば、「電柱採集フォトコンテスト」という名称で、募集しているのは、「景色のじゃま」「通行のじゃま」になっている電柱の写真でした。

例えば、2017年09月29日 (金)締め切りの【テーマ】は、以下の2つでした[ii]
(1)景色だいなし属 賞
(2)路上おじゃま属 賞

しかしながら、美しい電柱風景の作品投稿が殺到し、論争になったようです[iii]。電柱や電線に感じるノスタルジーや郷愁等というものもあるので、見る方、撮る方の感性を否定することを避けてほしいという投稿もあったようです。

また、東京都では「都市防災機能の強化」「安全で快適な歩行空間の確保」「良好な都市景観の創出」を目的に無電柱化を推進しています。
公式ウェブサイトには、次のように記されています。11月10日の「無電柱化の日」に合わせて、“都民の皆様に、通勤や通学など日常生活で利用する道路における電柱や電線の存在に気付いていただき、無電柱化の必要性や効果を実感していただくこと”を目的としたフォトコンテストの入賞作品の発表と表彰を行っています[iv]

(3)エモい電柱フォトコンテストも開催さ入れている

他方、2023年8月1日(火)~8月31日(木)一般財団法人九州電気保安協会によるインスタグラムを活用したフォトコンテスト「第3回 エモい電柱フォトコンテスト2023」が開催されました[v]。略してエモ電だそうです。(電車のことではないのでご注意ください。)

わたくしも拝見しましたが、存在感のある電柱がたくさん見られます。圧巻です!

このように見てくると、「電柱がある景色≠美しくない」というわけではなさそうですね。そもそも「景色」「風景」の良さは、一律に決められるものではなく、人それぞれの好みによるものまたは各人の思い出などと関連したものという性質があるからかもしれません。

3.電線は誰のもの?

(1)電線は誰のもの?管理責任者は誰ですか?

各住宅の電力メーターまでの電線や電柱は電力会社の持ち物です。最寄りの電柱から電線を引っ張ってくるのも電力会社の仕事です。管理責任者も電力会社ということになります。

そのため、公道の上空を電線が通過するという問題や、隣家の敷地上空を電線が通過するという問題が生じたとしても、それは電力会社が交渉をすることになります。

民法(昭和39年法律第170号)207条によれば、「土地の所有権は法令の制限内においてその土地の上下に及ぶ」と規定されています。土地の(ある程度までの)上空を電線が横切る場合には、電力会社は居住者の所有地の上空を利用させてもらう形になります。電力会社は、契約によりその対価として「線下補償料」を支払うことになります。

ただし、電力会社としても、法外な高額を支払うということはできず、あくまでも適正な取引における良識の範囲内でと努めるようです。

〔民法〕

第207条 (土地所有権の範囲)

土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

(2)電線は繊細

いわゆる電力会社(一般送配電事業者)のウェブサイトには、電線に関する注意が示されています[vi]。さらに、こうした場合(電柱に鳥が巣を作っている、電柱や電線に樹木が接触している、電線にビニール袋が引っかかっている、電線が垂れ下がっている等)には、気を付けること、そして電力会社に連絡することが明記されています[vii]

4.電線に枝がかかった場合の対処

(1)住民が気付いた場合

電線は電力会社のものであり、管理者も電力会社であると書きました。そのため、電力会社の方たちが、電線が無事な状態であるかどうかを点検、監視(モニタリング)してくださっているようです。

しかし、電線に枝がかかっていることを、庭木の所有者が先に気づいた場合にはどうなるのでしょうか?電線は繊細なものですので事故につながってはいけませんので、状況に応じて、電力会社にご連絡またはご相談する必要があります。さらに、樹木の所有者がその剪定費用を支弁するのか、それとも電力会社から何らかのご協力をいただけるのかについては、電線を引いたときの電力会社との契約内容にも関連します。

ウェブ上で、電力会社に連絡して剪定していただいた事案について書かれた記事がありましたので、ここでご紹介しておきます[viii]。結論から言えば、電力会社に申し出れば、庭木を剪定してもらえることが多いようですが、それはあくまで「電線に係らないように切断する」という行為に過ぎないようです。そのため、「庭木の健康にも配慮しながら美しく剪定する」わけではないので、剪定の仕方にこだわりがある場合には、ご自身で造園業者にお願いされた方が良いようです。

(2)電力会社が気づいた場合

電力会社が気づいた場合には、「所有者に枝を剪定していただく」、または(緊急性が高い場合には)「電力会社が枝を切らせていただく」ことになります。そのことについて規定したのが、電気事業法(昭和39年法律第170号)第61条です。

〔電気事業法〕

第61条(土地所有権の範囲)

電気事業者は、植物が電気事業の用に供する電線路に障害を及ぼし、若しくは及ぼすおそれがある場合又は植物が電気事業の用に供する電気工作物に関する測量若しくは実地調査若しくは電気事業の用に供する電線路に関する工事に支障を及ぼす場合において、やむを得ないときは、経済産業大臣の許可を受けて、その植物を伐採し、又は移植することができる。

2 電気事業者は、前項の規定により植物を伐採し、又は移植しようとするときは、あらかじめ、植物の所有者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、伐採又は移植の後、遅滞なく、通知することをもつて足りる。

3 電気事業者は、植物が電気事業の用に供する電線路に障害を及ぼしている場合において、その障害を放置するときは、電線路を著しく損壊して電気の供給に重大な支障を生じ、又は火災その他の災害を発生して公共の安全を阻害するおそれがあると認められるときは、第1項の規定にかかわらず、経済産業大臣の許可を受けないで、その植物を伐採し、又は移植することができる。この場合においては、伐採又は移植の後、遅滞なく、その旨を経済産業大臣に届け出るとともに、植物の所有者に通知しなければならない。

4 第58条第3項の規定は、第1項の許可の申請があつた場合に準用する。

同法同条に関しては、経済産業省により「植物の伐採などに関する指針(2020(令和2)年6月)」[ix]が発出されています。

その趣旨には、電線に樹木がかかった場合について以下のように記されています。

①まず、電気事業者と植物の所有者との間で、その植物の伐採等について協議を行い、その協議が調った上で伐採等が行われるべきである。

②電気事業者と植物の所有者との協議が調わず、または協議することができない限り植物の伐採等ができないとされたが伐採等の必要が認められるという“やむを得ないとき”は、電力会社(条文上は、「電気事業者」)は、経済産業大臣の許可を受けて、その植物を伐採し、又は移植することができる。

その理由は、電気事業者と植物の所有者との協議が調わず、または協議することができない限り植物の伐採等ができないとすると、電気の供給に重大な支障を及ぼすし、火災発生等公共の安全を阻害するおそれも大きいといえます。このため、同条に基づく伐採等は、電気事業の高度な公益性に鑑み、電気の安定供給、公共の安全の確保等電気事業の適確な遂行を図るために認められたものです。

(3)2021(令和3)年民法改正

余談ですが、隣地上の樹木が大きくなり枝を伸ばしてくる場合があります。「線下補償料」の対象外となるような土地上の樹木が大きく枝を伸ばしてきた場合のことです。

こうした場合には、2023(令和5)年4月に施行された改正民法を適用して、電力会社等が速やかに対処することが可能でしょう。民法改正により、越境した「枝」の切除ルールが変わったからです。

旧民法    第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)

隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

現行民法(改正民法) 第233条 (竹木の枝の切除及び根の切取り)

土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。

二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

三 急迫の事情があるとき。

4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

つまり、旧民法233条においては、隣地から植栽の「枝」が越境してきても勝手に切ることはできませんでした。しかし、陳地の土地所有者や管理者が誰であるのかを確認することや、隣地所有者と容易にコミュニケーションを取ることが難しくなってきています。こうした現代的な事象に対応する法改正と言えます。

5.結び

大切な電線に庭木等がかかった場合の対応は、経済産業省の植物の伐採などに関する指針(2020(令和2)年6月)にも記されているように、まず、電気事業者と植物の所有者との間で、その植物の伐採等について協議を行い、その協議が調った上で伐採等が行われるのが理想のようです。そうした協議が整わない場合のための法的措置が規定されてはいますが、それらは「やむを得ないとき」のためです。まずは十分な協議および協議をするための努力が求められていると言えます。

 

以上

 

[-注-]

[i] 国土交通省「無電柱化推進計画について」2021(令和3)年5月25日国土交通大臣決定。

[ii] JDN Inc. 「電柱採集フォトコンテスト」

https://compe.japandesign.ne.jp/mudenchuka-photo-2017/(2024年5月19日最終閲覧)。

[iii] J-Cast News 「電柱なくそう団体の写真コンテスト 美しい電柱風景の作品投稿が殺到し論争」https://www.j-cast.com/2017/09/09307591.html?p=all(2024年5月19日最終閲覧)。

[iv] 東京都「「無電柱化の日」イベント 第3回「無電柱化の日」フォトコンテストの入賞作品を発表します!」https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/10/27/15.html(2024年5月20日最終閲覧)。

[v] 一般財団法人九州電気保安協会「第3回 #エモ電フォトコンテスト受賞作品発表」https://kyushu-emoden.com/award2023-08/(2024年5月20日最終閲覧)。

[vi] 関西電力送配電株式会社「お問い合わせ窓口」https://www.kansai-td.co.jp/faq/contact/(2024年5月20日最終閲覧)。

[vii] 株式会社東京電力ホールディングス「電線・電柱にご注意ください」https://www.tepco.co.jp/attention/index2-j.html(2024年5月20日最終閲覧)。

[viii] パパセンス「電線にかかった枝の剪定は東京電力に無料で依頼できる?」2018年7月23日最終更新https://papa-sense.com/ask-tepco-to-prune(2024年5月20日最終閲覧)。

[ix] 経済産業省「植物の伐採等に関する指針」令和2年6月https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/bassai_shishin.pdf(2024年5月20日最終閲覧)。