「ビジネスに関わる行政法的事案」第29回:飲食店での「テイクアウト販売」について

第29回:飲食店での「テイクアウト販売」について    神山 智美(富山大学)

 

はじめに

私は、行政法の授業の最初のところで、「アリとキリギリス」をモチーフに憲法25条と生活保護法の話をします。憲法と行政法との違いと関わりを伝えるためです。その次に、具体的な行政と個人との関りとして、「もしもあなたがカフェを経営するとしたら」ということで話をすることにしています。まず役所で、許可申請をする必要がありますし、その後経営を始めた場合にもしも食中毒を出したら、その疑いをかけられたら、どうすれば再開できるのか、損害賠償等、いくつかの事例を基に順にお話することにしています。アリとキリギリスよりは難しいお話になりますが、行政という普段は意識しないものを少しでも身近に感じてもらうためにです。

そうした筆者が気になっているのは、飲食店がテイクアウトを始めたというニュースです。テイクアウトやデリバリーを始めた人向けに、図表1の右側のように、* POPを無料で提供するサービスもあるようです。

 

*POP:「Point of purchase advertising」(購買時点広告)の頭文字から取った略語で、主に小売店の店頭プロモーションとして展開される広告媒体のこと。

 

 

フードトラック(キッチンカー)が人気に

テレビをつければ、フードトラック(キッチンカー)の需要が高まっているというニュースが報じられています。今、お店を開くことは「三密」を招くので難しいとされていて、キッチンカーに活路を見出す人が増えているので、メーカーには、キッチンカーの受注生産が増えているとのことです(図表3)。

 

東京都は、東京都の飲食店が「テイクアウト」「配達」「移動販売(キッチンカー含む)」を新たに始める時に必要な資金に対して、中小企業振興公社が最大100万円の助成金を出すと発表しました(図表4)。

 

 

フードトラック(キッチンカー)って?

フードトラック(キッチンカー、ケータリングカーともいうようです。以下「キッチンカー」で統一します。)とは、調理の設備が入っている車両の一般名称です。ランチタイムにオフィス街やキャンパス近くに行列ができるキッチンカーも見かけるのではないでしょうか。

業種の分類としては、「食品営業自動車(調理営業)」になります。車内で調理し、その場で調理・加工し、その場で販売する業務形態です。そのため、「食品移動自動車(販売業)」という、別の場所で調理した食品を営業車で販売する業務形態(移動スーパー等)とは異なります。

 

私が気になっているのは、このキッチンカー営業は、どのように始められるのだろうということです。行政の許認可の部分です。

ちなみに、通常の飲食店は次のような営業許可が必要になります。

食品衛生法51条の「飲食店営業その他公衆衛生に与える影響が著しい営業」に該当するため、同法52条1項の規定により、都道府県知事の許可が必要になります。この「飲食店営業その他公衆衛生に与える影響が著しい営業」は、食品衛生法施行令35条に列挙されています。

 

〔食品衛生法〕

第51条 都道府県は、飲食店営業その他公衆衛生に与える影響が著しい営業(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第二条第五号に規定する食鳥処理の事業を除く。)であつて、政令で定めるものの施設につき、条例で、業種別に、公衆衛生の見地から必要な基準を定めなければならない。

第52条 前条に規定する営業を営もうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。(以下略)

 

キッチンカー営業を始める場合の許認可

屋外で、それも移動しながら販売するわけですので、「公衆衛生」という観点からいくつかの規制があるようです。以下に順に述べます。

営業許可

まず重要になるのは営業許可です。例えば、扱う品目ごとに、必要に応じて(必要があれば複数の)前述の食品衛生法52条1項の営業許可を取る必要があります。それは、営業をする都道府県での取得が必須です(製造業に関しては、別途販売業の許可を要する都道府県もあるため注意を要する。)。

 

 

上記(図表5)は、店舗を開店する場合と同様なのですが、他にいくつかキッチンカー営業に必須の要件も出てきます。「仕込み場所の営業許可証の写し」「仕込み場所の水質検査証明書」「車検証の写し」等です(都道府県によって詳細は異なる場合もあります。なお、食品衛生責任者の資格等を取得しており、キッチンカーは、保健所の許可が取るように製造されたものであることが前提です。)

特に、「仕込み場所」が問題となります。というのも、原則としてキッチンカーでは仕込みはできないとされているからです。別途仕込み場所を確保し、公衆衛生上も配慮した水質検査証明書と営業許可を確保する必要があります(ただし、仕込み調理が必要ないように材料を仕入れたり、仕込み調理が不要な提供メニューにしたりすれば、仕込み場所の確保は必要ありません)。

 

増えるテイクアウトやケータリング、許可は大丈夫?

はじめのところで、テイクアウト(お持ち帰り)やケータリングが増えているというお話をしました。店舗で販売するのであれば、仕込み場所や調理場所は十分に確保されていると言えそうで安心ですね。

ただ、私が気になっているのは、飲食店も喫茶店も、その場で食べることを前提としているのに、(新コロナ禍のため、)食べる場所は設定してなくてもいいのだろうかということです。「テイクアウト(お持ち帰り)やケータリングだけでもいいの?」ということです。

食べきれなかったものを持ち帰られてもらっていますよね、そうであればお店で提供しているものと同じものはテイクアウト(お持ち帰り)できそうです**

 

**飲食店が、テイクアウトまたはケータリング出来るのは、おかずがあり、ご飯があるお弁当状態のものを指します。

 

ただ、単品でも購入できるとなると、製造販売店と何が違うのだろうと思ってしまいます。「惣菜製造業」という別の業種になるのではないかという疑問です。こうした場合には、食品衛生法施行令35条32号の、惣菜製造業の許可と、都道府県によってはその販売業の許可も必要となります。

また、焼き肉屋さんで、「お家で焼き肉セット」が販売されていることがあります(図表6左)が、あれも食品衛生法施行令35条12号の食肉販売業にあたる場合もあります。もちろん、「食肉販売業の許可も所持していますよ」という焼肉屋さんも少なくないでしょう。

 

〔食品衛生法施行令〕

第35条

十二食肉販売業

三十二そうざい製造業(通常副食物として供される煮物(つくだ煮を含む。)、焼物(いため物を含む。)、揚物、蒸し物、酢の物又はあえ物を製造する営業をいい、第十三号、第十六号又は第二十九号に該当する営業を除く。)

 

 

だったら、お寿司屋さんで売っている「手巻きすしセット」はどうなるのでしょうか?ご飯つきなら飲食店のテイクアウトまたはケータリングの範囲内だけど、ご飯抜きだと惣菜製造業になってしまうのでしょうか(図表6右)?なかなか難しいですね。

 

以上

 

<参考にしたもの>

・永田雅乙(フードビジネスコンサルタント)「実は法令違反だらけ…!飲食店『持ち帰り・デリバリー』のヤバい実態」Yahooニュース 2020年5月2日8:01配信

 

・キッチンカー(移動販売車)の営業許可取得マニュアル5ステップ2020.4.13最終更新

  https://foodtruck.co.jp/hajimete/capture-way/

 

・キッチンカー(移動販売)の営業許可に必要な仕込み場所の準備について2018.1.30

  https://foodtruck.co.jp/hajimete/places-to-cook/