「ビジネスに関わる行政法的事案」第55回「推し」勢が掘り起こす新たなファッション(流行)
第55回「推し」勢が掘り起こす新たなファッション(流行) 神山 智美(富山大学)
はじめに
「リア充(りあじゅう)」という表現があります。2次元や2・5次元(アニメや漫画などの「2次元」の物語を、舞台やミュージカルといった「3次元」で表現した作品のこと)の世界に基づくブログやSNSなどを通した関係ではなく、リアルな現実社会における人間関係や趣味活動を楽しんでいること、またはそのような人を指す言葉です。イメージとしては、「張り合いのある職業に就いている人」、「恋人や友人に恵まれている独身の人」および「温かい家庭を築けている既婚者の人」になるようです。
これに対して、2次元や2・5次元の世界で、趣味を楽しんでいる人たちもいます。多くは、「推し(おし)」という対象がいて、その人物等のファンとして熱心な応援活動をしています。「推し」の一挙手一投足に歓喜して「推しが尊い(とうとい)」等といいながら「推し活(おしかつ)」をします。
ここで浮かんでくるのが、「リア充には推しはいないのか?」「リア充は推し活をしていないのか?」というのが素朴な疑問ですが、一見してリア充の方でも推し活をされている方はいらっしゃると思います。我が家の娘たちはリア充かどうかは微妙ですが、それぞれに「推し」がおりまして、「『推し活』は元気の源」と言っております。なんにせよ楽しみがあるのは良いことでしょう。
そういえば、かつて1990年代後半には「第一次韓流ブーム」というものがあり、「2003年にヒットしたドラマ「冬のソナタ」をきっかけに、日本列島で「ヨン様」ブームが巻き起こりました。あの頃の、奥様達の韓国語勉強意欲や韓国旅行ブームは、経済活動を牽引していました。「『推し活』は元気の源」というのもうなづけますね。
今回は、第一次韓流ブームほどではないのですが、「Fate Grand Order」という人気ゲームのキャラクターが、現実社会でブレイクしたお話しです。「参考」に挙げてある日経クロストレンドでも、「『Fate/Grand Order』経済圏」という表現で著されています。
1.「Fate Grand Order」とは
「Fate Grand Order」という無料スマホアプリのゲームからご説明しましょう。フェイト/グランドオーダーは、FGOとも略されているスマホゲームです。
まず「Fate(フェイト)」とは、フェイトシリーズとも言われる2004年発売のPCゲーム『Fate/stay night』からはじまるシリーズ作品の総称です。ゲーム、アニメ映画が中心ですが、魅力的なキャラクーが多く、スピンアウト作品も少なくありません。絵が美しく、「ビジュアルノベル」とも言われていますし、シリーズ第1作(初出)がR-18だったこともあり、十分に大人向けの作品となっています。むしろ、低年齢層では消化しきれないのではないかと思うほど内容が濃いのが特徴です。
FGOは、このFateシリーズのスマホゲームです。公式ウェブサイト(2023年1月13日閲覧)には、「Fate/GOの世界」として、以下のように説明してあります。「『Fate/stay night』をはじめとする数多くの「Fate」シリーズのひとつとして2015年7月に始まった、TYPE-MOONが手掛けるスマートフォン向けRPG(ロールプレイングゲーム)。未来が失われた世界でプレイヤーはマスターとなり、英霊(サーヴァント)と呼ばれるキャラクター達を従えて過去へ遡り、聖杯探索(グランドオーダー)と呼ばれる旅に出ることになる。」つまり、グランドオーダー(GO)というのは、旅の名称なのですね。
続いて、以下の説明があります。「制作にはTYPE-MOON竹内崇や奈須きのこをはじめとするクリエイター陣が参加し、さらに、作品を彩る豪華声優陣が集結!メインストーリーに加え、サーヴァントごとに個別のストーリーがあり、500万字を超えるボリュームのシナリオが展開される。」500万字を超えるボリュームのシナリオが展開されるということは、読み応えも十分ですね。(それぞれのペースで進めればよいのですが、お忙しい人には時間が足りないことが懸念されます。)
2.18世紀の音楽家、サリエリ先生
英霊(サーヴァント)と呼ばれるキャラクターのなかでも人気の高い18世紀の宮廷音楽家「サリエリ」による波及効果についてご説明します。
サリエリは、天才モーツァルトの才能を見抜いたという宮廷音楽家(宮廷楽長)です。Fate/GOでかっこよく登場し、人気キャラクターになる前には、音楽関係者の間だけの「知る人ぞ知る」という存在でしたが、今やFateファンの中では大人気で、歴史上のサリエリ先生はどういう人だったのだろうという部分にまで想いは及んでいます。
そうしたことから、以下のような書籍も発刊(または新版として発刊)されていますし、サリエリの作曲した音楽を聴き始める人も増えています。OSK日本歌劇団が大阪市内でミュージカル「サリエリ&モーツァルト」を上演する機会も増えています。あらゆるところで「サリエリ先生復活」効果が現れていますね。
また、当時の食生活をめぐる書籍も発刊されています。「なぜ食生活なのか?」という疑問もあることでしょう。例えば、藤井聡太棋士の対局では、いつも「ランチに何を注文したか」「おやつは何を選んだか」という事が「勝負飯・勝ち飯」等として報道されますし話題にもなります。これは、対局は真似できないけれど、食事は真似できるから(あやかれるから)という心境によるもののようです。だから皆さんが、同じ「おやつ」を買いに行かれるのでしょうね。
3.岡田以蔵のブレイク
岡田以蔵は、「人切り以蔵」ともいわれる幕末の土佐藩郷士です。剣の達人で、その腕を暗殺などに用いたとされている人物です。この以蔵もFate/GOのなかでかっこよいキャラクターとして登場しました。その結果、現代においてブレイクを果たしたのです。
岡田以蔵の歴史本が売れ始め、Fate/GOにあやかった帯を付けた増刷は5倍売れたようです。おそるべしFate/GO効果、そしておそるべし推し活ですね。
4.法律で考えると―株式会社海外需要開拓支援機構法
これで終わってしまうと、「どうしてGBLIで取り上げるの?」と思われてしまいますので、少し法律的な話題を加えたいと思います。
アニメやゲームは、Cool Japan(クールジャパン・『日本の魅力』)の主たるコンテンツとして、日本国政府が推進し、関係府省連携のもとを海外に発信しています。具体的には、平成25年11月に設立されたクールジャパン機構((株)海外需要開拓支援機構)がその任にあたります。このクールジャパン機構が中心となって、国際的に日本の魅力を発信していき、国際的なトレンドも創出していきたいということでしょう。
このクールジャパン機構については、株式会社海外需要開拓支援機構法がありますので、それを見ていきましょう。
1条の目的によれば、対象事業活動に資金供給等の支援をすることでその促進を図る法律であることがわかります。さらに、2条には「一を限り」とありますので唯一無二の会社であり、3条によれば、政府が議決株式総数の2分の1以上を常に保有していなければならないとされています(他には電通等が出資しています。)ので、かなり特殊な株式会社であることがわかります。
この株式会社海外需要開拓支援機構ですが、赤字の状態が続いているようです。そのため機構改革の要請が財務省からでています。しかし、政策的な意図や法律を読む限りでは、採算が合うような事業(収益が見込まれ料な事業)をする純粋な株式会社ではないので、経済産業大臣御監督の下で、できる限り無駄な出費を抑えるしかなさそうに思えます。
〔株式会社海外需要開拓支援機構法〕(平成25(2013)年法律第51号)
(機構の目的)
第1条 株式会社海外需要開拓支援機構は、我が国の生活文化の特色を生かした魅力ある商品又は役務の海外における需要の開拓を行う事業活動及び当該事業活動を支援する事業活動(以下「対象事業活動」と総称する。)に対し資金供給その他の支援等を行うことにより、対象事業活動の促進を図り、もって当該商品又は役務の海外における需要及び供給の拡大を通じて我が国経済の持続的な成長に資することを目的とする株式会社とする。
(数)
第2条 株式会社海外需要開拓支援機構(以下「機構」という。)は、一を限り、設立されるものとする。
(株式の政府保有)
第3条 政府は、常時、機構が発行している株式(株主総会において決議することができる事項の全部について議決権を行使することができないものと定められた種類の株式を除く。以下この条において同じ。)の総数の2分の1以上に当たる数の株式を保有していなければならない。
(国の援助等)
第27条 経済産業大臣及び国の行政機関の長は、機構及び対象事業者に対し、これらの者の行う事業の円滑かつ確実な実施に関し必要な助言その他の援助を行うよう努めなければならない。
2 前項に定めるもののほか、経済産業大臣及び国の行政機関の長は、機構及び対象事業者の行う事業の円滑かつ確実な実施が促進されるよう、相互に連携を図りながら協力しなければならない。
(財政上の措置等)
第28条 国は、対象事業活動支援その他の対象事業活動の円滑かつ確実な実施に寄与する事業を促進するために必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
結び
ファッションは「流行・最新の文化」のことです。かつては七五三、十三詣り、(節分の)恵方巻、バレンタインデーに対するホワイトデー、母の日に対する父の日、年越しそばに対する年明けうどんという文化は定着していませんでしたが、いつの間にか、私たちの生活サイクルにこうしたイベントが入ってきています。
もちろんこれらの中には商業ベースのものも少なくないのですが、それを楽しむ気持ちがあれば、私たちは取り入れていくのでしょう。さらに、「推し」に関連することなら、すぐに取り入れてしまうかもしれませんね。
「『推し活』は元気の源」とはじめに書きました。何らかの「推し」がある方は、是非 視野を広く持って楽しんでみてください。キャラ推しだけに限らず、推し活でリア充になる(推し活のご利益で、いろいろな知見や友人に恵まれる)ということも可能かもしれません。
以上
(参考)
Fate Grand Order公式ウェブサイト
https://www.fate-go.jp/world/(2023年1月3日最終閲覧)
吉成 早紀「『岡田以蔵』の歴史本が5倍売れ 若い女性が殺到するFGOマジック」日経クロストレンド2020年03月10日https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00280/00002/ (2023年1月3日最終閲覧)
三谷 弘美・吉成 早紀「『FGO』驚異の経済効果 18世紀音楽家『サリエリ』が奇跡の復権」日経クロストレンド2020年03月11日
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00280/00003/ (2023年1月3日最終閲覧)
経済産業省 商務・サービスグループ クールジャパン政策課「クールジャパン機構について」令和3年10月
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/2110CoolJapanFundr1.pdf (2023年1月3日最終閲覧)
讀賣新聞「クールジャパン機構の累積赤字309億円、改善見込めない場合は統廃合を…財務省が提言」2022年06月21日06:54 https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220620-OYT1T50172/ (2023年1月3日最終閲覧)