「ビジネスに関わる行政法的事案」第11回:債券の多様化について―サスティナブル投資、ソーシャルボンド、SDGs債等

第11回:債券の多様化について―サスティナブル投資、ソーシャルボンド、SDGs債等        神山 智美(富山大学)

 

はじめに―グリーンボンドって?

第10回で、国債、地方債、グリーンボンド等について書かせていただきました。今回は、債券も多様化してきているので、それらについてご紹介します。

前回ご紹介したグリーンボンドは、「企業や自治体が、グリーンプロジェクト(再生可能エネルギー事業、省エネ建築物の建設・改修、環境汚染の防止・管理など)に要する資金を調達するために発行する債券」とされています。「グリーン」が示すように、環境に良い事業をするための費用を賄うものです。

ただ、「グリーンボンドを発行する企業がグリーンな企業なのか?」と尋ねられると、難しい側面もあるでしょう。というのも、グリーンとは真逆とされているブラウン事業を営むブラウン企業も、グリーンな事業を営むためにグリーンボンドを発行することもあるからです。ここで、「ブラウン事業」や「ブラウン企業」とは、環境負荷の高い事業とそれを営む企業のことを指します。

ブラウン企業であっても、例えば電力会社で石油・石炭をたくさん燃やしているとしても、その一部でも再生可能エネルギーに向かっていくのであれば、社会としては歓迎したいと思います。となれば、そのためのグリーンな資金の流れは少しでも太くしていけるグリーンボンドの発行は、好ましいことだと捉えています。ただし、グリーンボンドとして資金を集めても、その資金がブラウン事業に回されてはなりません(いわゆるグリーンウォッシング(greenwashing)のことで、環境配慮をしているように装いごまかすことを表します。)。そうしないためにも、継続的なモニタリングは必要になります。

グリーンボンドの中のブルーボンド

ちなみに、グリーンボンドのなかでも、海洋環境の保全や持続可能な漁業のため施策を資金使途とするもので、「ブルーボンド」という名称で発行されている債券があります。セーシェル共和国が、2018年10月に、世界銀行グループと地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)(注1) の支援により発行した国債です。

セーシェル共和国は、アフリカ大陸から1,300kmほど離れたインド洋に浮かぶ115の島々からなる国家で、イギリス連邦加盟国です。ほぼ種子島大の大きさです。主たる産業は、観光業,漁業(まぐろ)、農業(ココナツ、シナモン、バニラ)です。「インド洋の真珠」と呼ばれており、美しい海を有する観光客に人気のリゾート地ですし、マグロを主とする魚介類の輸出国でもあります。こうした海と海洋資源を保全していくためにも「ブルーボンド」が活用されようとしています。

 

(注1)地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)

GEFは、日本を含めた183ヵ国のパートナーシップにより構成され、開発途上国や経済移行国が地球規模の環境問題(気候変動、生物多様性、国際水域、土地劣化、オゾン層破壊、水銀)に取り組むための活動を支援しています。GEFのプロジェクトは、世界銀行やアジア開発銀行などの地域開発銀行や国連機関により実施されており、GEFの資金は地球環境保全に貢献する活動に投資されています。

 

多様化する債券

「○○債」、「○○ボンド」という表現も多様化してきている。

まず、コミュニティ投資、インパクト投資といわれるものがあります。これは、「ビジネスを通じて、社会問題や環境問題等の解決にポジティブな影響を及ぼしている企業を選定、投資対象とするアプローチ」です。

これらには、「社会貢献債」、「ソーシャルボンド」および「ソーシャル・インパクト債」等といわれるものがあります(本稿では「ソーシャルボンド」といいます。)。これは、世界的な社会問題の解決にあてる目的で資金を調達する債券をいいます。グリーンボンドも「ソーシャルボンド」に類似のもので、コミュニティ投資、インパクト投資の一部と言えます。ソーシャルボンドとして、予防接種普及を目的とする「ワクチン債」、途上国の教育支援を目的とする「教育ボンド」、水道整備を目的とする「ウォーター・サポート・ボンド」、農業支援を目的とする「アグリ・ボンド」、インフラ開発を目的とする「インフラ債」などが発行されてきています。

社会問題の解決のためには、社会の持続可能性が重要になります。「投資行動を通じて、持続可能なより良い社会の実現に貢献する」ために、国連の責任投資原則やESG投資(注2)という発想が席巻してきています。こうしたなかで「サスティナブル投資」、「サスティナビリティ・ボンド」「SDGsボンド(SDGs債)」というものが誕生しています。これは、資金の用途を環境・社会の持続可能性に貢献する事業に限定した債券です。グリーンボンド原則とソーシャルボンド原則の両方に適合する債券といえます。例としてJICA(注3)債が挙げられます。

また、世界銀行は、2017年3月に、SDGs(注4)の達成状況に連動する債券、いわゆる「SDGs債」を発行しています。世界銀行は、債券発行で調達した資金を、貧困削減、格差是正、SDGsに関連するプロジェクトに投下しています。

このように考えてくると、「サスティナビリティ投資」と「ESG投資」は、類似のものと言えそうなのですが、厳密には、少しだけ異なります。サスティナビリティ投資は、コミュニティ投資およびインパクト投資の先鋭化されたものですので、「ビジネスを通じて、社会問題や環境問題等の解決にポジティブな影響を及ぼしている企業を選定、投資対象とするアプローチ」です。他方、ESG投資は、「投資の意思決定プロセスにESG要因の分析を統合して企業評価を行うアプローチ」または「ESG要因の分析を踏まえ、ネガティブ・スクリーニングを行い、特定のセクターや個別企業を投資対象から除外するアプローチ」のことです。SDGsの17の指標を用いるかそれともESGの3領域で検討するか、ポジティブな影響を求めるのかそれともネガティブな影響を排除するのか等の違いがありそうです。

(注2)ESG投資

環境(environment)、社会・人権(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のこと。

(注3)JICA

独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency)のこと。日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を行っています。

「JICA債」とは、JICAが有償資金協力業務として発行する債券で、その基本方針と適格基準はソーシャルボンドの特性である「社会課題の解決」に資するものであり、調達資金の資金使途は、有償資金協力業務(円借款と海外投融資)の出融資に充当されることが、JICA法第32条に明示されており、それ以外の業務に使われることはありません

(注4)SDGs

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)、通称「グローバル・ゴールズ」のこと。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。

 

ソーシャルボンド」とは

世界的な社会問題の解決にあてる目的で資金を調達する債券で、グリーンボンドもこれに該当すると記しました。こうした「ソーシャルボンド」の発行体は、発行機関の信用力が高い公共益を担う機関になります。そのためソーシャルボンドへの投資は、一般には、社会貢献と利益獲得の両立を狙うものと想定されていますが、もしも利益獲得が十分でなかったとしても、発行機関の信用力が担保となり、債券が履行不能になる可能性は低いです。

日本では、多くの自治体が発行しているのがこの「ソーシャルボンド」です。以下は、都留市の住民参加型市場公募債(市民公募債・通称「つるのおんがえし債」)の事例です。都留市では新エネルギービジョンを策定した際、公共の施設で積極的に自然エネルギーを導入することを考えました。そこで、「家中川小水力市民発電所元気くん1号」という水車を、市制50周年記念のモニュメントと位置づけて設置しました。この元気くん1号の資金調達には、市民参加で行うという理念の下に市民も参加しやすい市民公募債という方法をとったのです。市民公募債を購入できるのは都留市に住民票のある20歳以上の人とし、1,700万円を募集したところ、4倍以上の6,800万円以上の応募がありました。利率はその年の国債に0.1%上乗せすることとし、実績としては0.9%でまわっています。この流れは、元気くん2号、元気くん3号の設置に受け継がれています。

 

 

地方財政と地方債

地方債って何でしょうか?「地方公共団体の借金でしょう」という発想は、正しいのですが、それだけでは正確な意義を捉え損ねます。地方債とは、「地方公共団体が財政上必要とする資金を、外部から調達することによって負担する債務で、その履行が一会計年度を超えて行われるもの」です。ですので、そこには、「耐用年数の長い投資プロジェクトの費用を、建設時の住民ではなく、その受益者である将来の住民に負担させる」という固有の役割があります。住宅ローン、マイカーローンおよび教育ローンと同じですね。使いながら返済していくという発想ですので、地方公共団体の住民相互間および世代間の関係でいえば、受益者負担がまっとうされるということです。引っ越しする人もいますしね。

こうした地方債の活用を後押ししているのは、自治体の自主性・自立性を高める観点から、2012(平成24)年から「地方債届出制度」が導入されたことによります。

地方公共団体が地方債を発行するときは、原則として、都道府県および指定都市にあっては総務大臣、市町村にあっては都道府県知事と協議を行うことが必要とされています(地方財政法5条の3第1項)。これが「協議制度」といわれるものです。

2012(平成24)年度より、地域の自主性及び自立性を高める観点から、地方債協議制度を一部見直し、財政状況について一定の基準を満たす地方公共団体については、原則として、民間等資金債の起債にかかる総務大臣や知事との協議を不要とし、事前に届け出ることで起債ができる事前届出制が導入されました(地方財政法5条の3第3項)。これが導入された「地方債届出制度」です。さらに、2016(平成28)年度からは、届出基準が一部緩和されています。

【地方財政法】

(地方債の協議等)

第5条の3 地方公共団体は、地方債を起こし、又は起こそうとし、若しくは起こした地方債の起債の方法、利率若しくは償還の方法を変更しようとする場合には、政令で定めるところにより、総務大臣又は都道府県知事に協議しなければならない。ただし、軽微な場合その他の総務省令で定める場合は、この限りでない。

2 前項の規定による協議は、地方債の起債の目的、限度額、起債の方法、資金、利率、償還の方法その他政令で定める事項を明らかにして行うものとする。

3 実質公債費比率が政令で定める数値未満である地方公共団体(略。第5項及び第6項において「協議不要対象団体」という。)は、政令で定める公的資金(以下この条において「特定公的資金」という。)以外の資金をもつて地方債を起こし、又は特定公的資金以外の資金をもつて起こそうとし、若しくは起こした地方債の起債の方法、利率若しくは償還の方法を変更しようとする場合(略。)には、第1項の規定にかかわらず、同項の規定による協議をすることを要しない。

 

JICAの「サスティナビリティ・ボンド」であるJICA債、世界銀行のSDGs債

広義のソーシャルボンドとして、以下に、JICAのJICA債と世界銀行のSDGs債を紹介します。これらは、発行のみならず、購入することでもその意義を発揮しています。例として、「里山資本主義」を掲げる岡山県真庭市は、2億円の投資を実施しています。市のウエブサイトには、以下のように記されており、投資の意義、投資のリターンの活かし方、投資先とのつながりを深めていくという意図も表明されています。

「真庭市では、子どもたちがSDGsの理解を通じて、世界的な視野を持って育ってもらうことを願い、JICA(独立行政法人国際協力機構)がソーシャルボンド(社会貢献債)として発展途上国支援のために発行する、JICA債への投資を実施しました。

運用益は、真庭の子供たちの国際的視野を育むための事業に活用します。

また、真庭市では、JICA職員や青年海外協力隊員OB等による国際協力に関する出前授業の開催なども検討しています。」

JICA債で調達された資金は、全額がJICAの実施する貧困削減、人材育成、インフラ整備事業など開発途上国の社会課題を解決するための有償資金協力事業に活用されます。また、JICA債への投資は、開発途上地域の貧困削減・持続可能な経済成長支援を後押しする観点、また、地球規模の環境問題・社会課題の解決に貢献することで持続可能な国際社会づくりにつながるという観点から、サスティナブルなESG投資としての性格・意義を有するといえます。

 

2017年3月、世界銀行グループの国際復興開発銀行(IBRD)が、SDGs(持続可能な開発目標)の達成度合いに連動する債券の発行を発表しました。ジェンダーの平等、保健、持続可能なインフラ整備などの国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)実現を推進する企業の株価に連動する新たな世銀債がSDGs債です。

 

社会課題・環境問題の解決に貢献する多様な債券

社会課題・環境問題の解決に貢献する多様な債券の誕生の背景には、SRI(社会的責任投資原則)や国連の投資責任原則等の登壇があります。投資に責任が伴うという発想です。だからこそ、「良きことへの投資をする、悪しきことへの投資はしない」ということで、投資家の姿勢を示すという考え方です。

もう一つは、寄付行為とそれに伴う税額控除等の制度化のように、良い事業を社会の構成員の皆で支えていくという発想でしょう。クラウドファンディングによる資金集めも定着してきました。

「投資」を考えるほど資金はないわ、という人は、消費者として「どんな商品を買うか」、「どこのサービスを受けるか」、などということを考えてみても良いでしょう。そうした一つひとつの「選択」が社会を構成すると思うと、意義深さを覚えます。

最後に、SDGsとかESGって何でしょうか?横文字でとっつきにくいですし、特に「SDGs」なんて一口では説明できません。一口で説明するとすれば、「幸せになるために大事にしたいこと」になるでしょうか。一つひとつを見ていくと当たり前のことですし、“インテグレーション(統合的)とインターリンケージ(相互連携)”なんて難しい用語を使われますが、そもそも環境政策だけ良い社会も想定できないし、福祉だけ突出してすばらしい国もないですし、人権政策だけ整っている国も存在しないですよね。環境問題や人権に配慮している会社のガバナンスが最悪なわけもないですよね。人権に配慮していれば、環境問題も自ずとその射程に入っていくことでしょう。

そうなんです、「あたりまえのこと」をわざわざ形にして用語を当てはめただけのことなのだと思います。ですから、特別なことをするのもわくわく感があって良いでしょうが、日々のことを大切に実直に進めていくのがSDGsでありESGだと思います。

 

以上