「ビジネスに関わる行政法的事案」第14回:(新法)チケット不正転売防止法ってどんな法律?

第14回:(新法)チケット不正転売防止法ってどんな法律?        神山 智美(富山大学)

 

はじめに

私ごとながら、筆者には年頃の(←「年頃」なんて言葉はすでに死語とも思えますね。)娘がおります。彼女はアイドルが大好きで、ファンクラブにも入っており、ライブとか観劇によく出かけます。たまに、「チケット余っちゃった。友達が行けなくなった。」なんて言って、その対応(他人に譲ったり、代わりに行ってくれる人を見つけたり、)をしています。

ジャニーズ事務所所属の「嵐」のファンが、「何でもするのでチケット譲ってください」と書いた紙掲げて駅前に並んでいる様子などが報道されたこともありました。入手したい人には、何としてでも入手したいものなのでしょう。であれば、市場原理に則り高額取引すればよさそうにも思いますが、販売側は手に届かないような遠くのアイドルにしたいわけではないので、(中高生が入手できなくなるようなほどの)高額化も避けたいと思っているようです。

ネットオークションに代わるものやダフ屋行為は昔からあったのでは?

ウェブ上では、インターネットがなかった時代には「チケットが入手困難なアーティストのライブでも、会場に行けばほとんど何とかなった。誰かしら定価で譲ってくれた。」等という回想を目にした。そういえば、会場あたりには、余ってしまったチケットを買い取ってくれる人も、譲ってくれる人もいたなと思いだされる。人気のあるアーティストだと、少々高額だったかもしれないが、当日券は高いのでやむなしとも思えた。

このように、現地に行けば何とかなる(何とかしよう!)という熱い思いから、「○○から来ました。チケットゆずってください。」というプレートを準備して出かけてくるファンもいるのでしょう。

 

こうした現場で活躍するのが「ダフ屋」といわれる職業です。ダフ屋とは、スポーツや音楽ライブ、映画などのチケットについて、転売する目的で購入したり、公衆に転売したりする生業(なりわい)を指します。このダフ屋を取り締まる法律としては、古物営業法や迷惑防止条例が挙げられますが、インターネット上のダフ屋行為については、規制環境が完全には整えられていないため、「チケット不正転売防止法」が制定されました。

 

なぜ「ダフ屋」行為は禁じられるのか?

市場原理に則れば、人気がある(需要がある)ものは高額で売買されるのは当然ですし、安く仕入れてそれに利益を載せて転売するのが商売だとすれば、決して咎められる行為でもないように思います。そこに含まれる手間を考えれば、チケットを売りたい人からチケットを欲しい人への転売は、十分に商売として成り立つのではないでしょうか。昔話の「わらしべ長者」も、求められるモノを求める人に渡しながら、財を築きましたね。

ここで浮かび上がる「なぜダフ屋行為は禁じられるのか?」という疑問に関しては、長嶺超輝さん(ライター)の記事(ニューズウイーク日本版 2016年5月31日)等を参考にして説明します。

禁じられる理由は、①不当に高額の利益を得るから、②反社会的勢力(暴力団等)の資金源になる可能性があるから、③エンターテイメントの雰囲気を壊すから、④エンターテイメント業界が被害に遭っているから(本来はエンターテイメント業界が得るべき利益をダフ屋が得ているから)等が挙げられています。なかでも筆者は、④の理由には大変うなずけています。というのも、ダフ屋は、エンターテイメント業界が安めに提供したチケットを高額化する存在だからです。「だったら最初から高く売ればいいじゃないの。それでも売れるのだから。」という声が聞こえてきそうですが、高額では買えないファンのためにエンターテイメント業界がせっかく値段を抑えているのに、という思いを無駄にしたくはありません。

 

従来の規制方法は、古物営業法や迷惑防止条例

では、これまでダフ屋は、どのように規制されてきたのでしょうか。

まず、転売行為を反復して行う場合には、古物営業法における許可が必要になります。(詳しくは第13回を参照してください。)ネットオークションサイトの経営も、同法による「許可」を得るという形で規制されています。なお、「古物」という表現に違和感を抱かれる方もいらっしゃるでしょう。というのも、未使用のチケットだから古物とは言えないと感じられるからですね。古物営業法における「古物」は、「使用されない物品で使用のために取引されたもの」も含むことに注意を要します。

〔古物営業法〕

(定義)

第二条 この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(略)で政令で定めるものを除く。以下略)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。

2 この法律において「古物営業」とは、次に掲げる営業をいう。

一 古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの

二 古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場をいう。以下略)を経営する営業

三 古物の売買をしようとする者のあつせんを競りの方法(略)により行う営業(略)

 

次に、迷惑防止条例による規制の例として、東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では、以下のように「ダフヤ行為」(乗車券等の不当な売買行為)は規制されています。

〔公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都)〕

(乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止)

第二条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(略)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(略)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。

2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。

つまり、対象になっているチケット(乗車券等)は、「乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物」です(2条1項前段)。ダフ屋に売ることを目的として購入する行為も規制されています(2条1項後段)。

ダフ屋の定義は2条2項の規定が参考になります。「転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売」る行為が、規制対象とされているダフヤ行為であると読み取れます。そのため、インターネットオークションは、同条例の規制は受けないことになります。

 

IDチェックや本人確認厳格化はもう始まっている?

ダフ屋行為を規制するために、既にIDチェックや本人確認厳格化のための方策がとられてはじめています。

顔認証システムが導入されていると、入場のときの手間がかかるようにはなりますが、やむを得ないかもしれません。それを知らずに高額転売されたチケットを購入したのに、入場できなかった人もいらっしゃるのではないでしょうか。皆さん、気を付けましょう。

チケット不正転売防止法とは?

こうした仕組みが法規制されることになった立法が、2018(平成30)年12月に成立したいわゆるチケット不正転売禁止法(正式には「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」)です。同法の施行は、2019(令和元)年6月14日からとなります。

チケット不正転売禁止法で、不正転売が禁止されるのは、「特定興行入場券(チケット)」のです(2条3項、3条)。不正転売を目的として、「特定興行入場券(チケット)」を譲り受けることも禁止されます(4条)。

禁止の対象となるのは、次の1から3のいずれにも該当する「映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせること(2条1項)」のチケットです(2条3項各号)。そのため、これらに該当しないチケット、例として招待券などの無料で配布されたチケット、転売を禁止する旨の記載がないチケット、販売時に購入者または入場資格者の確認が行われていないチケット、日時の指定のないチケットなどは、同法の規制の対象外となります。

1.販売に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨が券面(電子チケットは映像面)に記載されていること(2条3項1号)。

2.興行の日時・場所、座席(または入場資格者)が指定されたものであること(2条3項2号)。

3.例えば、座席が指定されている場合、購入者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレス等)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されていること(2条3項3号)。

 

〔特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律〕(いわゆる「チケット不正転売禁止法」)

(定義)

第2条

3 この法律において「特定興行入場券」とは、興行入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 興行主(略)が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(略)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。

二 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(略)又は座席が指定されたものであること。

三 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。

イ 入場資格者が指定された興行入場券 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレス(略)その他の連絡先(略)

ロ 座席が指定された興行入場券(略) 購入者の氏名及び連絡先

4 この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。

(特定興行入場券の不正転売の禁止)

第3条 何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない。

(特定興行入場券の不正転売を目的とする特定興行入場券の譲受けの禁止)

第4条 何人も、特定興行入場券の不正転売を目的として、特定興行入場券を譲り受けてはならない。

 

その日に行けなくなった場合、チケットは無駄になるのか?

法律の趣旨や仕組みはわかりましたが、チケット購入はかなり事前にしますので、当初は自分で行くつもりで購入したのに、都合が悪くなることはよくあることです。そのようなときには、うがいチケットは無駄になってしまうのでしょうか。会場を空席にするのも申し訳なく思いますよね。

そうしたときには、興行主の同意を事前に得ているリセールサイトを活用しましょう。

今後は、こうした「興行主の同意を事前に得ているリセールサイト」が、すべての特定興行入場券に対して準備されているのか、そこへのアクセスが確保されているのかということが重要になってくると考えます。消費者庁には、不正転売だけでなく消費者の利益を守る仕組みの構築にも一層尽力してほしいと思います。

以上