「ビジネスに関わる行政法的事案」第47回 愛玩動物看護師法について ―動物の看護師という国家資格の誕生
第47回 愛玩動物看護師法について ―動物の看護師という国家資格の誕生 神山 智美(富山大学)
はじめに
「動物のお医者さん(獣医師)」、「動物病院の看護師さん」や、動物園や水族館の飼育員というのは、子どもたちの人気の職業のように思っています。というのも、私の娘の一人がなりたがっていたからです。
しかしながら、2021年度の「小学生の『大人になったらなりたいもの』」アンケートには、それらは出てきません(図表1)。ただ、女子の第6位に「看護師」がありますので、広い意味では、ここに含まれているかもしれないとは思えますね。
ちなみに、ファンタジーの世界では、「動物の看護師さん」というと図表2の左側のイメージかもしれませんが、右側のお話ですので、念のため・・・。
今回は、2019(令和元)年6月に制定された、愛玩動物看護師法という、これまで民間団体の認定資格であった動物看護師を国家資格とする法律に関するお話です。
立法前:民間資格だった動物の看護師
同法が制定されるまでは、民間の動物津看護師(士)資格が複数ありました。例えば、(公社)日本動物病院協会の「動物看護士」(1級から3級)、(一財)職業技能振興会で認定していた「動物看護技能師」、さらに、(NPO法人)日本動物衛生看護師協会が認定する「動物衛生看護師」等です。
このように複数存在していたのですが、動物看護師ニーズが高まってきていて、動物看護師の知識・水準や資格価値を一定以上に高める目的で、(一財)動物看護師統一認定機構が発足しました。これを機会に、動物看護師資格を認定していた民間団体も、統一的な「動物看護師統一認定試験」に移行しています。
制度改変:「置いてきぼりされる人をつくらない工夫」
仕組みが変わるときに求められるのは、制度改変に「置いてきぼりされる人をつくらない工夫」をすることです。今回もそうした設計が丁寧になされています。
まず、一般的なルートを構築します。これから動物看護師を目指す人は、大学等で専門的に学び、国家試験を受験することになります(図表3)。
次に、既卒者や在学者という、動物看護師になろうとして学んでいる途中の人たちには、このようなルートが準備されています(図表4)。
最後に、既に動物看護師として現場で活躍している人たちには、以下のようなルートが準備されています(図表5)。国家試験を受験することで有資格者となりますが、そのためにわざわざ大学に入学するのではなく、「予備試験」という仕組みが創られています。
跡から正式な制度が構築されるとなると、既にその仕事についている人は、「もう現場で働けているのに、わざわざ資格取得なんて…」と思われることと思います。勉強しなおすのって、時間とお金もかかりますし、煩わしいこともありますよね。しかしながら、改めて勉強しなおすと、いくつかの発見もあります。また、社会人の「学び直し」の機会の確保は、重視されてきています。そのため、せっかくできた制度ですから、有効に前向きに活用していただければと思います。
愛護動物看護師法の目的
では、この愛玩動物看護師法をみていきましょう。まず同法の目的を確認してみます。目的は、新しい法律であれば、第1条に明記されていますので、第1条を確認します。すると、愛玩動物看護師の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって愛玩動物に関する獣医療の普及および向上ならびに愛玩動物の適正な飼養に寄与することを目的としていることがわかります。そしてその試験に合格することで、愛玩動物看護師の免許を取得することが、第3条に規定されています。
〔愛玩動物看護師法〕
第1条 この法律は、愛玩動物看護師の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって愛玩動物に関する獣医療の普及及び向上並びに愛玩動物の適正な飼養に寄与することを目的とする。
第3条 愛玩動物看護師になろうとする者は、愛玩動物看護師国家試験(以下「試験」という。)に合格し、農林水産大臣及び環境大臣の免許(略)を受けなければならない。
愛玩動物看護師のできること(業務)
では、愛玩動物看護師は具体的にどういう業務を行うのでしょうか?もちろん、お医者さんとしては獣医さんがいますので、チーム医療を推進するなかで、そのサポートを行うということになるのでしょう。
愛玩動物看護師の定義は、同法2条2項に記されています。これによれば、①診療の補助、②疾病にかかり、または負傷した愛玩動物の世話その他の愛玩動物の看護ならびに、③愛玩動物を飼養する者その他の者に対するその愛護および適正な飼養に係る助言その他の支援を業とする者と規定されています。
〔愛玩動物看護師法〕
第2条2 この法律において「愛玩動物看護師」とは、農林水産大臣及び環境大臣の免許を受けて、愛玩動物看護師の名称を用いて、診療の補助(愛玩動物に対する診療(略)の一環として行われる衛生上の危害を生ずるおそれが少ないと認められる行為であって、獣医師の指示の下に行われるものをいう。以下同じ。)及び疾病にかかり、又は負傷した愛玩動物の世話その他の愛玩動物の看護並びに愛玩動物を飼養する者その他の者に対するその愛護及び適正な飼養に係る助言その他の支援を業とする者をいう。
ところで、愛玩動物の範囲は?
ところで、愛玩動物看護師が扱う愛玩動物というのは、どういう動物のことなのでしょうか?「愛玩動物」=ペット、と捉えると、実に広範囲の愛玩動物が飼われています。
犬、猫はポピュラーなものの代表ですが、フクロモモンガ、カメレオン、カメ、ヒョウモントカゲモドキ(ヤモリの一種でレオパ、レオパードゲッコーとも言われます。)等もよく聞きます。見慣れない動物に十分な対処ができると思えませんが、運び込まれれば対処しないわけにおいかないようにも思います。そのあたりはどうなっているのでしょうか?
ちなみに、人気のペットランキング(1から20位)は以下です(図表6)。毛の生えた温かい血が流れたモフモフ系の動物や、かわいらしい生き物が多いですね。
愛玩動物看護師が関与する愛玩動物は、2条1項に規定されています。獣医師法17条に規定する飼育動物のうち、犬、猫その他政令で定める動物をいうとされています。政令で定める動物としては、オウム、インコ等の愛玩鳥が想定されています。
他方、獣医師は、獣医師法1条に規定するように、獣医師は、「飼育動物」に関する診療及び保健衛生の指導その他の獣医事をつかさどることによって、動物に関する保健衛生の向上および畜産業の発達を図り、あわせて公衆衛生の向上に寄与するものとされている。つまり獣医師が扱う範囲は「飼育動物」であり、この範囲は、1条の2で「一般に人が飼育する動物」をいうとされている。例示として、獣医師法17条で、「飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)」と記述されている。つまり、愛玩動物看護師の扱う愛玩動物と、獣医師が扱う飼育動物とは、範囲が異なることに注意を要する。
〔愛玩度物看護師法〕
第2条 この法律において「愛玩動物」とは、獣医師法(略)第17条に規定する飼育動物のうち、犬、猫その他政令で定める動物をいう。
〔獣医師法〕
第17条 獣医師でなければ、飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。
〔獣医師法施行令〕
第2条 法第17条の政令で定める飼育動物は、次のとおりとする。
一 オウム科全種
二 カエデチョウ科全種
三 アトリ科全種
これらの条文から、愛玩動物看護師が扱う愛玩動物は、犬、猫、愛玩鳥(オウム科全種、カエデチョウ科全種、アトリ科全種)です。愛玩鳥の具体例を以下に示します。
オウム科全種 | セキセイインコ、オカメインコ、ボタンインコ、ヨウム等 |
カエデチョウ科全種 | ブンチョウ、ジュウシマツ等 |
アトリ科全種 | カナリア等 |
結び
愛玩動物看護師についてお分かりになったでしょうか?
依然としてはっきりしないのが、愛玩目的で買っている生きものの全てを扱えるわけではないし、獣医師さんでさえもかなり限定的な範囲の生き物の診療をしていることがお分かりになったのではないでしょうか。
ところで、ミニブタというペットがいますが、これが動物病院に持ち込まれたときに、愛玩動物看護師はケアすることが可能なのでしょうか?愛玩目的では飼っていますが、愛玩動物看護師法上の愛玩動物には該当しません。このように、この愛玩動物というのは動物種を定めるものですので、犬や猫は、愛玩目的で飼われていなくとも、愛玩動物に該当します。
しかしながら、「愛玩動物」の定義に含まれない動物についても、愛玩動物看護師は診療の補助を除くその業務(看護、愛護・適正飼養支援等)を実施することは可能です。
以上
(参考)
拙稿「米国(カナダ含む)の動物看護師(VT)に関する法制度について」、(公財)『平成30年度 諸外国における環境法制に共通的に存在する基本問題の収集分析業務報告書―Part2 自然保護関係―』2019(平成31)3月 95-119頁。
第一生命保険株式会社 「第32回『大人になったらなりたいもの』調査結果を発表 コロナ禍で人気の職業は男子『会社員』、女子『パティシエ』」2021 年3月 17 日
https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2020_102.pdf
文部科学省 「学び直しについて」
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/manabinaoshi/index.htm (2022年4月9日最終閲覧)
島谷聡一「法律解説[環境] 愛玩動物看護師法 令和元年6月28日法律第50号」法令解説資料総覧462号21-24頁。
環境省「動物の愛護と適切な管理」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/kangoshi/index.html (2022年4月10日最終閲覧)