「ビジネスに関わる行政法的事案」第5回:入札・契約について 〜 公募手続編
第5回:入札・契約について 〜 公募手続編 神山 智美(富山大学)
一般競争入札が原則
法律の保護法益は、正義と衡平(バランス)です。これを実現するために、「公」の機関は、税金を使っていろいろな事業を行っています。ただし、「公」の機関自らがすべての事業を直接に実施するわけではありません。それらの多くは、民間事業者らとの契約で進めるでしょうし、そのための多くの物資を購入・調達する契約を民間事業者らと締結しています。
その契約先の選定は、随意(思うまま、任意)に行ってよいわけではありません。地方公共団体における諸契約は、その財源が税金によって賄われるものであるため、より良いもの、より安いもの、適時に調達できるものを選択しなくてはなりません。つまり、より効果的かつより合理的なものを選ぶことになります。まさしく正義と衡平の観点が求められます。
そのため、地方公共団体が発注を行う場合には、不特定多数の参加者を募る調達方法である「一般競争入札」が原則とされています(地方自治法(昭和22年法律第67号)234条1項、2項)。これは、事業者同士を競わせるという点では、民間企業同士が行う、「コンペ(コンペティション)」と似ています。一定の課題を出して複数の民間事業者らにその内容とそれに伴う見積もり等を競わせ、最も適切な事業者を選定することです。
地方自治法
(契約の締結)
第234条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
指名競争入札や随意契約を行う場合
一方、この原則を貫くと効果的かつ合理的とはいえない場合もでてきます。契約の準備に多くの作業や時間が必要となり、結果として当初の目的が達成できなくなるなどの弊害が生じることがあり得ます。例として、そもそも事業遂行のために必要な技術力を持つ企業が限られている場合等が当てはまります。こうした場合には、該当企業による競争入札を実施した方が効率的でしょう。
このため、「指名競争入札」や「随意契約」による調達が例外的な取り扱いとして認められています(前記地方自治法234条2項)。
指名競争入札とは
指名競争入札とは、「地方公共団体が資力、信用その他について適切と認める特定多数を通知によって指名し、その特定の参加者をして入札の方法によって競争させ、契約の相手方となる者を決定し、その者と契約を締結する方式」のことです。
指名競争入札によることができる要件は、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)167条で以下のように規定されています。
次のいずれかに該当する場合は、指名競争入札によることができる。
①契約の性質・目的が一般競争入札に適しない契約をするとき。
②契約の性質・目的により、入札に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である契約をするとき。
③一般競争入札に付することが不利と認められるとき。
指名競争入札の長所は、一般競争入札に比して不良・不適格業者を排除することができること、および一般競争入札に比して契約担当者の事務上の負担や経費の軽減を図ることができることです。短所は、指名される者が固定化する傾向があること、業者数が限られているのでおよび談合が容易であることです。
発注機関が指定した者だけの中で競争をするわけですから、どうしても不正の温床になりがちであるという懸念があります。
随意契約とは
随意契約とは、「地方公共団体が競争の方法によらないで、任意に特定の者を選定してその者と契約を締結する方法」です。
地方自治法施行令167条の2第1項で次のいずれかに該当するときは、随意契約によることができるとされています。
①契約の予定価格が自治令別表第五で定める額の範囲内において地方公共団体の規則で定める額を超えない契約をするとき。
②契約の性質・目的が競争入札に適しない契約をするとき。
③地方公共団体の規則で定める手続により、法令で定められている障害者関係施設、認定生活困窮者就労訓練事業を行う施設、シルバー人材センターで生産される物品を買い入れる契約または役務の提供を受ける契約をするとき。
④地方公共団体の規則で定める手続により、いわゆるベンチャー企業として総務省令で定める手続による地方公共団体の長の認定を受けたものより新商品として生産する物品を買い入れ若しくは借り入れる契約または新役務の提供を受ける契約をするとき。
⑤緊急の必要により競争入札に付することができないとき。
⑥競争入札に付することが不利と認められるとき。
⑦時価に比べ著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。
⑧競争入札に付し入札者がないとき、または再度の入札に付し落札者がないとき。
⑨落札者が契約を締結しないとき。
随意契約の長所は、競争に付する手間を省略することができ、しかも契約の相手方となるべき者を任意に選定するものであることから、特定の資産、信用、能力等のある業者を容易に選定することができること、および契約担当者の事務上の負担を軽減し、事務の効率化に寄与することができることです。短所は、地方公共団体と特定の業者との間に発生する特殊な関係から単純に契約を当該業者と締結するのみではなく、適正な価格によって行われるべき契約がややもすれば不適正な価格によって行われがちであることです。
発注側には、なぜその事業者でなければならないのかということの明確な理由が求められます。緊急の必要がある場合でも、「時間がなかった」だけでは済まされません。なぜ緊急になってしまったのか(なぜ時間が足りなくなったのか)ということの明確な説明が求められると筆者は考えます。
「地域活性化」のための施策
地域活性化の観点からは、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」(昭和41年法律第97号)に基づき、地方公共団体は、国の施策に準じて、中小企業者の受注の機会を確保するために必要な施策を講ずるように努めなければならないとされています。
また、地方自治法施行令では、入札に参加する者の資格要件について、事業所所在地を要件(いわゆる地域要件、地方自治法施行令167条の5の2)として定めることを認めるとともに、*総合評価方式による入札では、一定の地域貢献の実績等を評価項目に設定し、評価の対象とすることが許容されており、これらをもって地元企業の受注機会の確保を図ることが可能となっています。
つまり、各地方公共団体には、地元企業に受注させ地域経済に貢献することも求められているのです。そのため、地方公共団体の契約について定める地方自治法では、最も競争性、透明性、経済性等に優れた一般競争入札を原則として掲げつつ、一定の場合には、指名競争入札、随意契約による方法により契約を締結することが認められています(地方自治法234条1項、2項)。
中小企業者の官公需における受注機会の確保を目的とした条例を制定している自治体の例として、「新潟県中小企業者の受注機会の増大による地域産業の活性化に関する条例」(平成19 年10 月17 日制定条例第65 号)を制定している新潟県があります。また、中小企業振興等のための条例において、中小企業者の官公需における受注機会の確保を規定している自治体として、「青森県中小企業振興基本条例」(平成19 年12 月19 日条例第85 号)を制定している青森県があります。
官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(目的)
第1条 この法律は、国等が物件の買入れ等の契約を締結する場合における新規中小企業者をはじめとする中小企業者の受注の機会を確保するための措置を講ずることにより、中小企業者が供給する物件等に対する需要の増進を図り、もつて中小企業の発展に資することを目的とする。
地方自治法施行令(地域要件)
第167条の5の2 普通地方公共団体の長は、一般競争入札により契約を締結しようとする場合において、契約の性質又は目的により、当該入札を適正かつ合理的に行うため特に必要があると認めるときは、前条第1項の資格を有する者につき、更に、当該入札に参加する者の事業所の所在地又はその者の当該契約に係る工事等についての経験若しくは技術的適性の有無等に関する必要な資格を定め、当該資格を有する者により当該入札を行わせることができる。
*総合評価方式とは
工期、機能、安全性等の価格以外の要素と価格とを総合的に評価して、最も評価の高い者を落札者として決定する方法(地方自治法施行令167条の10の2第1項)(平成11年2月から導入、平成20年2月一部改正)
入札の適正化のために
こうした入札は、適正になされねばなりません。そのため、手続きも厳格に定められています。また、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(入札契約適正化法、平成12年法律第127号)も制定され、入札契約適正化のための取組がなされています。
入札契約適正化法(目的)
第1条 この法律は、国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共工事の入札及び契約について、その適正化の基本となるべき事項を定めるとともに、情報の公表、不正行為等に対する措置、適正な金額での契約の締結等のための措置及び施工体制の適正化の措置を講じ、併せて適正化指針の策定等の制度を整備すること等により、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図ることを目的とする。
このように入札については手続きも厳格に定められ適正化が図られているはずなのですが、入札者と業者間でのトラブルも絶えません。
業者が入札者を訴えた事例を2件紹介します。
1.公募手続違法に基づく損害賠償請求事件(福岡高判平成27年7月29日・判自415号68頁)
先ずご紹介するのは、競争入札(公募)において、官公庁等の発注機関の職員の説明が不正確であった(間違っていた)ため、こうした説明行為に違法性が認められ、応募した事業者における損害の発生が裁判所によって認められた事例です。
具体的には、次のような事案です。
松浦市内において建築設計業を営む原告Xが、被告である松浦市(Y)の実施した国民宿舎の基本設計業務委託者選定に伴う氏名型プロポーザル方式による公募手続きに参加しました。その折に、Xは、審査委員会におけるYの職員の違法な説明等により、Xの公正かつ適正なプロポーザル方式による審査を受ける利益が害されたなどと主張して、Yに対し、国家賠償法1条1項または不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき損害金の支払を求めました。
裁判所は、Yの職員には、審査委員らに対し、重要事項について正確な説明をし、本件プロポーザルの審査の公正さおよび適正さを確保すべき義務があるところ、Yの職員は、重要事項について不正確かつ誤った説明をしたと認定しました。そこで、被告職員の行為は、審査の適正さを確保すべき義務に違反したとして、Xの請求を一部認容しました。
判決文の中で、以下のように述べています。「Y職員Mは、第2回委員会において,審査委員らに対し、長崎県職員に確認したところ、X提案書記載の施設は、自然公園法上の許可が得られないものであることが判明したと説明し、他方、許可によるのではなく、公園事業の執行として建設できる余地があったにもかかわらず、この点を黙過しており(略)、全体として誤った説明をしたといえる。そして,原告の提案が自然公園法に抵触するか否かは審査に影響する重要な事項といえる。(改行)また、Y職員M及び同Nは、前記(略)の事情がありながら、その事情を審査委員ら及び本件プロポーザルの参加者に説明しなかった。(中略)被告職員は審査に影響する重要な事項について不正確な説明をしたといえる。」
裁判所は、Y職員には、審査委員らに対し、重要事項について正確な説明をし、本件プロポーザルの審査の公正さおよび適正さを確保すべき義務があるところ、上記のとおり、重要事項について不正確かつ誤った説明をしたため、上記義務に違反したとしました。よって、この行為は違法であると判断したのです。
そのうえで、裁判所は、本件プロポーザル及びその後の経緯等本件に現れた一切の事情を考慮し、原告の公正かつ適正なプロポーザル方式による審査を受ける利益を害されたことに対する慰謝料として80万円を認めるのが相当であると判示しました。
なお、X は、この事案に関してY市長及びY議会議員に対してYの主張する内容をメールで送り、Xに対して便宜を図るよう求めています。また、裁判では認定されていませんが、XはY職員を恫喝し審査結果を覆そうとしたと、Yは主張しています。他方、裁判所は、Y職員の違法な説明がなければ、当然にXが本件の基本設計業務および設計監理業務の受託ができたとまで認めることはできないとしています。そのうえで、裁判所は、こうした行為を行っているとしても、Xは公正かつ適正なプロポーザル方式による審査を受ける利益を害されたことに対する慰謝料を受取る理由があると判断したのです。
2.国家賠償請求控訴事件(仙台高判平成19年10月31日・判タ1272号133頁)
次にご紹介するのは、被告町(Y)が実施する指名競争入札の参加資格を有する建設業者である原告4社(Xら)が、町政を批判する文書を配布したとして、被告から恣意的に町の発注する建設工事の指名を2年近く回避された(指名から外された)として、国家賠償法1条1項に基づき、受注を受けていたならば得べかりし利益相当額の損害賠償を請求した事案です。
裁判所は、XらによるY(町政)を批判する文書の配布等はいずれも町による指名競争入札の指名基準および運用基準に定める指名回避事由に該当するとはいえず、YがXらに対して行った本件指名回避は、指名競争入札における業者の指名に係るYの裁量権の範囲を超えまたはこれを濫用したものであるため、いずれも違法であるとして、原告らの請求をいずれも一部認容しました。
お互いの主張について、裁判所は次のように判断しています。
まず、Yが主張したXの一部の者が過去の談合に参加したという事実の有無については、「調査委員会も,結論的には,被控訴人(X)らも含め,談合があったと断定するには至らなかった」のだから、建設業者が過去に談合を行なったとの具体的事実を認めるのは困難であることを述べています。
次に、Xらは、町議会議員およびYに文書を送付しているのですが、この送付した文書は町政に関する政治的意見表明や批判を目的とするものであるとしています。また仮に同文書に町長等の名誉を毀損する内容が含まれていても、それに対する報復手段として指名競争入札の指名を回避することは許されないことを明確にしています。
最後に、Yが主張するXらの固定資産税の滞納、工事内容の瑕疵、工事の履行の遅滞および入札指名を受けたにもかかわらず入札を辞退した行為は、建設工事指名競争入札者の指名基準および運用基準にいう不誠実な行為に該当するとはいえないと判断しています。
そもそも、地方自治法上の指名競争入札において、入札参加者の指名基準にいう「不誠実な行為が認められるとき」とは公共工事の請負人としての適性を有しないときを指し、公共工事の観点から離れた不誠実性一般をいうものではないから、町政を誹謗中傷する文書を配布した事業者について、指名委員会において事前に当該事業者の指名を回避するよう申し合わせた上で、同委員会の暗黙の合意として指名回避に至った場合であっても許されず、建設業者に対して行なわれたこの指名回避は、指名委員会の裁量権を逸脱または濫用したものと判示されました。
X らとYとの関係は、かなりこじれていたのだということがわかりますね。
入札に参加する事業者等には、談合等の不正をしないことが求められています。他方、入札を実施する官公庁等の発注機関にも、(たとえ気に入らない事業者であったとしても、)誠実な対応、すなわち公正かつ適正な審査を実施するための義務が課せられているということです。
以上