「ビジネスに関わる行政法的事案」第18回:テレワーク、ダブルワーク、パラレルワークって何?
第18回:テレワーク、ダブルワーク、パラレルワークって何? 神山 智美(富山大学)
はじめに
第17回目に、デュアラー(都心と田舎の2つの生活=デュアルライフ(2拠点生活)を楽しむ人たちのこと)、デュアルライフについて少しふれました。単なる職場都合の単身赴任ではなく、意図的に2つの地点での生活を確保する生き方のようです。
こうした人たちの働き方に多いのが、テレワーク、ダブルワーク、パラレルワーク等といわれるものです。テレワーク(telework)は、働き方というよりは、情報通信技術(ICT, Information and Communication Technology)を活用し時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働く形態のことをいいます。「tele = 離れた所」を指すようです。(ダブルワーク、パラレルワークについては後述します。)
また、副業解禁ということも話題になりました。私のゼミの卒業生の中には、卒業式目前に、「G.W.(ゴールデンウイーク)は、元のバイト先を手伝います。副業OKになったんだからいいでしょう。」なんて言った人もいましたが、それは認識が間違っています。
「働き方改革」における変更
2018(平成30)年7月、労働基準法改正をはじめとするいわゆる「働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が成立しました。2019年(平成31)年4月から順次施行されています。これは、労働基準法の一部改正となります。平成最後の、いえ、令和の大改革と位置付けられています。
改正理由は、「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を推進するため、時間外労働の限度時間の設定、高度な専門的知識等を要する業務に就き、かつ、一定額以上の年収を有する労働者に適用される労働時間制度の創設、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者と通常の労働者との間の不合理な待遇の相違の禁止、国による労働に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針の策定等の措置を講ずる必要がある。」とされています。たしかに、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が叫ばれていますね。
厚生労働省のモデル就業規則
労働基準法第89条で一定の条件を満たす企業(事業場)は、必ず就業規則を作成しなければならないと定めています。そのため、厚生労働省は、「モデル就業規則」というものを公開しています。
それが平成31年3月に改訂されました。どこが変わったでしょうか?遵守事項を決めた第11条6号の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」が削除されているのがわかりますか。
この削除をもって、許可があれば他の会社の業務に従事しても法律的に問題がないことと解釈されています。ただし、これはあくまでもモデル就業規則においてということですので、あなたの勤める会社の「就業規則」を確認する必要があります。もちろん、その中で「副業禁止」と明記されていれば、当然副業をするべきではありませんし、すれば法律的な問題も生じます。
〔労働基準法〕
第89条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。(以下略)
モデル就業規則(平成31年3月改訂以前)
(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
1 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
2 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
3 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
4 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
5 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩(ろうえい)しないこと。
6 許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
7 酒気を帯びて就業しないこと。
8 その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。
モデル就業規則(平成31年3月版)
(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
①許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
②職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
③勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
④会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
⑤在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
⑥酒気を帯びて就業しないこと。
⑦その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。
副業を認める企業は
ちなみに、少しずつ副業解禁に踏み切る企業も増えていますが、それでも全体の28.8%(株式会社リクルートキャリア 兼業・副業に対する企業の意識調査(2018))のようです(図表2左参照)。
また、会社が兼業・副業を禁止する理由としては、「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」「労働時間の管理・把握が困難なため」「情報漏えいのリスクがあるため」が上位3件でした。たしかに、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進するために総労働時間の管理が求められており、副業をされてはその管理が難しくなることでしょう。それでも、副業によるスキルアップを会社での仕事に、より生かせることが証明できれば、状況も変わってくるかもしれませんね。
他方、労働者にとっても副業は良いことばかりではありません。副業中に災害に遭えば、その労災保険等の支給は副業を基準に受給することになります。本業中に災害に遭うのと副業中に災害に遭うのとでは、待遇が違う場合には、十分に体調管理等に気を付けてください。つまり、より一層の自己管理が問われてくるのでしょう。
副業とは、兼業とは、複業とは、ダブルワークとは、パラレルワークとは
副業とは、本業に対しての副業という意味ですので、本業の他に何らかのお仕事をしている場合ということになります。兼業とは、2つ以上の仕事を掛け持ちしている場合のことです。「兼業農家」等のように用いられています。複業とは、個人事業主がいくつものビジネスを手掛けているときに用いられており、本業がいくつもある状態=複業と考えるようです。
ダブルワークも、2つ以上の仕事をかけ持っている状態のことで、どちらかの仕事が本業というわけではなく、どちらも同じくらいの時間のかけ方、給与のときに使われているようです。
パラレルワークとは、複数の収入源を持ち、一つの仕事に依存しない働き方ということのようです。
それぞれ微妙にニュアンスが異なるようですが、明確な違いに基づいて使い分けられているとは言い切れません。今後も少しずつ変化していくかもしれません。
ちなみに、株式会社シューマツワーカーという企業が、副業したい人とスタートアップ企業のマッチングサービスなどを運営しています。「副業系サービスカオスマップ2018年度版(図表3参照)」「副業社員活用ガイダンス(資料ダウンロード可能)」等も公開しています。本業ではなく副業のマッチングサービスは、ニーズも影響力も高そうですね。
会社に認められていない副業は正当な解雇理由になるか
法律の話に戻りましょう。会社に認められていない副業がばれると解雇されるのでしょうか?裁判所は、その点については、「就業規則違反=解雇」というわけではなく、かなり丁寧に判断を下しています。
甲府地判平成28年12月6日(労働判例ジャーナル61号29頁)は、自動車教習所を経営する株式会社である被告に自動車教習指導員として雇用されていた原告が、無許可での兼業等として農事組合法人の理事を務めていた事案です。裁判所は、原告が被告の許可を得ることなく農事組合法人の理事に就任していたということは認めました。しかし、そのことや、原告が他の従業員に休日を変更してもらい、農作業の手伝いをしてもらったことによって被告の業務に支障を生じさせた事実は認められないと判断しました。被告は、原告が被告による指導に従わなかったとも主張しましたが、裁判所は、被告が農事組合法人の理事を辞めるよう継続した指導を行っていたとは認められず、原告が被告の指導に従わないという態度を示していたともいえないこと等から、原告を解雇しなければならないやむを得ない事情があったとはいえないため、本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから無効と判断しています。
以下、後半部分に関する裁判所の判断の抜粋です。
「被告が本件解雇についての『やむを得ない事情』として主張する事情のうち、無許可での兼業等については、原告が被告の許可を得ることなく農事組合法人の理事に就任していたことは認められるが、そのことや、従業員に休日を変更してもらい、農作業の手伝いをしてもらったことによって被告の業務に支障を生じさせた事実は認められない。(中略)被告による指導に従わなかったとする点についても、農事組合法人の理事を辞めるようとの指導が継続して行われていたとは認められず、原告が被告の指導に従わないという態度を示していたともいえない。(改行)そして、原告が農事組合法人の理事に就任し、従業員に農作業の手伝いをさせたことについては、平成26年7月11日に、原告の係長職を解き、『役付手当』及び『検定員手当』を不支給とする措置を採り、原告もこれを受入れたのであるから、その後に解雇がやむを得ないと評価すべき他の事情が発生したのでない限り、改めて上記事実を解雇の理由とするのは不当である。(改行)そうすると、本件解雇時において、原告を解雇しなければならないやむを得ない事情があったとはいえない。」
上記を読んで、「えーっつ、無断で副業して、その副業の手伝いを部下にさせてもクビにならないの?!」と驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。解雇する側には、それ相応の指導を尽くしたが改善が認められなかったこと、および当該副業が会社の業務に差し支えるということを証明する義務があるようです。
結び
働き方改革だからといって、皆がIoTを駆使したテレワークにいそしむのでしょうか。副業しながら、プレミアムフライデーに異業種交流会に参加しながら、自己研鑽に励むのでしょうか。
私には幾分ついていけない世界のようには思いますが、それでも、人口減少化社会の中で一人の人が多くの役割を担わねばならない社会が到来することは理解できます。そのときに、柔軟に動けるようには備えたいと思います。
以上